第21話 (憑依編)叔父の告白
由香は酔いが回ったのか、早めに寝てしまっていた。薫と叔父の成司はリビングで二人してウヰスキーを飲んでいたが、叔父が話の口火を切った。
「良い子じゃないか。何所で見つけたんだ。」
「見つけたて言うより、懐かれたて言った方がピッタリするけど。」
「懐かれた?あんな娘に懐かれるとは羨ましいね。」
「さっきも話した様に、彼女、由香は生まれつき心臓が悪くて数年前に、大きな手術したんだ。それで今は元気なんだけど、本人が言うにはその時に一度死んじゃったらしい、心臓が暫く止まったんだて言ってたけど。」
「ふん、だって心臓の手術したんだろう。察するに弁膜症か何かだろうが。そしたら心臓止めなくては手術出来ないぞ。」
「あっそうか、でもその間どうしてる心臓動いて無いのに?」
「まあ、人工心肺に繋いで血液は流してるんだろうな。だから心停止してたって死んだ事には成らないぞ。」
「ふん、でも本人がそう言ってたし、その時に夢だか、あの世だかで天使だか誰だかしらないけど、綺麗な女の人に逢ったらしんだ。」
「それは、麻酔で幻覚を見てたんだろう。」
「うん、僕も初めはそんな所だろうと思って適当に聞いてたんだけど、由香の話が変にリアルなんだ。」
「その女の人はシオリて名乗ったんだって、身近にも友達にもそんな名前の知り合いは居ないらしいけど。」その時、薫がふと見た叔父の顔が憂いを帯びてる様に感じた。
「その人が言うには、こっち、つまり現世に戻ったら、東堂薫と言う男の子を探して欲しいて、そして暫く一緒に旅して欲しいて言ったらしいんだ。その旅先なんかも結構具体的に示されたらしいけど、その辺の状況は何だか言葉では表せないみたいで、時折お告げみたいな形で、由香の頭の中に現れてくるんだって。そんな経緯があっての事だろうけど、僕が髙三の夏の時にいきなりそんな話されたってい言うか告られたんだ、一緒に居たいって。
初めは変な女の子だなと思って、適当に断ってたんだ、受験だったし。そしていざ大学に入ってみたら、なんとその娘がいてしかも工学部だよ。そんな感じじゃ無いだろう、どっちかと言えば、お嬢様学校にでも行って外国語でも勉強してた方が似合いそうでしょう。
挙げ句に、僕が演劇サークルに入ったらそこにもあの子が居て、講義なんかも殆ど一緒なんだ、数年来女学生が受講した事が無いて言われてた古代史の講義まで、まるで僕の行動を予知出来るみたいにね。流石に、一寸気持ち悪くなって、ストーカーかて、文句言ったら泣き出されちゃったんだ。しょうがないから放って置いたら、何時の間に周りから恋人扱いされていて、気づくと彼女が何時も黙って側に居るような状況になったんだ。それに彼奴他の男が眼中に無いみたいで、あんな娘なら誰でもちょっかい出したく成るでしょう、可愛いし。でも、全く無視されるんで、そのうち他の連中は諦めて、彼奴は僕の付属物みたいな存在として認識されて仕舞った訳なんだ。」
薫の話を黙って聞いていた、成司が口を開いた。
「その話まんざらでたらめでもなさそうだな。シオリならやりかねないからな。」
「ええ、シオリて人知ってるの?」
「去年だったかな、お前戸籍の事で聞きたい事が有るっていってただろう。」
「ああ、うん。」
「あの時は、適当に誤魔化したが、その後梢さん(薫の母)から何か聞いたか?」
「うんん、何となく聞くの悪い気がして、今となってはお互いハッキリさせない方が良いような気がして・・・」
「それで戸籍は見たのか?」
「いいや、ただ、僕の本籍が京都なのが変だなと思って、叔父さんに聞いてみただけ。だって東堂の本家は鎌倉でしょ。そしたら父親の本籍だから、神奈川だよね。」
「ふん、そうだ。あの時説明した様に東堂家は元々京都の出なんだ。て言ったかな?」
「うん。」
「それでお前はどう思ってたんだ。」
「どうて・・・」叔父は暫くの沈黙の後
「ところでお前は、あの子と寝たか?」
「ううん、寝るて、セックスしたかて事、まだて言うかまだそんな仲じゃないから。」
「そうか、まだ童貞か。じゃーこれからの話は一寸刺激が強いかもしれないな。」
叔父は、残りのウヰスキーを飲み干しながら、
「本当なら、お前の親父、健司からちゃんと話してもらうべきだったんだろうが、呆気なく先に逝っちまったからな。シオリはお前の母親、お前を生んだ人だ。そして正直言って、もしかしたらお前は、俺の子供かもしれない。」
「ええ・・・」
「俺と健司の事は何か聞いているか?」
「え、どんな事?」
「健司と俺は双子だって事は?」
「ええ、聞いて無いよ。兄弟て事は分かるけど。それで親父によく似てるんだ。」
「シオリは、俺と健司が愛した女だ。シオリはな、訳あってお前の祖父、俺たちの父親だが、が引き取り東堂家に住まわせていた烏丸と言う芸子、雪乃婆ちゃんの娘だったんだ。父親は最後まで誰かは分からなかった。ただ俺たちの父親では無かったらしいが。俺たちに取ってシオリが現れた時は、まるで急に妹が出来たようで嬉しかった。その頃はもう俺たちの母親(薫の祖母)は、他界していたからな。シオリのおかげでそれまで押し黙っていた家の中が急に明るくなったんだ。シオリは芸子の子供にしては活発な女でな、小さい頃からまるで三人兄弟の様にふざけたり、遊んだりしていたんだ。子供の頃は、結構大柄な方で、格闘技なんかも男には負けていなかったな。男とか女とかのまだ、異性を意識する前の話だが、良く三人で風呂に入り、三人で寝てたりしてた。でも、子供は成長するもので、シオリの胸がふくらみ始めた頃、初潮があったんだ。まあ当たり前の事だが。シオリは俺たち兄弟の仲で育ったから、それまで自分が女だと言う意識が薄かっただろうな。シーツを汚しちまって、俺と健司は俺達の親父にこっぴどく怒られた。怒られたのは汚した事じゃなくて、俺たちがシオリに変な事したと誤解されたからだがな。」叔父は、一息つくように二人のグラスに酒を注いでから、一つを薫に渡した。
