第44話 カロン戦

ここは1k8畳の一室である。

おっさんが1人、ディスプレイを見つめている。


「やっと終わった。記事の内容も濃くて3週間もかかったがな。3週間もかかったの初だがな~」


投稿し始めたときはブログ1つに5000文字でも苦労していた。

3000文字程度のブログもたくさんあるのだ。

今では7000から1万文字が普通になったおっさんである。


武術大会は1回戦ごとの試合数も多く、どうしても記事の文字数も多くなり、大会の開始から4日目までのブログ記事をあげるのに3週間の日数がかかったのだ。


第151記事目 武術大会の開会式を見学してみた

第152記事目 武術大会予選が始まった ~下準備もばっちり~

第153記事目 郊外の予戦会場を見に行ってみた ~血と土の香り~

第154記事目 軍隊と軍隊長と規模について ~ヤマダ将軍と呼ばれたい~

第155記事目 予戦決勝 ~ブロック制覇への道~

第156記事目 Sランク冒険者への道 ~点を勝ち取れ~

第157記事目 本戦開会式からの抽選会 ~対戦者はだれだ!~

第158記事目 本戦1回戦が始まった ~おじいちゃんも参加しているよ~

第159記事目 獣人と種族について

第160記事目 本戦2回戦 ~魔闘術の真価~

第161記事目 気力と必殺技と発動効果

第162記事目 武術大会で演出をしてみた ~生ゴスティーニ~


PV:2105043

AS:190611


「よし!PVポイントは200万になったし、ASポイントは10万超えたぞ!!」


おっさんが1人、誰もいないマンションの一室でガッツポーズをとる。


「さてさて、やっとみんなに会えるぞ。3週間ぶりだな」


3週間も異世界にいっていない。

ある意味ホームシックになってしまったおっさんだ。

今回も前回同様にASポイントは使わないようだ。


『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』


おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がホテルの一室に変わるのだ。


「報告は終わりました。行きましょう」


「うむ」


大会5日目の朝である。

これから皆で闘技場に向かうのだ。

5日目も従者が馬車で案内してくれる。


「なんか、獣人達の視線が前と違いますね」


「あれだけのことをしたからだろ」


セリムがあきれて言う。

おっさんにとっては3週間ぶりの闘技場であるが、他の皆にとっては昨日のことであるのだ。

獣人から若干怯えのような感情を向けられるおっさんである。


ソドンの話では、獣人には特に力に対する信仰が強いとのことである。

力こそが正義の世界で帝国に攻められ続けられていたことも理由らしい。

獣王国は王国以上に力あるものへの評価が高いのだ。


おっさんはそんな獣王国で必要以上の力を示したため、評価をとおり越えて畏怖の念を抱かせてしまったようである


闘技場に入ると、多少積もった雪も完全に溶け蒸発している。

まだ9時前の朝ということもあり、若干涼しさを感じる観覧席である。


騎士達が運営担当者からもらった対戦カードをおっさんに持ってくる。

王国からの招待客として、スケジュールや対戦カードは日々渡してくれるようだ。

3回戦の対戦カードを確認するおっさんである。


本戦3回戦

第1試合 獣王国「拳聖」カロンvs王国「A」パメラ

第2試合 獣王国「将軍」ガルガニvs故公国「ダブル」エルザ

第3試合 帝国「ダブル」ルーカスvs獣王国「シングル」ゲル

第4試合 王国「A」ロキvs獣王国「シングル」ヴェルム


本戦も残り3試合となり、ずいぶん対戦カードが減ったと思うおっさんだ。

対戦はトーナメント形式なので2回戦が終わった時点で分かるのだが、騎士から渡された対戦カードを元に改めて確認する。


「今日はかなり厳しい戦いになりそうですね」


「うむ、パメラの相手は拳聖で、ロキの相手は獣王国最強の男だからな」


イリーナも同感のようだ。


(これは、3回戦でロキもパメラも敗退することもあるかもしれんな。ん?A?)


