第29話 (憑依編)終末の光景 2

その話は、異次元の世界に飛ばされた男の体験談の様な話であった。


 ***なんだか途方も無い夢を見ていたような気がして目が覚めると、目の前に、何時になく優しい顔をした婚約者の薫の顔があった。

「成功したのか、爆弾は、隕石は・・・」その言葉に、キョトンとした顔になった薫が

「まだ、頭が混乱しているのね!もうしばらく休んでいて・・・何か欲しい物はない?」薫が優しく訊ねてきた。ふと気づくと、(薫の胸が大きいい。薫て・・・・)混乱する頭で

「ああ・・・おっぱい、あぁいや牛乳・・・」そんな、返答をして、暫くたってから兄がやって来て、

「どうだった、卵の中の世界は?」(卵の中の世界・・・)

「お前が、他の次元に転移した状況は、センサー(量子エンタングルメントセンサー)で追跡出来ていたんだが、その先がわからん!」

どうも、兄の話の様子からすると、僕はあのドラゴン島の卵と再び対峙したらしく、その際、僕の体には色々なセンサーが取り付けられていた。その一つに、この施設の装置と予め(量子もつれ)をもたせた通信装置の様な片割れを取り付け、僕の行方を追跡していたとの事だった。僕は、混乱する頭の中で、またあらぬことを口走っていた。

「薫の胸がおおきいんだけど?」兄は、呆れたような顔をしながら、それでも笑顔で

「そりゃー当たり前だろ。妊娠してるんだから!」

「妊娠・・・誰の・・・」

「あほか、お前の子供に決まっているだろうが!半年前に結婚したじゃないか!」(ええー、僕は、またやられた。)と思った。(そうか、ここは最初の世界じゃないのか!)

(そう言えば、兄の顔も少しふけている感じだし。第一、自分の体がもう高校生の体ではないのだ。)

「僕って、今何歳?」ふと呟くと


「私と同じ25歳よ!ああーまだ誕生日前だから、私は24歳か!」牛乳を持ってきてくれた薫が答えた。僕は、ベットから起き上がり、周りを見回すと、前回目覚めた野戦病院の様な医務室と違って、綺麗に整備された立派な部屋だった。

「まあー、追い追い、お前が経験した事を説明してもらうから、頭を整理しておいてくれ。」そう言って、PC(パソコン)を渡してくれた。(普通のパソコン・・・直前の世界では、瓢箪の様な形の高性能人工頭脳だったけどな・・・)

PCの中には、今回の実験内容の情報が事細かに記載されていた。(直前の世界だと、こんなレクチャーを受けなくても自然と周囲の内容が理解できていたのに・・・)

「ところで、ミドリはどうなったか知らない?」僕は、PCを見ながら兄に聞いた。

「ミドリ・・・ああー高校時代のお前の同級生か?・・・たしかお前たちの結婚式にきてたな。最初、えらい美人さんなんで誰の知り合いかと思ってたら、

お前の高校時代の同級生と分かり、お前も惜しいことを・・・・あ!いけね・・・」兄は、一寸周りを見渡して

「ミドリさんだっけ、高校時代の友達にしてはあまり印象の無い子だったと思ったけどな。お前の回りってやたらキャラが濃い人間ばかりだったからな。」

実験内容とネットの情報で、あらかた自分が置かれている立ち場が理解できたころ、兄と薫と僕の3人で施設内の会議室の様な所へ行った。その部屋には、大きな窓があり、美しいフィヨルドの全貌が見え、近未来的な机や椅子が置かれていた。僕は暫くその窓から、フィヨルドがたたえる海を行く、大きなフェリーを眺めていた。やがてここの職員と思われる数名が入室すると、あの大きな窓が一挙にスクリーンに変わった。各拠点をつないだ所謂ネット会議が始まった。そしてその最大の議題が「Ⅹディー」の話題であった。これまでの予備知識で、かなり話題に上っているのは認識していたが、今一その内容がつかめていなかった僕だが、その内容を知って戦慄を覚えた。

