Tune the Rainbow

Grimgerde(節制)

第1話「いいインナーの日と聞きまして」

蓮美「うーーーーーん…」

羊「見ないフリをしようとしてるんだけど、どうしても視界に入ってしまう。

どうしたの蓮美、下着のカタログを片手に悩んで」

蓮美「10月9日が私の誕生日だったから、自分に何かご褒美買うのもいいかなって」

零韻「次元の狭間で誰かがくしゃみしてるのは気のせいか」

羊「チュチュアンナさんじゃん。可愛いのからクールなのまで、乙女心鷲掴みのブランドさんね。

あ、これ可愛い」

蓮美「サイズも豊富だから助かるの。なかなか私のサイズってなくて…

ただ、またサイズが変わったみたいだから計り直さないと」

零韻「痩せたのか?」

蓮美「ううん。寿城と付き合い始めて、今のサイズが窮屈になってきたの」

羊「ほぅ」

零韻「ほほぉ」

蓮美「えっ?……やだ、やっぱり胸って揉まれると大きくなるものなの?」

零韻「えっ」

羊「今さら????」

蓮美「えっ??」

羊「問おう。貴女のサイズは如何ほどか?」

蓮美「今付けてるは、Eの70」

羊「ワイヤー入りで?」

蓮美「入ってないと支えきれなくて安定が悪いわ」

羊「……………A65のあたしには未知の世界だわ」

蓮美「羊も月翔にマッサージしてもらえばいいわ」

羊「マッサージ!!!!いやらしい!!!!」

零韻「新婚が何言ってるんだ」

羊「月翔もあたしも、胸にそんなにこだわりがないのよ。一度経験してみたいとは思うけど、重たそうだし」

蓮美「実はちょっとイルカショーの時窮屈かなって」

零韻「針刺して脂肪吸い出せばいいじゃないか」

蓮美「やだ怖い!痛そう!零韻やってみせてよ!」

零韻「私別に困ってないし…って何するんだ羊!!」

羊「うーーーーん、この手ごたえ…C70ぐらい?」

零韻「なんで触っただけでアンダーまで分かるんだ」

羊「ふふふ、女性誌専属モデルをなめんじゃないわよ。ついでにどんなブラつけてるか見てあげるわ」

零韻「発言のそれが完全に下品なスケベ親父なんだけど」

蓮美「あらシンプル」

羊「え、ホントにシンプル。しかもグレー?!なんで?ねぇなんで?!」

零韻「レースとかフリルが付いてるのはなんか苦手だ」

羊「何言ってるのこの子」

蓮美「だからってこんなスポーツブラみたいなのはさすがに蔵人兄さんが可哀想」

零韻「それこそ兄さんは関係ないだろ!」

羊「蓮美、カタログ貸して。アンタってばホントこういうことに無頓着なんだから…!ジュニア用のブラでもピンクのリボンぐらい付いてるわよ……こんなのどう?」

零韻「ヒエッ。い、いやだ!赤は嫌だ!いかにも「召し上がれ」って感じでなんかいやらしい!!せめて紫か青にしてくれ!!」

蓮美「紫のほうがよっぽど官能的かと。こっちなんてどう?」

零韻「うわぁああああ無理!無理ィ!紫か青って言ったじゃないか!!

こんなお花畑みたいなキラキラふりふりしたブラなんて絶対無理だ!!!

こんなの装備するくらいなら舌噛んで死ぬ!!!!!!」

羊「この拒絶反応のすごさ。前世でブラに家族を喰い殺されたの??」

零韻「わ、わかった!わかったから…これ。これならいいだろ?」

羊&蓮美「地味!!!!!!!!!!」

零韻「自分の作品の評価が地味だと生きていけないけど、下着が地味でも生きていけるじゃないか!!」

羊「アンタが星一おじさま似な中の下ぐらいの一般ピープルな顔ならあたしも妥協した!!でも仮にも鏡珠母さん似の美人で蔵人兄さんの妹っていう、そこだけでもうすでにハイスペックな人間がこんな平々凡々な下着を身に包んでるっていうのがもうすでにあたしの美意識に反するわ!!」

