第65話 告白②

おっさんの仲間達は獣王国の王都で宿泊していたホテル緑園亭にいる。

どうやらおっさんを待っているようだ。


夕方過ぎに上位魔神パルトロンを倒し勝利したおっさんである。

タンカーで医務室に運んでもらって、ブログネタに落ちもできて満足したようだ。

医務室の中には観戦した獣人達が、闘技場が揺れた際に頭を受けて治療を受けているものが何人かいたのだ。


それは戦いでお騒がせしましたのと、白金貨3枚を運営担当の救護班に渡し範囲回復魔法を治療中の獣人にかけてあげるのだ。

これからやってくる獣人がいたら、その白金貨で治療するようにお願いするのだ。


なお、主に揺れた際にバランスを崩し転び、打ちどころが悪かったものが運ばれてくるだけで、そこまでの重傷はいないとのことだ。

非戦闘員の女子供は魔人が出た時に、闘技場外に避難しているのだ。


ここで治療を受けているものは、獣王武術大会の運営側の避難指示を無視し観戦を続けた者達である。


医務室で辻回復をしていたのもあり、すっかり日が暮れている。

王国の近衛騎士と従者と合流するのだ。


近衛騎士にはこの時間であるが、おっさんらは今まで泊っていたホテル緑園亭にいる旨、王城の武術大会の運営担当に伝えてほしいと伝言を頼むのだ。

畏まりましたと!とやや大きな声で返事を受けるおっさんである。

近衛騎士も従者も最後までおっさんの戦いを見ていたのだ。

従者が若干おっさんに震えている。


「お待たせしました」


おっさんが村人Aのような格好で会議室に入ってくる。

土の中に潜ったため水浴びだけ済ませたのだ。

ホテルで借りた寝巻のような格好なのである。


「それでこれからどうするのだ」


セリムに声を掛けられるおっさんである。


「そうですね、パメラ」


「ん?」


パメラに声をかけるおっさんである。


「けじめの途中で邪魔が入りましたが、納得ができていますか?」


「もちろんだ。皆もありがとう」


改めてパメラがおっさんや皆にお礼を言うのだ。

皆が協力して、パメラのけじめのために頑張ったのだ。

皆も満足した顔をしている。


(文句のない結果に終わったということか)


「パメラのけじめはこれにて終了ですね。パメラの母親や従妹の件もありますので、王城には行かないといけません。私が闘技場を破壊してしまったことについても、一言獣王国に挨拶と謝罪が必要かと思ってます」


パメラはまだ母親や従妹とは会えていない。

まだ2人がどこにいるかも聞けていないのだ。


闘技台は完全に破壊され、中央に10m以上の深さのクレーターができたのだ。

観客席もあちこちで深い亀裂が入り、歪んでしまった通路も多い。

とても安全には利用できず、倒壊しそうな闘技場だ。

300年で5回の改装をした獣王武術大会の闘技場の6回目の改装は、1から作り直した方が良さそうだ。


「あれは、ケイタのせいではないだろ。向こうが有無も言わさず襲ってきたし」


「そうである。たとえケイタ殿が何らかの使命があって、そしてあの魔神達がそれを邪魔する存在であってもケイタ殿のせいではないのである」


セリムとソドンの言葉に皆そうだという顔をする。

おっさんには人並を超えた魔力がある。

おっさんが検索神を信仰し、神から力を与えられていることは知っていた仲間達である。

力があると分かっているが、今回の一件で何らかの神の強い意思が介在した存在であると確信したようだ。

英雄でも到達できないような力で上位魔神パルトロンと戦ったおっさんである。


力が支配する世界で神の存在はとても大きい。

その神から巨大な力を与えられ、そしてそれを邪魔する邪悪なる存在である魔人達と戦っているのだ。

おっさんの行動を非難するものは仲間達だからではなく、この世界ではいないだろうという話だ。

それは神々すら否定する行為であるのだ。


(俺の使命はブログのネタ収集しかないけどね)


