第125話 海と渚 1
休日の昼間のこの時間ということもあるし、当然うちの高校の生徒も俺たち以外に遊びに来ているだろうとは思ったが、つくづく面倒なことが起こるものだ。
特に俺の場合、この場所では、以前は天海さんと鉢合わせ、そして今回は荒江さんと――なんだか運の悪さのようなものを感じざるを得ない。
「こ、こんにちは荒江さん。もしかして荒江さんも練習か何かで来たのかな?」
「あ? いや、別に。ってか、もしそうだとしてアンタにそれ言う必要あんの?」
「別にそんなこと……気を悪くしちゃったのなら、ごめんね」
「……ちっ」
俺たちの姿を見た瞬間から、荒江さんの表情は、天海さんと顔を合わせる直前の、友達と遊んでいる時の柔らかい表情とは一変し、険しいものになっている。
教室で一緒の時はまだ周囲を気にしていたのだろうが、先生や、天海さんに友好的なクラスメイトたちがいない今、露骨な態度を隠そうともしていない。
荒江さんの視線が、天海さんから、その後ろにいる俺たち三人のほうへ。
すると、何かを納得するようにして、はっ、と鼻で笑い飛ばした。
「――あ~、なるほど。仲良しさん達で何やってんだろって思ったら、前原、アンタ天海に告げ口したんでしょ? あの状況でアレ聞こえてたとしたらアンタしか考えられないし」
「……なんのことか俺にはわからないけど。今日はクラスマッチの練習も兼ねて遊びに来ただけだし」
「あ、そ」
ひとまずとぼけておくが、自分から聞こえるように言ったつもりのくせして、なんて白々しい人だろう。
仲のいい友達があんなふうに言われたら、誰だって心配するだろうに。
「あ、もしかしてさっき、あっちのコートで玉突きして遊んでたのアンタたち? 随分しょぼい1on1やってんな~と思ったけど、アンタたちなら納得だわ」
「しょぼいって……荒江っち、さすがにそれはちょっと言い過ぎじゃん? 部活未経験だけど、二人ともすごい上手いと思うケド」
「素人にしてはね。それでも事実なんだからしょうがないじゃん。新田だって、もっと上のレベル近くで見てたんならわかるっしょ? あ、もうあの先輩とは別れたんだっけ?」
「ぐっ……」
んのヤロ、というごく微かな新田さんの呟きが俺の耳に届く。
こっそり聞いてみると、今は競技から離れているらしいものの、どうやら彼女は中学時代までバスケをやっていたそうで、最高成績は県大会ベスト4だという。中学の場合だと中々の強豪校なので、その視点で言えば、確かに二人のプレーはどちらかと言うと雑に見えるのだろうが、だからと言って面と向かってけなしていいわけではない。
「ま、そんなわけだから、せいぜい本番で私の足引っ張らないように『練習』しときなね? 前にも言ったけど、恥かかない程度には私もやるから、まあ、ボールぐらいは回してあげるよ」
「うん……でも、出来れば私も力になれるよう頑張るから」
「あ、そ。んじゃ、厄介者の私は消えるわ。せいぜい後ろの告げ口クンと一緒に仲良く遊んでたらいいんじゃない?」
「告げ口なんて……真樹君はそんなんじゃ」
「別に言い訳しなくてもいいって。ってか、天海ってば、随分とソイツの肩――ああ、なるほど、そういうことか」
俺のことを庇う天海さんの様子に、荒江さんは意地の悪い笑みを浮かべる。
「そういうことって、どういうことかな?」
「別に? 私の勝手な想像だし、天海はいつも通り皆の前でへらへらしてればいいよ。じゃ、今度こそサヨウナラ」
「待って荒江さん、話はまだ――」
「あ~うるさいうるさい。聞こえない聞こえな~いっ」
天海さんの制止を無視して、荒江さんは少し先で待っている三人の元へ。
なんだか言われ放題で癪な気分だが、しかし、こんなところで言い争うのも不毛だし、ここは荒江さんの望み通り、彼女たちのことなど無視してしまえばいい。
そう思って、新田さんと顔を見合わせた俺は、彼女たちを追いかけようとした天海さんを制止しようと手を伸ばして――
――だっさ。
その瞬間、今までじっと事の成り行きを見守っていた海から、そんな呟き――いや、お世辞にも呟きとは言えないほどの大きな声が発せられた。
ずっと静かだったので少しだけ不思議に思っていたが、やはり当然のように海は怒っていた。
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