通行人に片っ端から結婚を申し込んでみた

家島

通行人に片っ端から結婚を申し込んでみた

 大学生で、YouTuberのAとBは、次に投稿する動画の打ち合わせをしていた。




 あるAの住むアパートの一室にて。


A「次はどんなんがいい?」


B「視聴者も鬱憤溜まってるやろうな。勢いがめっちゃあるのがウケるかもな」


A「勢いか」


B「ぶっ飛んだ感じでいこうか。プライドも何も捨ててしまおう」


A「お前んちの親は、俺らの動画見てるん?」


B「言うわけないやろ」


A「お前が言ったか言ってないかじゃなくて、親が見てるか見てないかが重要なんや」


ハッハッハッハ(2人の笑い声)




 2人の会話は酒も混ざりつつ進んでいった。






番組司会1「本日のゲストは、若手女優、Cちゃんです!」


番組司会1「鼻の下伸ばしてんじゃねよ」


番組司会2「お前がだよ」


ハハハハハ(番組のスタジオの笑い声)






B「ほんで、動画はどうするん?」


A「喋っとったら、名案思いついたで」


B「何!」


A「驚くの早いわ」


ハッハッハッハ(2人の笑い声)




 2人の会話は酒も混ざりつつ進んでいった。






番組司会1「Cちゃんは、結婚とか考えてないの?」


C「いやー、私は・・・」


番組司会1「・・・」


番組司会2「何でお前が落ち込んでんだよ」


ハハハハハ(番組のスタジオの笑い声)


番組司会1「気になってる人はいるの?」


C「・・・」


番組司会1「ん」


番組司会2「お前じゃねえよ」


ハハハハハ(番組のスタジオの笑い声)






ハハハハハ(2人の笑い声)


A「『通行人に片っ端から』なにかやろうかと思ってんだが」


B「告っちゃおか」


A「ええやん!でもな、おっちゃんは嫌だぜ」


B「片っ端って言っても、多少人は選ぶわ」


ハッハッハッハ(2人の笑い声)




 2人の会話は酒も混ざりつつ進んでいった。






C「私の家の近くに住んでるんです。いつも、話してみたいなあって思ってます」


へえ~(スタジオの声)


・・・


番組司会2「だからお前じゃないって」


ハハハハハ(番組のスタジオの笑い声)






ハハハハハ(2人の笑い声)


A「俺らはアパートの部屋の人を片っ端から告るか」


B「バカ言ってんじゃねえ」


ハッハッハッハ(2人の笑い声)






 翌朝、2人が撮影に出発する直前、玄関にて。


「「ジャンケン、ポン!」」


「ンアーッ!!!」


「はい、お前がドア開けろ」




 2人が玄関を出ると、ちょうど隣の部屋のドアが開く。ひょこっと出てきたのは、その部屋に住むおばあさんで、2人の方を見て「おはよう」と笑顔で挨拶をしてきた。しかし、「第1号」にはならなかった。




 アパートの敷地を出て、人通りの多い駅の方へ歩いて行った。その途中で、Aが、少人数の講義の先生とばったり会ってしまい、立ち話があった。少人数の講義というのは、参加者が少ない、「人気」のない授業。ちなみに、2人の会話は、「課題を出せ。さもないと、~」「早めに出します」の音楽であった。(「少人数」のためか)生徒のことを気にかけている、お節介だが、根は優しい人。




 駅に着いた2人は、大衆の朝のピりついた雰囲気に、なかなか1歩目を踏み出せず、周辺で時間を潰していた。大衆の反発力。




 駅のすぐ近くにある、開店前のデパートの入り口の前のベンチで、家で入れてきたインスタントコーヒーを喉に流し、虚空を見つめながら、2人は座っていた。その虚空を見つめる視界に、女性のものと思しき綺麗な足が入ってくると、その動く方向に首がついていく。その足の持ち主が、朝のランニングに努めている禿のおじいさんでもあり得るが、彼らが見ているのは、ひたすら足だけだった。




A「平日の駅はよくないな」


B「どうする?」




 2人は来た道を戻り、うす暗いアーケードを歩いている。彼らは、人気のないアーケードの道が好きだった。ただ歩いているだけで気持ち良かった。何か幻想的なことが起こると思っているからだ。




 何か現実がザクッと斬られるようなことが起こったらスカッとするだろうなあと妄想しているうちに、前方の入り口から女性がやってくる。彼女は、帽子を深く被り、大きな外套に身を包んでいる。


