記憶を見る胎児

浮かぶ毬藻

胎動

ヒトが生まれるそのもう少し前


生まれる前のヒトが自らの存在を知らしめるように胎動を起こす


腹の中で暴れまわるやつは元気な子だと言われるのだろう




ところで


生まれた時に既に備わっている本能


あれはいったいどこから来るのだろうか


皆が皆、一様に似通った姿で生まれるのは何故であろうか


子が親に似るのは何故なのか




閑話休題


ヒトは生まれる前


受精卵から魚類のような形を取り、爬虫類のようになり、鳥のようになり


まるで進化の過程を急ぐように変態する


脈々と受け継がれる血脈を辿るように




もし、本当に血脈を辿っていたとすれば如何であろうか


親に似るのもそうなのかもしれない


それぞれ両親の好ましい所を受け継ぎながら新たな生命として進化し続けながら


生れ落ちる




本能も受け継がれるものではなかろうか


生きる上での死なないための手法


死にかけたりした時にその災悪を耐え抜いたその手法を


当時の恐怖と共にそっくりそのまま受け継いでいるのではないだろうか


危険なものとそうでないもの


何も知らない赤ん坊はヒトの作った危険なものに興味本位で近づけど


自然界の恐怖には本能で怯える


その差は受け継ぐ記憶の中に恐怖の対象として残っているか否か


それだけなのではなかろうか




臓器提供を受けると人格が臓器提供者に寄ると聞いたこともあるかもしれない


それは受け入れた臓器の細胞が血液が血脈がそうさせるのである


過去の記憶の集合体が自らを守るために語り掛けるのだ




自然界の危険は


それを味わった恐怖と共に


それに近づかぬよう


理性の付く前の脳の


奥底深くに


強く強く刻み込まれるのだ


二度と忘れない程に


いくら理性で固めても足がすくむように


けして抗えない程の恐怖を


胎児に与えるのである


記憶を見る胎児は


その恐怖をそっくりそのまま見て、感じて


恐れおののいて苦しみから逃げようと、もがくのである 足掻くのである




そして自分を斯くも追い詰めたこの世の全てを憎み 呪い


何もかもを灰燼に帰さんと欲しながら生れ落ちて


咆哮するのである


おぎゃぁ と

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記憶を見る胎児 浮かぶ毬藻 @takuoct

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