第39話:瑠璃の強がり
「一生懸命働いてくれたんだから、報酬を支払うのは当然だろ?」
一馬はドラグネットへギュッと金貨二枚を握らせる。
同時にニーヤと同じような、ぷにぷにしていそうな頬へ僅かに朱が差した
「か、返してって言ったっても返さないからね!」
「はいはい、分かってます分かってます」
「あ、あと! ホントはあたしに仕事依頼するの、こんなに安い値段じゃないから! 今日は特別出血大サービスなんだから!」
「了解了解。次頼むときはもっと払うよ」
「それと、それと! ああもう!!」
突然ドラグネットは踵を返して走り出す。
しかしすぐさま振り返り、
「お、お金渡したこと、後悔させてやる! このお金を使ってギルバート第七号機を作って、今度こそコテンパンにしてやるんだから!」
「良いぜ、かかって来いよ。次も返り討ちにしてやる」
「ぬぅ! 首を洗って待ってろよ、悪魔鬼畜変態ロリコンゴーレム使いのカズマ! バーカ、バーカ!!」
そういってドラグネットはシークレットブーツを履いているためかカクカク覚束ない足取りで、逃げるように走り始める。
「おーい! ミスリルスネークの素材はいらないのかぁ!?」
一馬の叫びはドラグネットと同じく岩場の向こうへ消えてゆく。
「さぁて、俺たちもそろそろ……」
と、踵を返すとニーヤも瑠璃も夜通しの作業が堪えたのか、アインの足へ背中を寄せて安らかな寝息を上げている。
一馬自身も眠いのは山々だが、さすがに一緒に眠って寝込みを襲われてはたまったもんじゃない。
「いざって時は俺と一緒に頼むな、アイン」
アインは応えるように、僅かに体を揺らした気がする一馬なのだった。
●●●
金貨6枚に、銀貨や銅貨が多数。
さらに鉱山で倒したミスリルスネークは、この辺りを荒らしまわっていたお尋ね魔物でもあったらしい。
素材の一部は貰うことができ、更に町で手続きを行えば金貨5枚が獲得できるとのこと。
たった数日で二か月以上の資金ができた。
アイン様々である。
そこで資金が十分に溜まった一馬は、諸々の物品を揃えるべく当初の目的地だったソロシップ州の主要都市トロイホースを目指し、アインを進ませているのだった。
「まだ疲れてますか?」
一緒にアインの肩に乗り、うなだれたままずっと黙り込んでいる瑠璃へ問いかける。
「ん……? ああ、大丈夫だ。少し考え事をな。せっかく更に魔法上金属も追加で手に入ったし、あとは、色々……」
顔色も悪い。夜通しでの鉱山作業が堪えているのかもしれない。
これ以上話しかけて体力を消耗させたくないと思った一馬は、アインの操作へ意識を戻す。
森の木々が捌け、少し進んだところに立派で長い壁が見え、城門前では先行していたニーヤが待っていた。
「おお、これが噂のゴーレム:アイン……」
衛兵はアインを見上げるなり、そう呟く。
田舎は噂の広がりが早いと聞くが、まさかここまでとは。
ゴーレム――正しくは、アインは一馬の人形だが――は城門から少し入った専用スペースへ置くとのこと。
一馬は衛兵の指示に従って、アインを進ませる。
するとそこには、たくさんの人だかりができていた。
その中を歩かせれば、ちょっとしたパレード気分である。
「アインだ! ママ、このゴーレムがアインなんだよ! カッコいい!!」
人だかりの中で、小さな男の子が嬉々とした声を上げる。
やっぱりどこの世界でも、男児は巨大ロボットが大好きなようだ。
そしてこの人だかりは、すでに噂となっていたアインという名の優秀なゴーレムを一目見たいと集まった人たちらしい。
「これなら次の仕事も簡単にみつかるかもですね」
「そうだな。良いことだ」
やはり今日の瑠璃は少しおかしい気がする。疲れとはまた別のなにかのような。