ただブログのネタのために異世界で活動をしているおっさんである。

神の意思ではなく、ブログのためである。


「ケイタ、上位魔神パルトロンとの闘いで急に強くなったというか、いきなり殴り合いだして、あれは何だったのだ?」


イリーナから話がふられる。

おっさんとしてもこのまま、無事魔神達を倒せてよかったねで終わるつもりはない。

おっさんが話しやすいように話を振ってくれるイリーナだ。


「ありがとうございます。私が上位魔神を倒した経緯ですが、少しピンとこない話になります。皆さんお疲れでしょうが聞いていただけないでしょうか?」


おっさんに頷く仲間達である。

ここにはおっさんの仲間達が全員いる。

近衛騎士の1人が今日も警備のために会議室の前に立ってくれている。

疲れているだろうから、もう立たなくても大丈夫と言ったのだが、これは仕事ですと会議室の前で立っているのだ。


少し長話になるかなと食事も多く用意してある。

おっさんの仲間たちも魔人戦に魔神戦、気を張っておっさんの戦いを見ていたのである。

気を楽にして聞いてほしいと食事をしながら話を聞くのだ。


「まず、上位魔神の戦いですが、上位魔神パルトロンにハルバートで刺された私はもう1つの世界に行ってました」


「「「もう1つの世界?」」」


おっさんはそこから2つの世界を行き来している話をするのだ。

この世界の情報を収集し、もう1つの世界で神に報告するといった行動を1年以上繰り返してきたという話をする。

持って帰った情報の対価として、神から力を与えられるという皆にもなるべくわかる話をするのだ。


「何かにわかには信じられない話だな。モンスターもおらず、神の加護もない世界か」


パメラはあまりピンとこないようだ。

レベルアップをしない世界のことを神の加護が与えられない世界と言い換えたおっさんである。


「一度に信じることも理解することも難しいでしょう。そういう世界観で私が生きているということです。時の流れについても、あくまでも私の感覚なので」


無理に信じさせるつもりもないおっさんである。

体験もしたことのない世界の話をすぐに信じさせるなど無理な話なのだ。


実際には時間が止まるということはないだろうと考えている。

あくまでもおっさんを中心に考えるとそのように時間が流れているのだ。

世界を中心に考えると2つの世界は何事もなく時間は流れていると考えているおっさんである。


「そっか、よく分からないけど、向こうの世界で情報を神に伝え力を得てから魔神と戦ったのか」


「はい、普段は1、2週間ほどですが今回は半年ほどかけました。報告する新しい情報はあまりありませんでしたので、過去に報告した情報の追加修正をして何とかしてという感じでしょうか」


「「「半年!」」」


一瞬の間にとても長い期間1人で頑張っていたことを改めて思うイリーナである。


「正直、皆が苦しんでいる状態で半年はとても長かったです。しかし、たった半年で上位魔神を倒すことができるのであればそれはとても短いものなのかもしれません」


武術の達人が何年、何十年と修行しても到達できない頂きである。

たった半年といえばそのとおりである。


「ケイタ様の力の源泉のお話なのですね。御両親はもしかしてそちらから来られたのですか?」


「ロキ、そのとおりです」


それを聞いてなんとなく分かったような気がする仲間達である。

たしかに、おっさんの両親を王国の王都を案内させたロキやコルネである。

たしかに初めて見る世界のような反応をしていたのだ。


「ん?もう1つの世界から連れてくることができるということは、余らもケイタの世界に行けるということか?」


「そうですね。検索神様への信奉の対価として、世界を渡ることができます。今なら2人を7日間案内できますね」


6時間に渡る死闘でポイントの多くを消費してしまったのだ。

お陰で600万ポイントを消費しレベルが6つ上がったおっさんである。

PVポイントは加護(大)の現実世界招待券1回分しか残っていない。


パメラの虎耳がぴくぴくしている。

どうやら興味があるようだ。


「パメラ、最初にケイタの世界に行くのは私だからな。そういう約束なのだ」


イリーナがパメラに忠告する。


「ん?2人いけるのであろう。何も問題がないな」


パメラの言葉に火花が飛び散る2人である。


おっさんが言っている招待券はペアチケットなので確かに2人を案内することになる。

イリーナはおっさんの中で決まっているのであと1人は話し合いで決めようと思っていたのだ。


・現実世界招待7日間ペアチケット【上限3】 PV1000000ポイント


「それとこれからのことですが、私はいったん落ち着いたら与えられた領の開拓を行っていくつもりです」


獣王国の件が落ち着いた後の話をするおっさんである。

おっさんがヤマダ領の開拓を行っていくことを宣言するのだ。

これから、ヤマダ領の2回目の街で生活をする民の受入れが行われる。

2回目の受入れまで2か月弱といったところである。

2回目の受入れで初めて、騎士や兵士以外の普通の町民の受入れが始まるのだ。

やることが多いのだ。


仲間達もそうだなという顔をしている。

続けて話をするおっさんである。


「皆さんもこれからどうするのかということを考えておいてください」


おっさんはヤマダ領に戻るのだ。

当然、おっさんの嫁とヤマダ騎士団の団長のロキも一緒に戻ることになる。


他の者はどうするのかの身の振りを考えてほしいということである。

パメラやソドンは獣王国での立場があるのだ。

コルネは自分の村がある。

セリムはウガル家の当主だ。

ここですぐにどうするのか聞かないといい、皆も分かったと言うのだ。


(カフヴァンは因縁の上位魔神パルトロンが死んだしな。今後どうするかセリムと話し合うだろう)