 この世界は、陽子が崩壊する事が観察されていた。その寿命は約40憶年、そしてこの世界の宇宙の寿命もほぼ40億年。この世界でも、ビックバン理論は健在で、宇宙の膨張は観測されている。ただし、最初の世界(僕が元々いた世界)の様な加速度膨張は観測されていない。膨張率イコール宇宙の年齢の関係で、長年の観測でその精度も結構上がっていた。つまり宇宙開闢以来、40億年後に、陽子が崩壊しクゥオークかその先のストリングス(糸)に戻ってしまう。それからどうなるかは、誰も分からない。クゥオークが適当に集まって、再び物質化するのか、無限希釈され、雲散霧消するか・・・・。巨大隕石の終末を迎えていた前の世界では、出来事としては、非常にローカルな問題で、あの世界の宇宙にある、一惑星が消えようが宇宙全体としては、大した問題では無かった。だが、この世界は(宇宙の崩壊と言う終末)を迎えようとしていた。

「Ⅹディーの制度て度の位?」僕は、隣の兄に聞いた。

「99点の9が三つ位か・・・」

「えぇー、それってほぼ確定じゃないか・・・他に、この窮地を打開する知恵を持った生命体とか、この宇宙に居ないの?」

「お前、何言ってんだ。だから、この次元転送計画を進めているだろうが。この星、いやこの宇宙にある唯一の望みがあの(たまご)なんだよ!」

兄のその言葉を聞いて、僕はかなり落胆した。本当は、もう暫くしたら、僕は、この世界の人間では無い事を説明しようとも考えていたが、兄の言う唯一の望みが、どうも僕らしい。しかも、今時点で解決策を持っていない。前の世界では、ある意味お膳立てが出来ていた。それなりのスペースシップも高度なAIも、そして切り札の量子泡爆弾も。

鎮痛な雰囲気で、その議題は終了した。続いて、この次元転送計画の話題になった。僕は(たまご)の中の世界(実際は違うのかもしれないが)で、僕が経験した事柄を語った。僕しか知覚していない、物的証拠もない、僕の作り話の様な話を全員が聞き入っていた。どうも、此れまでの研究で、次元移動した物質は、移動先の次元世界では重力以外は認識されない。情報のやり取りはできる。などの幾つかの基本的な事は分かって来ているらしかった。そして、この惑星あるいは宇宙の生命体の総意は、自分達の意識や情報を丸ごと他の次元に移し変える、転送する事なのだ。

その夜、僕は薫を抱いていた。妊娠したお腹に負担がかからぬ様に抱きかかえながら、

「あぁー・・激、今日は・・・なにか違うけど・・・でも、イイー・・・」高校生の薫しか知らない、(高校時代こんな事してないけど)僕にとって、今の薫は大人の女であった。果てて横になった薫を抱きながら、おっぱいの感触を確かめていた時、寝てしまったかと思った薫から

「あなた・・・・だれ!」と聞いてきた。はあーバレたかと思いながらも、いずれ明かさなければならない事なので

「僕は、激だよ。でも、中身は高校生の。この次元とは違った世界から来た激さ。」

「高校生なの!」向き直り、僕の目を見た薫が言った。

「最初の世界は、ほぼこの世界と同じ様な世界だけど、まだ陽子崩壊は確認されていない。宇宙の年齢は130億年位で、陽子の寿命は10の33乗位、だから、宇宙が消滅する前に陽子が崩壊する事はない。でも、この世界と違い、60億年前位から加速度膨張している。だから、最終的には無限希釈されて物質は無くなるのかな。」

「お前、やけに詳しいな。それに、高校生のくせに、どこで覚えたんだあんなテクニック・・・」

「テクニック・・・? ああ・・・それは、今日報告した、巨大隕石の世界かな、その世界では、30代のおっさんだった。だから、この体より10年程年とってたな。最初の世界では、薫とこんな事してないよ。だいいち高校生だからね。」

「この世界の激は何処に行ってしまったんだ?」

「分からないけど、僕と入れ替わったとしたら、最初の世界で高校生になってるかも。体は高校生、頭脳はおっさん?・・・でも中身はそんなに変わってない気がする・・・ところで、この世界の激の方が、テクニックは有ったの・・・・」

