第51話:心を一つにして
一馬の目の前で最後の飛竜が街へと落ちてゆく。
果敢にも超巨大ゴーレムへ挑んでいた数多の兵士はおろか、冒険者たちさえも強大な敵の前に満身創痍。
トロイホースの人々は超巨大ゴーレムに蹂躙される街をただ茫然と眺めることしかできないでいた。
「くそっ……
隣の一馬は掛けることが言葉が見つからない。
煌斗は瑠璃にとっては幼少期を共に過ごした弟のような幼馴染である。
例え、絶縁したとしても、優しい記憶と思い出が瑠璃を苦しめているに違いない。
(ニーヤの姿が見えないけど、まさか……!?)
もしかすると瓦礫に埋もれて身動きが取れていないだけかもしれない。もしも、そうならば助け出さねば。
しかしそんな一馬の意志を打ち砕くかのように、超巨大ゴーレムの破壊を伴う足音が響き渡る。
煌斗が呼び出した超巨大ゴーレムは、依然無作為に街の破壊活動を行っている。
怒り、憎悪、嫉妬。そんな負の感情が渦巻いて、強行に及んでいるとは思う。
しかしここまで豹変してしまうものなのか。友人関係では無かったが、煌斗とはそれなりに長い時間を過ごしてきている。
やはりこれは、人を“魔光”に変えて吸収してしまったのか否か。
この状況になっても尚、一馬は信じたかったのだ。
現状が煌斗の本意ではなく、錯乱の果てに生じた結果だということを。
だが、躊躇っている時間はあまり無さそうだった。
そうしている間にも、トロイホースは超巨大ゴーレムによって完全崩壊の道を着実に歩んでいる。
今、この場でまともに戦えそうなのは自分と、そして白き巨人となったアインのみ。
「アイン、もう一度行くぞぉっ!!」
「ヴォォォォっ!」
アインは瓦礫を払いのけながら立ち上がる。自慢の白銀の鎧はところどころが拉げていた。
しかし中にある本体は鎧のおかげで無傷で、アクスカリバーも折れてはいない。
まだ戦える。戦えるならば。
この世界には無理やり連れ込まれた。戦いを強要され、ひどい目にもあった。心のどこかでは、この世界などどうでも良いと思う自分がいるのは確か。
しかし同時に、守りたいと願い自分も存在していた。
この世界はニーヤやドラグネットの故郷である。瑠璃も散々な目にはあったものの、今ではこの世界での四人での旅路を楽しんでいる。
もはや元の世界に帰ることは叶わない。だからこそこの世界で生きて行くと決めた。
ならば平穏を望むし、これからも楽しい旅路を続けてゆきたい。
この世界で絆を深めた仲間たちと、これからも一緒に!
(瑠璃、ごめん……!)
一馬は迷いを振り払い決断を下す。
そしてアインへセイバーアンカーを撃たせた。アンカーの先端が超巨大ゴーレムの太ももの裏へ突き刺さる。
背中のブースターユニットからドラゴンバーストを放って、飛び上がる。
そして再度アンカーを超巨大ゴーレムの背中へ打ち込み、もう一度ドラゴンバーストを発して昇って行く。
しかし昇っている途中で超巨大ゴーレムに感づかれた。
超巨大ゴーレムが身体を捻れば、アンカーで繋がっているだけのアインは振り子のように振り回されてしまう。
(だけど、あと一回!)