これから魔神との闘いがまだあるかもしれない。

おっさんとしては、皆には自分の意思でこれからについて決めてほしいと思ったようだ。



ある程度の話ができたころに、王城に行っていた2人の近衛騎士が戻ってくる。

かなり夜も更けたが話が決まったようだ。

明日、ホテル緑園亭に王家が使いを送ると言われたとのことである。


王城はかなりごたごたしていたという話だ。

第一王女が武術大会に参加し優勝したのだ。

その後現れる魔神達である。

非常事態宣言は既に解除され、郊外に避難した王都の民の帰還を進めている。


各部門が必死に今も働いているとのことである。


そして、武術大会の管理部門などから、闘技場での聞き取り調査をすすめどうするか、今後の方針を決めているとのことである。


その中で真っ先に決まった方針は、パメラの王城への帰還である。

一刻も早くパメラに王城へ帰還していただくべきだ、という意見で一致したのだ。


ホテルから王城まで帰還パレードをすることが決まったのだ。

明日の朝、ホテル緑園亭に王城の者が伺うという話を近衛騎士団から受けるおっさんだ。


会議室を解散するおっさんである。

イリーナと同室なので同じ部屋に戻るおっさんである。



部屋に戻るとイリーナに抱きしめられるのだ。

どうやら、魔神との闘いの件もあってかなり思うところがあるようだ。


「全然役に立たなかったな」


どうやら魔神や上位魔神がとても強く自分の力不足を痛烈に感じたようだ。

イリーナはおっさんの嫁であるが、元々騎士である。

今なお、剣を置いたわけではないのだ。

どうやら騎士として無力であることはとても辛いようだ。


武術大会の参加者には技の域まで達し、気力を消費して戦う者達がたくさんいる。

そんな人にも負けてしまうイリーナである。

天空都市でもロキとパメラが武術大会の参加のためカフヴァンと特訓をしていたが、イリーナも素振りをするなど普段の鍛錬は欠かさないのだ。


「領に戻ったら特訓でしたら付き合いますよ。それに」


「それに?」


イリーナに見つめられるおっさんである。


「実は皆さんにまだ言っていないことがあるのです」


どうやらおっさんの告白には続きがあるのだ。


「なんだ?」


「実は、私は上位魔神相手に使った固有スキルというものがあるのです。私はサンクチュアリでパメラはビーストモードを使えます」


スキルには固有スキルというものがあり、パメラがビーストモードを使えるという話は、当然イリーナは知っているのだ。

武術大会の開催中にパメラが固有スキルを獲得し、王都郊外で固有スキルを試した時にイリーナもその話を受けているのだ。


「この固有スキルですが、私はどうやら皆に与えることができるのです」


固有スキルであるサンクチュアリを取得しようとする際、パソコンの画面には加護(大)の特典を誰に与えるか選べるのと同様に選択肢がでたのだ。

もちろん1k8畳の賃貸マンションの周りにはおっさんしかいないが、おっさんでいいか確認メッセージが表示されたのだ。

通常のスキルと違い、選択肢がでるということは仲間に与えられるということである。


「ん?なぜ皆がいるときに言わなかったのだ」


「最初に話をするのはイリーナと決めています」


皆よりもまず自分の嫁に言いたいことがあったのだ。


魔神戦がこれからも続くかもしれない。

固有スキルを餌に仲間達の今後の決意を左右させたくなかったおっさんでもある。

しかし、それ以上に初めてのことを話すときはイリーナにしたいと思っているのだ。


そういった思いが伝わり、今回役に立てなかったと悔やんでいたイリーナの顔が綻びる。

そうかといいベッドにおっさんを押し倒すイリーナである。


「へ?」


「最近していなかったからな」


何がでしょうという顔をするおっさんである。

特に獣王国に向かって何かと忙しかったおっさんである。

新しい国ということもありブログネタも多く、パメラのけじめのために睡眠時間を削って夜遅くまで奔走したのだ。

くたくたになって寝るおっさんのために我慢してきたのだ。

獣人以上に野獣の目になっているイリーナである。

鼻息も荒い。


「そ、そのお手柔らかに」


「いつもお手柔らかにしているだろう?今日は少し激しくなるかもしれぬ」


普段から全然お手柔らかではないと思うおっさんである。

ちょっと湯に入ってくるから待っていろと言うイリーナである。


ほどなくしてさっぱりして上質なローブを着て出てくる。

そこにいたのは、上位魔神との闘いで疲れて眠ってしまったおっさんである。

どうやら、機嫌が戻ったイリーナを見て安心して寝入ってしまったようだ。


「くっ!寝てしまったか」


獲物に逃げられたような言い方をするイリーナである。

それなら仕方ないと頬にキスをしてイリーナも眠りに着くのであった。

長い一日がようやく終わったのである。

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