「「チャンスや!」」


A「B、カメラスタンバイや。隠れろ」


B「1人目大事やぞ。しっかりやれ!」




 いきなり愛の告白を受けたその女性は、顔を赤くしてAの方を見つめて、何か言いたそうに、何も言わず、以前より速く歩いていってしまった。




B「妙な人だったな」


A「・・・」


B「落ち込むものじゃないだろう」




 アーケードを出て、少々歩いてAの家に戻った。隣の町のアウトレットモールに行くために、車に乗った。




 駅のある方と反対方向に進んでいく。少し古いビルが両脇に立ち並び、ツタに覆われたものある。人がほとんど表に見られないので、旧ソの廃墟のような空気が漂う。赤信号で止まり、路地裏を覗けることがあるが、そこにハンモックを設置して寝泊まりしてみようかと2人は半分冗談で話し合う。




 古いビル街を貫通すると、一気に視界が広がる。先のビル街とは対照的な風景で、建物は、スーパーコンピュータのように、背の高くないものたちが規則的に密集せずに並び、車道は、幅が広く碁盤の目のように敷かれている。人でにぎわっている。




 その一画に、アウトレットモールがある。




A「何買ったんですか?」


女性1「リュックサックです」


A「じゃあ、僕と結婚してください!」


女性1「・・・えっ?」






B「何買ったんですか?」


女性2「アクセサリーとかです」


B「じゃあ、ってあなたは、YouTuberのDさんではないですか!」


D「あはは、そうですよ、Bさん。何の撮影ですか?」


B「チャンネル登録して、動画を見てくれれば分かりますよ」






A「何買ったんですか?」


女性3「この服です」


女性4「私も」


 彼女ら2人は、自分の今着ている服を指しながら言った。


A「では、僕と結婚してください!」


B「どっち?」






店員「店内でお召し上がりですか、お持ち帰りですか」


B「あなたをいただきます」


店員「お会計1200円になりまーす」


B「安!」






A「あとはうまく編集するだけだ」


B「やっぱり、外見でターゲットを選んじゃうよな」


A「容姿は必要条件なのかもな。多分、そういうプログラムがあるんだろ、生まれつき」


B「こういう企画で、撮影お願いするとき、その人の性格がどうこう言ってるひまなんて無いもんな」


A「おっ、そうだな!」


B「はっきり言おうな、『容姿より心は、ただの綺麗ごとで、容姿がものを言う』と」


A「そう言うのも、綺麗ごとだわ」


B「そう言うのも、綺麗ごとだわ」


ハッハッハッハ(2人の笑い声)


ピピー(対向車のクラクションの音)


 2人の乗った車は、故郷を凱旋するように、窓から漏れるAの部屋の消し忘れた照明の明かりを目指して帰路を走っている。






 AとBは、コンピュータと睨めっこをして動画を編集している。ここからが本番であった。音楽も然り。


A「最初の人はどうする?」


B「前半部分はお前に任せるわ」


A「・・・」






E「続いて、ゲストに質問のコーナーです。まずは、ラジオネーム〇さんからの質問。『Cさん、付き合っているている人とかいるんですか?』だそうです。ストレートな質問ですね、どうですかCさん」


C「いません」


E「気になっている人はいますか」


C「・・・」


E「Cさんの健闘をお祈りします」


C「違います~」


E「何がですか? では、次の質問に参りましょう。ラジオネーム□さんからの質問。『最近あった良いことを教えてください』だそうです。私は、寿司屋でイカをたらふく食べたことですかね。Cさんは?」


C「・・・ビックリしちゃって、何も覚えてないです」


E「質問の答えになってませんね」


ハハハハハ(収録スタジオの笑い声)


C「本当に覚えてないんです。今朝」


E「だから、何が」


ハハハハハ(収録スタジオの笑い声)


C「・・・えっと・・・」


E「はい!では次の質問いきましょう!」







 このラジオの音が、どこかの農村の豊作に影響しているか?




Wem der große Wurf gelungen,


Eines Freundes Freund zu sein,


Wer ein holdes Weib errungen,


Mische seinen Jubel ein!


Ja, wer auch nur eine Seele


Sein nennt auf dem Erdenrund!


Und wer's nie gekonnt, der stehle


Weinend sich aus diesem Bund!

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