一馬は一か八かアンカーをゴーレムの首筋に向けて放った。運よくアンカーが突き刺さる。
もう一回ドラゴンバーストを撃って、ようやく超巨大ゴーレムの頭頂部に達する。
そして一馬はアインを通じて、下半身が埋もれた状態の煌斗の姿を感知した。
幾ら図体がでかくても、このゴーレムの中心は頭の上にいる煌斗が本体の筈。
ずっとこんな状況でも煌斗を救う手立てが無いか考えていた。しかし、その選択は捨てることにした。
もはや煌斗をやるしかない。この街を守るためには――
「エアスラッシュっ!」
「はは! 甘いな木造! ゴールデンスラッシュっ!」
アインがアクスカリバーから放った青い魔力の刃と、煌斗の聖剣が打ち出した黄金の刃が空中でぶつかり合った。
力が拮抗したのはほんの一瞬。金色の刃が青い刃を消滅させた。
「俺のゴーレムの方が強いぃぃぃ! お前のゴーレムなんて、木偶人形だぁぁぁ!」
「アインっ!!」
アインはまるでかトンボのように、超巨大ゴーレムに地面へ叩きつけられた。
「さぁ、ぶっ壊してやる。これで俺が最強! 瑠璃姉、見てて! 俺の方が強い! 俺が最強! 強い俺とたくさんたくさん子供作ろう! 大丈夫、散々綺麗で練習したから俺上手だよ! 木造なんかよりも満足させるから! 心も体も誠心誠意尽くすから! だから待ってて瑠璃姉……瑠璃姉ぇぇぇ!!」
アインを踏みつぶそうと、煌斗の超巨大ゴーレムが足を上げる。
「ん……? なんだぁ……?」
超巨大ゴーレムの足が宙に浮いたまま、ぴたりと止まる。
アインへは超巨大ゴーレムの足裏の影が落ちているのみ。
何故ならばアインの目前には鈍色の輝きを放つ精巧な意匠の複数のゴーレムが、超巨大ゴーレムの足裏を押しとどめている。
「いけぇ! ギルバートシリーズ! 押しかえせぇぇぇ!!」
ゴーレム集団は、目の辺りから赤い炎のような輝きを放って、力を発する。
強靭な腕力は押し返し、超巨大ゴーレムを仰向けに転がす。
強い揺れと凄まじい砂塵が巻き起こる。
「ぬわっはっはっは!」
そんななか絶望をぶっ飛ばす、甲高く尊大な笑い声が頭上から降り注いでくる。
踵を返すと、背後にあった家屋の屋根の上には――
「我こそは炎の中より生まれし、偉大なゴーレム使い! ドラグネット=シズマン! 街を滅茶苦茶にするお前をあたしはぜっーったいに許さない! うわわ!?」
叫びの勢い余って、ドラグネットは足を滑らせて屋根からすってんころりん、滑り落ちる。
咄嗟に一馬は飛び出すが間に合うかどうか。
その時、颯爽とニーヤが過り、ドラグネットを受け止めた。
「なんでわざわざ高いところに昇ったんですか。危険です。ドラはバカなのですか?」
「バカじゃないもん! 名乗りを上げるって言ったら高いところからが定番でしょ!」
「ドラ!」
一馬が駆け寄ると、ドラグネットは八重歯を覗かせながら満面の笑みを浮かべた。
「カズマ、お待たせ!」
「もう、その……大丈夫なのか?」
「うん! もう大丈夫! ずっとグジグジしててごめんね。でもあたし決めたから! 一緒にあのゴーレム野郎をメッタメタのギッタギタにしてやるんだから!」
もはや何もいうまい。ドラグネットが立ち直り、戦線に復帰してくれたのならそれで良し。
悲しみを乗り越えた復活したドラが嬉しくて、一馬は頭を撫でる。
ドラグネットは満足そうに満面の笑みを浮かべた。
「でね、さっきのカズマの攻撃をみていーこと思いついたの!」
「本当か!?」
「うん! 試してみる?」
「勿論!」
「じゃあ、瑠璃の協力も必要だね?」
ドラグネットは愕然と膝を突く瑠璃へ心配気な視線を送った。
一馬は瑠璃へ歩み寄り、彼女の肩を叩く。
「瑠璃、お願いだ。ドラが良い方法を思いついたらしい。力を貸してくれない?」
「情けないな……立ち上がって欲しいと願っていたドラはちゃんとできたのに、願った私がこの様では……!」
突然、瑠璃の肩に力が籠った。
彼女は袖で目の辺りを拭う。そして力強く立ち上がった。
「ドラの話に私も乗った。では話を初めて貰おうか!」
「時間がありません。早く教えてください、ドラ!」
「はいはい、すぐに話すって! じゃあみんな集まって―!」
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