「そんな事があってからは、外見上は男と女の節度をわきまえる様に振る舞っていたが、もともと仲が良い三人だから大人達の目が無い時は好き勝手やっていた。思春期になるとシオリは女ぽくなり俺たちは男ぽくなった、これも当たり前だが。そうなると身近に居る異性に当然興味が沸いてきて、お互いの大事な所を見せ合あったたりいじったりもしてたよ。恐らく、普通の中学生や高校生なら、補導されてしまいそうな危ない状況だな。大人達の知らないそんな秘密の関係が数年続いた後、シオリと健司は同じ大学に入り、俺だけ関西の大学に入ったんだ。その頃になると、シオリをどっちが嫁にするかって事で、健司と少なからず軋轢が出来ていて、シオリの前ではなるべく話題にしない様にしてた。俺は夏になると、急いで鎌倉に帰ったよ。シオリが健司の物になって仕舞ったんじゃないかて心配でな。自分の大学でも女子学生とは結構付き合ったが、どうしてもシオリの事が頭から離れなかった。健司は、シオリが側に居てくれるだけで満足していて、他の女になんか目もくれなかった様だが。三年の夏だったかな、何時の様に伊豆の叔父の別荘に海水浴に行ってた時だ。そこに行って毎日、そんな事をしてた訳じゃないが、ちゃんと勉強もしてたんだがな、海から上がって、何となく気怠くなっちまって、久しぶりに三人でペッティングをし出したんだ。別に何の罪悪感も無かったし、昔からやってた当然の行為の様にな。久々に抱いたシオリの体は、依然に比べ、より女ぽくなっていて、こんな体を健司は日常の様に抱いてるのかと思ったら腹が立ってきたんだ。結局それは俺の勘ぐりだったけどな。それで、俺は
健司の目の前でシオリの下着を剥ぎ取って、強引にしちまおうと思ったんだ、そすれば、シオリは俺の女に成るだろうと考えてな。
その頃の俺たちには、謂わば暗黙の掟みたいな物があったんだ。シオリとペッティングはしてもその先まではしない、それをシオリも受け入れてくれていて、どうしようも無くなった時は、俺達を手や口で行かせてくれたりもしたんだが。結局俺は、思いを果たすこと無く、シオリに拒まれた挙げ句に健司と大喧嘩になって、それが切っ掛けで暫く三人で逢う事を止めにしたんだ。シオリは東堂の家を出て都内にアパートを借りて住み始めてから、お互いに連絡は取っていたが、お互いを尋ねる事はしなかった。少なくとも俺はしてない。俺はそのまま大学院へ進み、健司は卒業後、国連の外郭団体に就職し、シオリは東堂家に戻って鎌倉で教師になったんだ。そしてお互いがお互いの存在を希薄に感じ始めた頃、健司が帰国したのを切っ掛けに本当に久しぶりに三人で逢ったんだ。有る結論を出すためにな。俺達はシオリの気持ちを知りたかったし、俺も健司もシオリが欲しかったからな。でもその夜、俺達はシオリに対してとんでも無い事をしてしまったんだ。俺と健司は、一晩中シオリを犯しまくったんだ。一度犯してしまうと、どうしても自分の物にしたくて、健司が果てると直ぐにまた俺が犯した。そんな事が何回か続いて、気づいたらシオリは死んだ様に成っていた。俺達は慌てたさ。近くの病院に連れ込んで見て貰ったら、貧血による失神だった。そんな事もあって、俺達はろくにシオリの状態も確認しないまま、健司は赴任地戻り、俺は京都に帰ったんだが、シオリがあの時俺達に話さなきゃ成らない事を、俺達が台無しにした挙げ句に、妊娠させてしまったんだ。半年ほど経ってシオリから呼び出された俺は、シオリの姿を見て驚いたし、その時初めてシオリが末期癌だった事も知ったんだ。彼奴は自分の命と引き替えにお前を生むと、燃え尽きた様に死じまった、最後は肺炎だった。」叔父は、グラスを置いてから
「結局、俺達はどちらもシオリを手に入れる事無く失ってしまったんだ。死人とは婚姻関係を結べないため、生まれた子供は、ひとまず東堂の旧家に籍を置く事になって、暫くシオリの母が育てたが、海外赴任が終わった健司が帰国すると、梢さんと結婚してお前を育てる事に成ったんだ。皮肉なもので梢さんは子供が産めない体だったんだが、実の子供の様にお前を育てくれた訳だ。」薫は自然と流れてくる涙を拭きながら
「母、今の母は、その事を知ってるの?」
「恐らく此所まで詳しい話を健司がしたかどうかは俺も知らないが、お前を育てる経緯は説明してあるだろう。」
「じゃあー由香が話したシオリて言う人は、本当の話?」
「本当か、どうか分からんな。なんせあの世の出来事なんだろう。もともとこの世に存在しない人間の話だからな。だけどシオリならやりそな話だよ。」
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