蓮美「おじさま、美形ではないけれどちょいワルぐらいなら全然イケると思うの」

零韻「ごめん父さん。何も否定できない」



蔵人「隣の零韻の部屋で女の子たちがキャッキャウフフしている気配を察知」

寿城「安心しろ。だいたいのことは俺にも聞こえてる」

月翔「ここは男同士でも下着の話をするべきだと、僕のゴーストが囁いてる。

しかも今日は11月17日、『いいインナーの日』です」

寿城「あー、これから冷えるもんな…俺なんて真冬でも海に入る時もあるから、

薄手で動きやすい下着があれば揃えたい」

月翔「兄さん、先月男性誌の下着特集でモデルやってたじゃん。どうだった?」

蔵人「最近はやっぱ軽量化されてるものが多いように感じるな。

薄手でストレッチ性の高いものも増えてるし、保湿性の高い繊維が使われてるものもあるし。

寿城の場合は船上で洗濯はできるだろうけど、枚数が多いにこしたことはないだろうから…『薄くて軽くかさばらない』『シワになりにくい』『すぐに乾く』『着心地が良い』でいうと…

薄くて超軽量のストレッチ天竺素材が使われてるこっちなんていいんじゃないか」

月翔「………兄さん、芸能界辞めても企業の営業でやってけるんじゃない?」

蔵人「『当社の従来品を畳むとこのように2cmほどの厚みになりますが、新製品のこちらは畳んでも厚さ1cmほどです。場所も取らずシワにもなりにくい。如何ですかお客様?』」

寿城「ンフッwwwww兄貴やめろwwww笑うwwwwwww」

月翔「無駄にいい声+高すぎる顔面偏差値wwwwwwwww」

蔵人「あー、でもこの商品はよかったなー。タイツなんだけどウエストゴムがなくてさ、あんまり締め付け感ががなくてよかったよ」

寿城「なんだカットオフって」

月翔「へぇ、切りっぱなしで縫い目がないんだ。いいね」

蔵人「…二人とも、よく聞いてくれ。この商品、一つすごいところがあるんだ」

月翔「えっ」

寿城「な、なんだよ改まって」

蔵人「このタイツな。何がすごいって…


一枚穿きができるんだ」


寿城「何ぃ…?」

月翔「それは一大事だ…!!」

蔵人「だろ?これからの季節男でもタイツは必須!でもタイツの下にパンツを穿いていると、トイレの度にきつい!でもタイツが一枚穿きなら?」

寿城「…寒くない上に時間も短縮できる!」

蔵人「というワケで撮影が終わって色違いで三枚購入させて頂きました」

月翔「それ僕も欲しいな。病院内は一応空調は効いてるけど寒い日は寒いし。このサイトで買えるの?」

蔵人「だろうと思ったよ。ほい」

月翔「えっ」

蔵人「寿城にも」

寿城「…マジか」

蔵人「自分が使っていいと思ったのは身内にも使ってもらいたくなるだろ?

…あと、さ。月翔も寿城も、ホント頑張ってるって思うからさ。俺からの勤労感謝、みたいな?」

月翔「うっ……わぁ………は、恥ずかし……!!」

寿城「…………」(赤面)

蔵人「俺もちょっと恥ずかしい。でも聞いて欲しい。

……月翔は小児科で、寿城は海上で。どちらも最前線で命と向き合って戦ってる。

…お前たちの手は、誰かを助けられる手なんだ。心からすごいと思う…だからこそ、こう思う。『掴んだ誰かの手を絶対に離すな』」

寿城「…」

月翔「…」

蔵人「月翔も寿城も、掴んだ手を救うことができる知識と技術がある。それだけの覚悟を持って自分で選んだ道なんだと思う。……月翔も、寿城も。俺の自慢の弟分だよ」

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