KURO

富本アキユ(元Akiyu)

第1話 KURO

国民的クイズアプリ、マックスベット。

赤色のベットに黄色でMと書かれたマークがデザインされたゲームアプリだ。

毎日午後7時から開催されるクイズ大会のイベントがある。

最後まで残ると賞金10万円。2位なら5万円。3位は1万円。

毎日賞金を獲得するチャンスがある為、多くのユーザーが参加している。

イベントが始まってから6年が経過していた。

4年前からずっと勝ち続けている無敗のチャンピオンがいる。

今日で連続1482回目の優勝だ。

その人物のハンドルネームは、KURO。

男なのか女なのか。子供なのか大人なのか。

全く正体が分からない謎の無敗のチャンピオンKUROは、実はマックスベットの運営であり、賞金10万円はやらせなのではないかとネット上で噂になっていた。


リリースから第1483日目。クイズ大会。第11問。

人気小説シリーズ「黄色い本棚」に出てくる主人公のライバル、堂島南の旧姓は?


「堂島南の過去について語られるのは、第四巻。その中で三日月南と名乗る描写が書いてある。三日月が答えだ」


黒いフードを被った少年が、薄暗い部屋の中、スマホを片手に独り言を呟きながら回答を打ち込んでいく。


クイズ大会は、毎日午後7時から全20問のクイズが出題される。

1問目から10問目までは優しい問題が続くが、折り返し地点である11問目から難問ばかり出題され、一気に脱落者が増えていく。

間違えた者から脱落していき、全20問まで全て正解した時点で3人以上残っていたらサドンデスバトルとなり、最後の一人になるまでクイズが続いていく。


「さあ折り返し地点で残っている人数は、1081人だ。ここから残り9問、何人が残れるか!?」


生放送で行っている為、実況者が状況を話しながらイベントを盛り上げる。

最終問題になる頃には、残り2人になっていた。


「さあいよいよ最終問題だ。準備はいいかい?この問題で優勝者が決まるかサドンデスに突入するか。ワクワクするね!それじゃ行ってみよう。最終問題!」


第20問。バターは元々食品とは異なる用途で使用されていましたが、その用途とは?


「医薬品だ。塗り薬として使用されていた」


黒いフードを被った少年は、スマホを片手に独り言を呟きながら回答を打ち込んでいく。


「正解したのは……1名。今日のクイズ大会の優勝者が決定しました!優勝者のハンドルネームは、やはりこの人KUROさんです。いやー、凄いですね。KUROさんの快進撃を止められる人は現れるのでしょうか?賞金10万円獲得です。おめでとうございます。脱落してしまった皆様、どうか気を落とさないで。明日もありますからね。また明日の夜7時、お会いしましょう。それでは」


今日のマックスベッド、クイズイベント終了後、ついに運営側が動きだした。


「またKUROか。KUROは一体何者なんだ。早く止めなければ。ネット上では、1位は、運営の人間だとずっと噂されている」

「もういっその事、連続での優勝者は無効にしてしまうようにルールを改変しましょうか」

「いや、今更それはダメだ。マックスベッターを目指すユーザー層からの苦情が止まらなくなるだろう。集客率に影響が出てしまい、ユーザー離れなんて事になっては……」


マックスベッターとは、マックスベットの賞金で生計を立てているユーザーの事である。KURO以外の2位に毎日なり続ける事ができれば、1カ月間を30日として5万円の賞金で月収150万円になる。それを夢見るユーザーが多いのだ。マックスベッターの頂点こそがKUROであり、KUROは月収300万円のカリスマ的存在のマックスベッターとして多くのユーザーのから羨望の眼差しで見つめられている。


「KUROは良い宣伝効果になっていますが、強すぎるのが難点です。我々の用意したどんな難問のクイズにもきっちり正解を出してくる。クイズ連続性回数のカウントも連続29660問です。どうしたものか……」


「私に提案があります。我々運営側からKUROに特別番組を企画し、出演オファーをかけてみるのはいかがでしょう。KUROにコンタクトを取る事ができれば、何らかの対策が見つかるかもしれません。社長、いかがでしょうか?」


運営会議で集められた社員達の目が、一斉にマックスベット運営会社の社長である守屋充に注目する。


「いいだろう。KUROを上手くコントロールできるようになれば、マックスベットの利益につながる」


運営スタッフは、早速準備の作業に入った。

初めてマックスベッターを顔出しで出演させるネット配信だ。

KUROのメールアドレスにメールを送った。

スタッフがメールを送って数日後、KUROから返信が届いた。


「社長やりました!KUROが特別番組の出演を承諾しました。我々の仕掛けた罠にまんまと引っかかったようです」


「そうか。KUROがどのような人物なのか、私も楽しみだ。私も番組を楽しみにしているよ」


ネット上では、KUROが出演する事が決まってからお祭り状態だった。

ネット番組の始まる日をカウントダウンして待っているユーザーで溢れかえっていた。


一カ月後、マックスベッターが集まるネット配信番組が始まりを迎えようとしていた。マックスベッターとしてネット上で活動している有名配信者、メロディーメロン、稲光、星見KEN。そして4人目が正体不明の無敗のカリスママックスベッターKUROと豪華な顔ぶれだ。


