第134話 練習試合 2
不穏な空気を残しつつ、バレーとバスケ、それぞれゲーム形式での練習が始まった。二面あるコート内に女子たちが散っていくのだが、天海さん目当ての人が多いのか、やはりバスケの方が観客が多いようだ。
試合のほうは、クラスマッチ本番の時と合わせて、前後半合わせて20分で行われる。正式には確か10分×4Qのはずだが、それだと終わるころには全員へとへとになってしまうので、そう言うところに配慮したのだろう。
まずは、本番と同じく、10組A対11組Aの試合から。
「海、わかってるとは思うけど、手加減ナシだからね」
「当然。まあ、経験者相手に舐めプする余裕なんて私たちにはないけど」
10組のチーム状態が良くないことはすでに海も知っての通りだが、当然、油断はない。
授業始めからずっとやる気なさげにしていても、荒江さんが実力者であることは変わらないし、先日の衝突のこともあって、試合のほうで負かしてやろうと荒江さんが思っている可能性だってある。
「ジャンプボールだけど、誰がやる? 身長で言えば荒江さんが一番高いと思うけど……」
「あ? 私はパス。天海がやればいいじゃん。どうせなんでもできんでしょ?」
「そんなことないけど……じゃあ、今回は私が行くね」
ということで、先に天海さんがコート中央へ。
そして、11組のほうは。
「中村さん、お願いできる?」
「ん、引き受けた。まあ、この中で言えば頭一つデカい図体の私で当然だろうけど」
先日の一対一と違って、ジャンプボールは中村さんがやるようだ。みんなと並んでいるとよくわかるが、海や天海さん他、大体似たような背丈の中で、中村さんは文字通り一人飛びぬけている。
バレーやバスケットなどは特に『身長=武器』だから、彼女のこの体格は、11組にとってはアドバンテージになるはずだ。
中村さんと天海さんが、センターサークル内で相対する。
「なるほど、君が噂のユウパイか。わりと学内では有名だから名前だけは知っていたが、実物を見ると、……うん、これは確かに脅威かもしれない」
「ゆ、ゆうぱい?」
「夕、この人の言うことは話半分でいいから。……中村さん、同性でもそういうのダメだよ」
「おっと失礼。ついつい先程の前原君との会話の雰囲気を引きずってしまった」
中村さんがにやりとした表情で俺の方を見てきたので、慌てて視線を逸らす。
そういうことを言われると、後で海にどういうこと弁解しないといけない――ああ、やっぱり不審そうな目をこちらに向けてきている。
中村さんとは大した話はしていないが、
……もちろんちゃんと話はするのだが、また『バカ』だと呆れられてしまうだろう。
ダメ彼氏ポイントがまた一つ加算されてしまった。
それはさておき、先生のホイッスルを合図に、ゲームが開始された。
最初のジャンプボールをとったのは、やはり中村さんだった。
「ほいっ、キャプテン」
「ナイスっ」
身長の差で制した中村さんが、海の前へとボールを叩き落とす。体格だけでなく、そこそこ運動もできるようだ。
天海さんも頑張ったが、ぎりぎりのところで中村さんのリーチの長い腕に負けてしまった。
「みんな、まずは一本、慌てないでじっくり攻めよう」
司令塔の海の声に頷いた四人が、ゆっくりと動き出す。おそらく暇な時間を見つけては練習の時間に充てていたのだろうか、パスを受ける動きやドリブルなど、その努力の跡が見て取れる。
こういう根っこところで真面目なのは、なんとなく進学クラスっぽい気が。
10組チームのほうも、それぞれ一人ずつにマークがつく形に。
「夕、やっぱり来たね」
「うん。やっぱり海の相手をするのは私の役目かなって」
ボールを持った海につくのは、当然10組キャプテンの天海さん。
1年の時は同じクラスで1,2を張っていた美少女のマッチアップということで、周囲の男子たちから多少のざわめきが起こる。
「……夕、本当はこの前の決着をつけたいところだけど……ごめん、今日はちょっとパス」