「バカ・・・カー。」薫はすねるように、頬っぺたを膨らまして、

「まあーいいや、大して変わらないと言う事にしておこう。本当はお前の方が・・・・で、その他の教育は何処で教育されたんだ。」

「三好家の教育カリキュラムと兄のスパルタかな!最初の世界では、孤児だった僕は三好家に引き取られていたから。」

「ふーん・・・その辺の事情も、此方と同じみたいだな。まーこの話は、私達だけの事にしておこう。事態がややこしくなるから。」そう言うと、再び薫がキスをし始めた。

「ショタと分かったら急に虐めたくなってきた。」

「ショタじゃないよ。僕は高校生だ。」薫は、執拗に攻め立て来た。

 翌朝、眠り込でいる薫を残して、兄の所を訪ねていた。施設の5階と8階にそれぞれの部屋を貰っていて、義理の姉さんが朝食を用意してくれていた。(この辺も最初の世界と変わらないいだなーと思いながら、)朝食を頂いた。

「陽子崩壊が観測されたと言う事は、大統一理論が完成したんだよね。」

「ああ、三つの力は統合される事が分かった。」

「なら、その方程式を使って、物質を作り直せばいいじゃないか。」

「理屈はそうだが、重力場が必要なんだ。出来れば周りに何もない空間に、重力を使って、クゥオーク達を引き寄せて再び新しい原子を作り出す。でも重力場を作り出す事ができると言うと、太陽とか巨大な惑星、まあデカい岩塊かな。でも、所詮この宇宙の物質だから崩壊し重力は無くなり、すぐにクゥオーク達は、拡散してしまうな。」

「じゃー、崩壊しない物質なら、ダークマターとか?」

「ああー可能かもしれないが、ダークマターが何処にあるんだ。」

「たぶん、近くにある。」

「はあー・・・」

「僕が、たまごの中で見てきた、あの世界で、僕は巨大隕石を異次元に吹っ飛ばした。月の半分位の質量を持っている。そいつがこの付近をうろついていると思う。」兄は、うーんと言いながら

「そいつは面白い、磁場力場変換コイルを使えば、重力場で集まったクゥオーク達を陽子にできる。最初は少しだが、物質化が進めば惑星位できそうだ。問題は、その隕石が何処にあるかをつきとめる事だな。」

「あの世界とこの世界が似たり寄ったりなら、太陽方面から月のラグランジェ点の3倍位の所を通過してこの惑星に向かっているはずだ。なにせ、直撃コースだったからね。」

「ダークマターをどうやって見つけ出すかだな?」

「重力変動や、空間が歪むから電磁波の屈折、太陽風の揺らぎとかどうかな!」

「ううーん、やってみる価値は有るかもしれないな・・・」兄は暫く考えてから、関係部署へ連絡を入れた。

「ところで、お前・・・何者だ?」ここえきて兄も気づいた様子で詰問してきた。僕が事情を答えようとすると、

「体は大人、中身はませた高校生、異次元の!」入ってきた薫が、眠そうな目で喋り始めた。

「ファーストコンタクト処か、第四次接近遭遇位までされちゃった感じ。このませショタは・・・」

「異次元生命体?・・・」兄が怪訝そうに言うと

「まあーそんなに警戒する必要もないみたいだけど。」と薫が言った。

結局、兄にもこうなってしまった経緯を洗いざらい説明する事となった。

「この世界の激は、何処に行ったかわ分らないけど、可能性があるのは、僕の元居た本来の世界で、その時の僕と入れ替わっている。丁度、こちらでやった実験、僕を卵の中に送り込むと言う実験を始めようとしていたから。」

そんな訳で、兄と薫は、僕を異次元生命体扱いする事はやめて、ほぼ身内の扱いにする事で落ち着いたらしい。

その後、ダークマター化した隕石の探索やら、僕の考案した新しい宇宙船のエンジンの製造やら、量子演算子を使ったAIの構築やらで、時間が過ぎていった。(前の世界のパクリだけど。)そんな、この世界にしては、慌ただしい時の中で、ふとした暇が僕たちを、フィヨルドのクルージングに誘った。僕は、(異次元世界で何で観光旅行しているのかな?)と思いながらも楽しんでいた。この世界の人々は、何処か醒めている。何か、覚悟ができているとでも言ったら良いか。それは、「Xデェィ」を知っているからか。元々そういう文明なのか。そんなゆったりした時間の中で、フェリーの欄干に、だいぶ大きくなったお腹を持て余している薫と身を寄せていた。