「あれ?パメラもロキも冒険者ランクがAになってますね」


「それは3回戦に出場したから自動的に冒険者ランクが上がったんだろ」


毎度のごとく、ブレインが補足してくれる。

ブレインは昨日のおっさんの演出があっても、物怖じせずに話しかけるようだ。

武術大会本戦の3回戦に出場できれば自動的に冒険者ランクはAになるという説明を以前受けたおっさんだ。

3回戦なので本戦を2回勝てばいいのだ。

優勝すればシングルスターも貰えるのである。


「なるほど、すぐに反映してくれるのですね。大会が終わったら冒険者ギルドに行って冒険証を交換してもらいましょうかね」


(武術大会の運営側としても、冒険者ランクも直ぐに上げれるんだぞってところを見せたいのかな、BからAに上がるの結構大変らしいし)


3回戦となり、ロキとパメラ以外がシングル、ダブル、将軍、拳聖となっている。

これだけの中で3回戦まで上がれるなら、冒険者ランクがAも当然かと思うおっさんだ。


ブレインと冒険者証の交換方法などを会話していると別の従者が昨日の掛け金と今日の賭けの倍率を紙に書いて報告してくれる。

おっさんに仕える従者でもないのに、日々献身的に対応してくれるので、今日も金貨をはずむおっさんである。

なお、3名の国王直属の近衛騎士団の騎士は、王家以外からお金はもらえないと辞退するのである。

お金より忠誠心のようだ。

おっさんに対する献身的な対応も全て王命であるからだ。


ロキの賭けの倍率(オッズ)の推移

予選からの決勝進出 1.1倍

本戦1回戦 1.5倍

本戦2回戦 1.7倍

本戦3回戦 2.8倍


パメラの賭けの倍率(オッズ)の推移

予選からの決勝進出 1.5倍

本戦1回戦 1.4倍

本戦2回戦 1.3倍

本戦3回戦 3.1倍


(ふむふむ、3回戦はパメラの方が倍率高いか。カロンがそれだけ強敵ってことか)


