真夏の夜のタイニー川

 リチャードは笑っていた。

真夏の夜のタイニー川は、至極奇怪なこの日のすべてを、夜空に輝く満天の星々を、その、死んだ溜池のように静かでありながら、一切の抵抗も許さぬ深く大きな流れの中へと、飲み込んでしまうのだろう。

川岸に立つ彼の足元には、大きな川魚の死骸が生暖かい死臭を放ちながら、横たわっていた。

その死臭は、日没直前の雲のように淡い桃色をしており、タイニー川の鉄紺色によく映えた。

甘い香りに誘われてか、はたまたその美しさに惹かれてか、蝿がそこらを飛び交い始める。

 

 リチャードは笑っていた。

ここにすべての色も、形も、臭いも、音も、感触も、なにもかもが、彼の世界からは、すっかり取り除かれていた。

彼の渇いた笑い声が、蒸し暑い夜に波を立てては虚しさを残して消えてゆく。


 日が昇る頃、タイニー川は静まり返っていた。

タイニー川が飲み込んだあの日のすべては、日の出と共に蘇り、やがて白日に晒される。


「エマ...」

もはや白くはないよれよれのタンクトップに、赤茶けた染みを付けたのは、はたして彼が長く横たわっていた草花なのだろうか。

きっとそれすらも、もうじき明らかになる。

しかして彼は行く。

元来た道を。

愛する妹のもとへと。

もう、一日一つのパンを待つことすらできない、彼女の元へと。

リチャードは思い出し、そして忘れた。

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タイニーナイト・リバー どすこい恍惚の檻 @umashima8652

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