ついにマックスベッター特集のネット配信番組が始まった。

マックスベッターを紹介していく。

一人目として現れたのがメロディーメロンだ。

二十代女性だ。髪色がピンク色のショートヘアー。

コスプレイヤーのような地雷メイクをした女性だった。

彼女は、モデルとしても活躍していて、自身でファッションブランドを立ち上げている。デザインも作ったりしているようだ。

今回のマックスベッター特集の番組に出演するのは、自身のブランドを宣伝したりする事もできて願ってもない事だった。


続いて登場したのが稲光だ。

彼は、三十代男性で営業職のサラリーマンだ。一般人だ。マックスベットを始めた理由は、単純に副業のような小遣い稼ぎにでもなればいいなという動機から始めたらしい。

3歳になる息子がいる。今の目標は、息子の教育費をマックスベットで稼ぐことらしい。


続いて三人目として登場したのが、星見KENだ。

彼は二十代男性で有名国立大学の現役大学生。元々クイズが得意であり、その頭脳はKUROに最も近い男としてネット上で知られる有名人だ。今日、KUROに会えると聞いて楽しみにしてきたとコメントした。


いよいよ四人目の発表。KUROだ。

視聴するユーザーがほとんどが、KURO目当てで視聴している。

視聴者達から沢山のコメントが流れてくる。

男なの?女なの?

大人かな?

普通に考えて子供な訳ないだろ。

汚い感じのおっさんかな?


「さあ皆さん。お待たせ致しました。いよいよ、あの人の登場です。無敗のカリスママックスベッター、四人目のKUROさんの登場です。どうぞ」


司会進行役の男の声にも力が入る。


カーテンが開いた。

現れたのは、黒いフードを被った少年だった。


「初めまして。KUROです。よろしくお願いします」


KUROきた!

えっ!?嘘!?子供!?

男の子じゃん!!

イケメン!!


沢山の驚愕のコメントで溢れかえる。


「いやー、驚きましたね。まさか子供だとは。何歳ですか?」

「14歳です」

「中学生!!いやー……言葉が出ませんね。総合獲得賞金は、なんと1億4900万円。賞金はどのように使われているのでしょうか?」

「ほぼ孤児院に寄付しています。俺は金に執着がないので」

「お金に執着がないのに、どうしてマックスベットに参加していて勝ち続けているのでしょうか?」

「その理由は、今日ここに来た事です。こういう日が来るのをずっと待っていました」

「それはどういうことでしょう?」

「株式会社マックスベット社長、守屋充。お前も見ているんだろう。俺はお前を潰す為に今日までやってきた。ネット配信で好都合だ。お前が過去にやってきた事をここで暴露する。守屋充。お前の会社を潰す為に今日は来た。数々の不正に手を染めて大きくしてきたこの会社。その全ての証拠データを俺は持っている。これを暴露してやる。お前は離婚し、俺と母さんを捨てて仕事を選んだ。母さんは病気で亡くなったよ。母さんは最後まで泣いていたよ。お前は、母さんの葬式にすら顔を出さなかった。日を増す毎に弱っていく母さんをずっと見てきた。俺は許せなかった。お前が憎くて憎くてたまらなかった。俺の名前は、守屋純。お前の息子だ。今は母さんの旧姓である赤黒純として生きている。赤黒純は赤黒のKUROとして、守屋充の積み上げてきた不正で犯罪だらけのこの組織を潰してやる」


同時にKUROは、手に持ったスマホを操作した。


「マックスベットユーザーの皆さん。365日1年中、毎日10万円の賞金が獲得できるクイズアプリの金の出所。本当に提供しているスポンサーが出していると思いますか?スポンサーだけでは到底賄いきれていませんよ。現実は違うんですよ。本当の金の出所は、麻薬密売によって得た金を利用しているんです。その証拠を今、俺のユーザーページのコミュニティーページにアップしました。是非見てください。それからな、守屋充。一つ教えておいてやる。俺がクイズに正解し続けられたのは、事前に出題されるクイズの問題と解答をハッキングして盗んでいたからだ。だから俺がクイズの答えを間違える事は絶対にあり得ない。……それでは視聴している皆さん。今日までありがとうございました。KUROは、もう二度と現れません。マックスベットも終わる日が近いと思います。それでは、さようなら。最後は必ずKUROが勝つ」


KUROはそう言うと、番組中にも関わらず、その場を立ち去って帰ってしまった。


翌日の新聞記事の一面には、株式会社マックスベットの社長、守屋充と関係者が逮捕されたニュースの記事が記載されていた。


KUROの復讐は終わった。

マックスベットを、父の会社を潰す事こそが赤黒純の目的だった。

それ以降、無敗のクイズチャンピオンは姿を見せていない。




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KURO 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu

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