第12話 どうしてこうなった

 「ハァハァハァ……もっとぉ……」


 吐息が漏れる様は、刺激が強すぎる。

 目の前には、虐げられる快楽に身を委ね、教科書やら参考書やら辞書やら、とにかく手当たり次第に腿の上に乗せられた痴女が、身悶えしながら正座をさせられていた。

 知ってるかい?ここは中学生の学舎なんだよ?

 すねの下には、いったいどこから持ってきたのか、ギザギザに波うった板が敷かれている。

 完全に江戸時代の拷問のそれだったけど、先生の顔は苦悶というより、むしろ恍惚と表現した方がしっくり来る変態の顔つきだった。

 いつからこの学校はR指定が認められるようになったのだろうか。

 誰だ。こんな痴女に教員免許を発行したのは。

 あ、文部科学省か。この国はもう駄目なようだ。


「もう……空海ちゃあんったらぁ。私の喜ぶことしてくれるんだからぁ~」


「やめて。警察呼びますよ」


「それだけは勘弁してぇ」


「では素直に白状しなさい。どうしてこの中学校に赴任してきたのですか?事と次第によっては懲戒免職――」


「わかったからぁ、先生をイジメないでぇ……興奮しちゃうからぁ……んんっ!」


 何度見てもただの変態にしか見えないこの教師が、あの最澄だと誰が思うだろうか。いや、思わない。


「あと空海ちゃんと気軽に呼ぶのはやめてもらえないかな。ここでは空乃海という名で通ってるんだから」


「んもぉ~せっかちねぇ。じゃあ素直に白状するけどぉ~。実は私ってぇ即身仏になってたのぉ」


「え?最澄って普通に荼毘だびにふされたんじゃないんですか?」


「いや、この変態はある、わざわざ即身仏になったんだよ。その理由があまりにも下らないから伏せられてたんだ」


「その理由って?」


 ずっと僕に熱い視線を送ってくる痴女に向けて、海は溜め息と共に吐き出した。


「実はね……病的にが好きなんだよ。若ければ若いほど良いとか生前のたまっていたから絶縁したんだけどね。で、死ぬ間際に『タイプの若い男の子と巡り会えますように』という何とも度しがたい祈りと共に身を捧げたというわけさ」


 Oh……。それは想像以上に下らないやり取りだった。

 そりゃ歴史の表舞台に祀りあげるわけにはいかないのは確かだ。


「別に先生はぁ間違ったことぉ言ってないわよぉ?」


 プンプンと頬を膨らませながら(痛々しい)そっぽを向いて答える先生は、まるで改心する様子はないようだ。


「その性癖のせいでどれだけの若い僧が被害にあったのか忘れたんですか」


「んもぉ~海ちゃんってばぁ、まるで姑みたい」


「ぐ……姑とは……フフフ……やっぱり警察に通報しましょうかね。真魚君願いします」


「わぁ~調子に乗ってごめんなさいぃ~」




 ようやく真面目に話す気になった先生は、全てをつまびらかに明かしてくれた。


「つまり、煩悩を抱えたまま眠っていた先生のもとに、何者かのお告げがあったと?」


「そうなのよぉ。さすればタイプの男の子に出会えるだろうってねぇ。で、気付いたら現代に甦ってたのよぉ」


 なんだそのお告げは。一番甦らせちゃダメなタイプを甦らせてるじゃないか。


「はぁ……僕も甦った身だから他人のことをとやかく言う資格はないけどさ。これだけは守ってくれないか」


「なにかしらぁ?」


「次に真魚君に不埒な真似をしたら、もっと酷い目に遭わせるからね」


「んん…………っ!!」



 海さん。それたぶん逆効果です。




 一応は海と僕に許された先生は、改めて自己紹介をした。


「最澄改めぇ、最上もがみすみでぇす。よろしくねぇ空色真魚くぅん。ピースピース」




 何が不幸かって、翌日には、放課後の教室でSMプレイに走る教師と男子中学生が存在するという恐ろしい噂が駆け巡っていたことだ。

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