「この子を産もうと思ったのわね・・・激と生きた証、ホントの激よ!まあ、あんたでもいいか、が欲しかったの。家族を持ちたかった。あの人ね、まだプロポーズもしていない内から、皆の前で堂々と、子供を作くろうとか言い出したのよ。私は赤っ恥よ!・・・」

(僕なら・・・)

「元の世界では、僕は孤児だった。あぁこの世界もそうか、親の顔も知らないし、家族も居なかったけど、教会をやっていた養父母に引き取られてから、血の繋がっていない姉や兄とくらして、家族っていいなと思ったんだ。」

「ふーん、こっちの激も孤児だけど、私達(三好家)が引き取ってから、家族として暮らしているわ。でも、それは三好家としての家族ね。だからそのまま行くと兄弟みたいな関係で終わってしまいそうだったから、結婚したのよ。私たちの家族を作るためにね。」薫は少し真剣そうに言った。

「直前の世界では、僕はいきなり2児の父親だったから、だいぶ戸惑ったよ。でもそんな家族を見て、絶対にこの世界を守ろうって決意したのさ。たぶん、その世界では、死んじゃっているんだろうけど。」

 フェリーは、フィヨルドの一番奥の町まで進んで停泊した。そこは、この界隈では一番大きな町で、オペラハウスがあった。


「ニーべリングの指輪か!」

「あなたは、聞いたことある?」薫が聞いてきたので

「生で聞いた事はない、あっちの世界じゃ僕の家はそんな裕福な家庭じゃなかったからね。それに、直ぐに、三好の家を飛び出してたから・・・」

ダークマターの所在は、惑星の潮汐力の異常から導き出せた。この惑星の月と反対側に対をなして同一軌道上に存在しているらしかった。運よく(これも決定事項なのかもしれないが)この惑星の近くで安定した軌道上にいて、惑星に対しても悪い影響は及ぼしていない様子であった。そんな中、1年がかりで進んでいた、宇宙船の建造ももうじき完成かと言った時期に、薫は女の子を生んだ。暫くして、首も座った僕の娘(?)の顔見て、何処かで見た顔だなと思った。(そうだ、姉の顔だ。姉の目の色が僕と同じなのは、僕の影響か!)そして、それは予想はしていたが、娘の背中にもあの紋章があった。

 ワルキューレと名付けられた宇宙船は創生物質製造装置を搭載してダークマターに向かった。最初の実験で創生物質製造が確認されると、数度の行き来で、このダークマターで出来た月(ノワールムーン:漆黒の月)の周回軌道にスペースステーションを作り、創生物質製造を本格化させた。この創生物質を使い、今後40億年持つ物質で新たな装置の建造に取り掛かった。

「この恒星系をそっくり亜空間に移してしまう、つまりダイソン球を作り出し、この次元の物理法則から隔離する、てのわどうかな?」僕の唐突な提案に首を傾げながら兄は聞いていた。

「異次元に送り出した物質は、結局その次元で認識されないままダークマター化する、なぜなら、その次元の物理法則が異なるために。だから、生命体はその生体情報をコピーしてその次元で生きている生命体に憑依させる事で次元移動する。ならば、移動先の次元の物理法則が此方の都合の良い法則に変更した次元が作れれば、次元移動してもダークマター化しないで存在できる。」

「お前、また突拍子も無い事を言い出すな!」

「亜空間理論については、元の世界で兄(元の世界の兄)と研究していた。そのための装置も作り、大掛かりな実験も計画されていた所なんだ。」

「量子泡爆弾の元となった、量子ゆらぎ中にできるマイクロバブルのボゾン共鳴体法で、亜空間(インフレーション世界)は作り出せる。高度なAIもしくは量子コンピュータが必要だけれど。その空間のなかで安定的に物質を維持するためには、素空間量子で満たさなければならない。つまり、真っ白なノートにマス目を書かないと物質が安定して存在できないから。」

「素空間量子とは何だ?」

「たぶん、次元同士がぶつかった際に発生した摩擦エネルギー。本来、複数の次元は、お菓子のティラミスみたいに層状になって重なり合っていた。その時は、夫々の次元はコヒーレント状態にあって安定していた。でもそのコヒーレントが破れ層状のそれぞれの次元が剝離し始めた。それを戻そうとする力が重力で、その間を広げようとする斥力がインフレーション。剝離した次元は、そのままでは何も起こらない、宇宙創造も物質の生成も。しかし、ほかの次元とぶつかる事で次元同士が貫入しこの際の摩擦あるいは衝突のエネルギーで空間が生成される。後は、空間の中に物質が生成され、星達が作られる。次元がぶつかった際に、其れぞれの次元の固有情報が素空間量子に引き継がれ空間が形成されるから、夫々に特有の物理法則を持った宇宙が生まれる。多分、無数にあり、近い特性を持った世界同士なら情報のやり取りができる。」