「休んだ方が良くないですか? 買い物なら俺一人で行きますよ?」
「大丈夫だ、心配しないでくれ。私も直接確かめたいものがあるんだ」
「……そうですか。わかりました。でも、無理はしないでくださいね」
瑠璃は答える代わりに笑顔を見せる。
2人は人だかりを一生懸命押しとどめているニーヤへ駆け寄る。
「ニーヤ、悪いけどアインの番を頼む。俺と先輩で買い物へ行ってくるから」
「わかりました! この戦線は死守いたします! おい、そこ! 勝手にアインに近づいちゃだめです! 危ないですっ!」
土産に何か美味しいものでも買って来てやろうと考えつつ、一馬と瑠璃はトロイホースの町へ降り立った。
「必要なものはリストアップしてある。これを基に店を探そう」
瑠璃は羊皮紙を差し出した。確かに必要なものばかりだが、一点明らかに足りない。
遠慮なのかなんなのか。もしかして、今の妙な態度も関係しているのか。
しかし瑠璃がどう考えていようとも、コレは真っ先に買おうとしていたもの。
「じゃあ、あそこから始めましょうか」
一馬は通りを少し進んだところで軒を連ねている衣類店を指し示す。
看板の色や、店の外に陳列されてるものからして、明らかに女性向きの店舗である。
すると瑠璃は苦笑いを浮かべた。
「あんなところは最後でいいよ。むしろ寄らなくてもいい」
「何言ってんですか。その下は、えっと…………し、下着、だけなんですよね?」
自分でも耳まで真っ赤なのがわかった。
てっきり瑠璃も恥ずかしがって、フードでも被るかと思ったが、彼女はまるでクラスや兵団へいたときのような鉄面皮のままだった。
「私の服なんかよりももっと必要なものが有るはずだ。私はこのままで構わないのだが……」
「なんでそんなこというんですか?」
卑屈な態度に少しムッときた一馬は、多少厳しめにそう言い放つ。
「なんでと言われても、効率を考えた上での判断だ。特に非戦闘員である私の装備などは後回しなのが適切だろ?」
「戦闘ではそうかもしれません。でも、まずは先輩の装備です。譲れません」
「だから、私のことは良いと!」
一馬は布切れを差し出した。
「鼻水出てます。冷えたんでしょうね?」
「っ!?」
瑠璃はすぐさま顔を真っ赤に染めて、一馬から布切れを奪い、鼻を拭った。
「それに声も少ししゃがれてます。いつまでもそんな恰好ばっかしてるからです」
「……」
「確かに先輩は非戦闘員で、戦力としては考えてません。だけど、先輩は戦う以上に、俺たちを助けてくれてます。ゴーレム使いのことを調べてくれたり、仕事を見つけてきてくれたり、パイルバンカーだって作ってくれたじゃないですか! 先輩に倒れられちゃ困ります! だから俺はまず、先輩の装備をちゃんと整えたいんです!」
気持ちがきちんと伝わるよう、熱をこめて、だけど優しく。
やがて瑠璃の鉄面皮が崩れ、彼女はフッとため息を付いた。
「ありがとう、一馬君……わかったよ、君の指示に従う」
「あと、先輩」
「ん?」
「できたらなんですけど、これからはあんまり強がらないでください。せめて俺やニーヤの前では素直でいてください。お願いします」
一馬がそういうと、瑠璃は柔らかい笑みを浮かべた。
「わかった。ありがとう一馬君」
瑠璃の白い頬へ僅かに朱が差す。
クールで冷静な表情も良いが、こうして笑っているほうが何倍も魅力的に感じる。
「じゃあ、重い話はここまで! 買い物始めましょうか!」
「ああ、よろしく頼む。しっかり私に似合う装備を選んでくれよ?」
「お、俺が!?」
「もちろんだとも」
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