「え?」
「中村さん、夕のこと引き受けてもらっちゃていい?」
「よしきた。この中村に任せろ」
だが、しかし、そんな周囲の期待を裏切って、海は天海さんではなく、別の人がいるほうへ。
「――こんにちは。この前はどうも」
「……っ」
向かったのは、11組のもう一人のエース(のはず)である荒江さんだった。
どうやら天海さんの前に、先にこちらのほうを片付けるつもりか。
「なに、私に何か用?」
「別に? ただ単にこのほうがいいって私が思っただけ。荒江さんも上手いことには変わらないわけだし」
「誰が来ても同じだよ。ブランク合っても、休憩アリの20分だけなら今でも余裕だし」
「なら、その余裕もこれでおしまいだね」
「言うじゃん、二番目のくせに」
「……ぎゃふんと言わせてやる」
瞬間、ゆっくりとドリブルをしていた海のテンポが変わり、荒江さんを抜くべくスピードを上げる。同程度の実力ならこれであっさり抜けるのだろうが、さすがに経験者だけあって、荒江さんもしっかりとついてくる。
やはり一年競技から離れていても、個人でのスキルは遠く及ばないか。
「っ……」
「ほら、どうしたん? ぎゃふんと言わせてみろよ」
「うん。じゃあ、そうする」
「は?」
「……はい、パス」
完全に勢いが止められたと思った時、海はそのままノールックで自らの後方――ちょうどドリブルを開始した地点へ向けてパスをした。
空いたスペースには、いつの間にかマークを外してその場所に走り込んでいたチームメイトが。
「
「はいよっ!」
荒江さんに前へ出られないよう背中で抑えてから、海がチームメイトへと指示を飛ばす。
パスを受けた地点はゴールからは少し遠いものの、それでも敵チームからのブロックがなければ、ゆっくりと狙いを定めることができる。
「んのっ……!」
なんとか中村さんのマークを外した天海さんが手を伸ばすも、すでにボールは綺麗な弧を描いていて。
ボールはリングに嫌われることなく、無事にゴールへと吸い込まれていった。
「お、おおっ! やった、決まったぞ!」
「ナイシュー、ナナちゃん。練習通りだ」
「ナイスぅっ!」
二取さんと北条さんから別途で教えでも受けていたのだろうか。ちゃんとした連携で、あっさりと11組が先制点を奪う。しかも得点者はエースの海ではなく未経験者と思われる子だから、雰囲気はさらに盛り上がるはずだ。
ちらりと海が俺の方を見る。どう? と言わんばかりの顔。
「……うん、すごい」
それに対して親指を立てて頷くと、海は満足そうに微笑んで小さく俺へピースサインを作ってくれた。
……かわいい。
その後、すぐに真剣な表情に戻った海は、荒江さんのほうへと向きなおる。
「ねえ、荒江さん」
「……んだよ」
「今のでわかったけど、やっぱり今の私じゃ荒江さんには追い付けない。だから、今回はチーム皆の力であなたをぎゃふんと言わせてみせるよ」
「……ちっ」
マッチアップした時点ではプレイが熱くなりそうで心配だったものの、あの様子ならこのまま見守っても大丈夫そうだろう。
「さ、皆、次は守るよ。こっちも練習通りでやれば大丈夫だから」
「「「「了解」」」」
海の声ですぐさまディフェンスに切り替えたところを見るに、やはり海を中心としてとてもよくまとまっている。
チームスポーツは結局、こういうところがわりと強かったりするのだ。
さて、お次はウチの10組だが――。
「天海、ボール」
「え? あ、うん。荒江さん、まだ始まったばかりだし、すぐ取り返そうね」
「そういうのいらない。私にボール集めて。それで楽勝だから」
「え? でも、それじゃあ……」
「あれぐらいの素人どもなら私一人で十分だから。ほら、ボール」
「う、うん……」
先ほどの得点で荒江さんもやる気を出したようだが、果たしてそれで上手くいってくれるだろうか。
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