そこまで言って、僕は

「なんの根拠も無いけどね。この世界では超弦理論はあるの?」

「例のひも理論か!統一場の方が忙しくて、あまり議論されていないなぁ。」

「ふーん、ちょっと残念だけど、それも元の世界と同じようなものか・・・

ああ、それと、もしかすると、ピンクのたまご同士なら、たまごの中で繋がっているかもしれない。」

「ピンクのたまご?」

「最初の世界のたまごは、初めて僕が接触した後に、青からピンクに変わったんだ。それと同時に放射線の発生もなくなり・・・・」その時僕はふとある事を思いつていた。

「実験映像を見ると、こっちの激は、まるでスライムの中に入るように消えていったけど、僕が出てきた時は如何なっていたの?」

「ああ・・・記録が無いんだ。気が付いたら卵のそばで倒れていた。お前がたまごの中に消えてから三日後だ。」

そんな議論の後、僕は施設のピアノを借りてとある曲を録音してもらった。

「この曲を、たまごに聞かせて欲しい。」そう兄に頼んでから状況を見守る事にした。

この世界に来て感じた何処か皆、さとりを開いている様な感じは、時間が過ぎる中でより強い実感となり、事実、この惑星には地域紛争もなければ、貿易摩擦や富を独占しようと言う様な企業も無い。それなりに回っている経済から生み出された利益は効率よく平等に皆に還元されていて、その一部をまるでお布施でもするように、僕らが進めている計画に投資してくれていた。そして、この世界では、僕は有名人であった。あのたまごをご神体としたある種の宗教の様なもので、その中で僕は、預言者みたいな扱いをされていた。

 この世界で、大統一理論が完成され、方程式が解けたおかげでその副作用とでも言った福音が幾つかあった。まず、常温核融合が可能となり、現存する水素(水が原料)から効率よくエネルギーが取り出せた。次が、反物質の生成である。幾つかある方程式の解の中で虚数解があり、この解が反物質の生成を示していた。これに従い、主に反陽子を生成し、磁場容器に閉じ込めておく。もちろん、こんな物を戦争に使おうなどとしたら、あっという間に世界が終わるが、この穏やかで悟りきった世界でそんな事をする奴はいない。どうせ、世界征服した所でその先は無いのだから。****




 由香の話は、そこで終わっていた。

「つまり、あの時に次元の扉が開いたのか?」と薫が言ってから、PCの動画を再生し始めた。由香と由紀と薫がpCのモニターを見ていると、無数に有る星の中に、その星の一部を消し去る様な真っ黒い部分が映りだされていた。

「これじゃないの?」と由紀がその時の時間を見ながら

「由香が意識を失った時間は・・・」

薫は、携帯の着信時間を確認しながら、動画の時刻と照らし合わせると、

「ああ、一致しているようだな・・・・異次元からのメッセージか?」と言うと

「たぶんそうだ、今回のお告げは、今までとは違った感覚だった。」

「ええー、あの世にも色々あるのね。」由紀が言ったので、薫は

「この宇宙でさえ、あれだけの星があるんだからね。でも、由香が異次元世界までも交信できるとは思わなかったな。」と薫が言うと

「ええ、でもそれは、2600年ごとかもしれないわね。」と由紀が感慨深げに言った。

それから、数日後、世界の数か所にあるニュートリノ観測施設で、冠座の方向から、かなりの量のニュートリノが飛んできた事が観測されたとの報道があったが、陽子崩壊の観測は特に無かった。東京に戻っていた、三人は、その報道を見ながら

「やっぱり、メネシスは有ったのね。」と由紀が言い

「陽子崩壊が観測されても、公表しないかもしれないね。この世界じゃぁ大混乱になるだろうから。」と薫が言い

「どうせ、何時かは、すべてが終わるんだ。無常の世界だからな。」と由香が言った。

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