最初はパメラより王国最強の槍使いという肩書を持つロキの方に注目が集まった。

勝率が高いと判断され、賭けの倍率もロキの方が低かった。

しかし、試合を重ねていくうちにパメラの強さに気付いていったのだ。

2回戦までロキよりパメラの方が、倍率が低くなったのだが、カロンはそれ以上に強いと賭けの参加者は判断したようだ。


パメラは神妙な顔をしている。

どうやら勝つイメージが掴めないようだ。


「パメラ」


おっさんがパメラに話しかけてくる。


「ん?なんだ?」


「気楽にとは言いません。御武運を」


「ありがとう、行ってくる」


運営担当者に連れられて、第1試合のパメラが観覧席を後にする。

皆も神妙な顔である。


「勝てるかな?」


重い雰囲気にたまらずセルムが口にだす。


「たぶん、カフヴァンに勝つくらい難しいかもしれないですね」


「そっか」


それ以上誰も口にしない。

まだ誰もいない闘技台の上を、皆で眺めているのであった。



それから15分後


『皆さま大変お待ちしておりました!これより本戦3回戦を始めたいと思います!!』


派手な道化のような格好をした猫の獣人が闘技台に上がる。

総司会ゴスティーニである。


『昨日は眠れたでしょうか?大会の終わりに衝撃の演出がござましたよね?身も心も寒くなるとはあの事でございますよ!』


おっさんが、2回戦の終わりに行った演出について触れる総司会ゴスティーニである。

昨日の演出は既に、10万人の観客により王都も王城も駆け抜けているのである。


『それでは、本日の第1試合の2名の闘士の入場です!!』



凄い歓声である。

どうやら、パメラの歓声もずいぶん増えてきたと思うおっさんだ。

王国からの参加とはいえ、獣人の同族意識も大きいのかもしれない。


『昨日は王国最高の、いえ、失礼しました。世界最高の魔導を見せていただきました。そして、その10人の英雄の1人であるパメラ闘士です!!』


おっさんの演出によって、パメラとロキの評価もずいぶん上がってしまったようだ。


『拳聖カロン様、今まで順調に勝ち進んでいますが、今回は王国の英雄が相手です。さすがに厳しい戦いになるのではないでしょうか?』


「ひょひょひょ。英雄なんぞたくさん見てきたのじゃ。戦い方というものを教えてやるのじゃ」


パメラより頭一つ分ほど背が低い、腰が曲がった猿の獣人だ。

笑う度に深く刻まれた皺がくしゃくしゃになるのだ。

齢は100歳を超えていそうなカロンである。

薄いヒラヒラした武闘着を着ている。

拳も布で覆った程度だ。

ハンデともとれるそんな恰好も総司会ゴスティーニは触れないようだ。


『あのように拳聖カロンはおっしゃっていますが、一言ありますか?』


「………」


パメラは一言も発しない。

真っ白な石膏のような仮面で顔の上半分を隠した、その目はカロンだけを見つめている。


『おおおっと!3回戦になっても一切話しません。まだ、勝手に武術大会を申し込まれたことを怒っているのでしょうか!?私にはそれどころではない状況だと思いますよ!!』


総司会ゴスティーニのボケに観覧席からも笑い声が聞こえてくる。

それにも一切反応を示さない。



総司会ゴスティーニも一通り話をしたので2名の闘士から距離を取る。

筋肉むっきむきの審判がやってくる。

なお、闘技台の四隅にいる副審4人もAランク冒険者なのだ。

ムキムキのバッキバキである。


審判が2名の闘士の間に入る。

片手を上げ、試合開始の合図をするのだ。


『はじめ!』


合図ともにパメラがカロンに距離を詰める。

オリハルコンのナックルが空を切る。

カロンが紙一重でパメラの攻撃をかわしていく。


『当たらない、パメラ闘士の攻撃が一切当たりません!それでも攻撃を続けるパメラ闘士。まるで、これまでの戦い同様です。拳聖カロンに攻撃を当てるものはいないのでしょうか!』


「うおおおお!」


思わず声が漏れるパメラだ。

下から弧を描くように狙った拳を、宙を舞う鳥の羽のようにふわふわとかわされる。


「ぐっ」


拳の上にちょこんと乗るカロンである。

叩き落そうと両拳がカロンを襲う。


掬い上げるように拳を振るうパメラである。

しかし、傘の上ではねる駒の大道芸のように、足や手を使い、タイミングよく勢いを殺しているようだ。


常人が当たれば即死のオリハルコンのナックルに完全にタイミングを合わせ、拳の上をピョンピョンと飛び跳ね続けるのだ。


10分が経過する。

20分が経過する。


一切攻撃が当たらない中、ちらりと闘技台側に置かれた4つの大皿を確認するパメラだ。

大皿の1つの炎が運営担当者により消される。

2時間の時間の試合時間のうち30分が終わったのだ。


焦るパメラだ。

本戦は2時間制である。

2時間の間に勝敗がつかなければ、主審と副審の5人による多数決により勝敗を決める。

判定負けも十分にありうるのだ。


パメラはブレインから判定について聞いているのだ。

攻め、守り、ダウンの回数など総合的に判断するとのことだ。


どうしても攻撃を当てなければならない。

どうしても勝たなくてはならない。


パメラの体から、蒸気か湯気のようなものが漏れていく。

気力を消費し始めたのだ。


おっさんとともにダンジョンを攻略したパメラだ。

おっさんの支援魔法の効果により1500近くになったパメラの力は、90階層以降に現れるアダマンタイトでできた巨躯なゴーレムを1撃で爆散するのだ。

Aランク冒険者だからといって、Aランクモンスターと対等ではない。

同じAでも冒険者とモンスターでは大きな差があるのだ。

そんなAランクモンスターを1撃で倒すほどの力が仲間支援魔法で得られるのだ。


『パメラ闘士が何か奥の手を使うようです!!どうやら勝負を決めようとしております!!これは注目です!!!』


総司会ゴスティーニも試合が動くとみて実況に声を大きくする。

そんな中、棒立ちのカロンだ。


パメラの右手のナックルが輝きだす。

拳技Lv1の技で当たれば、

パメラの攻撃の威力を2倍にする技である。

威力確認のために大連山のドラゴンを倒しに行ったのだ。

仲間支援魔法なしでAランクの飛竜を1撃で撲殺してみせたパメラである。


ロキも同様に威力を確認したが、一撃では無理であったのだ。

力特化のパメラだからこその威力なのである。


パメラとカロンとの距離は十分である。

一気に拳を振り上げ、距離を詰めていくパメラだ。

正面から渾身の一撃で倒すのだ。


「パワーナックル!!!」


おっさん命名の技が炸裂する。

まもなくその一撃がカロンの顔面に当たるというところである。

オリハルコンの塊だ。

容赦のない一撃だ。


「ひょひょひょ」


カロンがあざ笑うように笑う。


「そ、そんな」


気力を消費し全力の右ストレートを繰り出したパメラ。

それを優しく右手でこぶしを受け止めたのだ。

ダメージは見受けられない。


カロンの左手が、初めて拳を作る。


「んぐ!」


一瞬でカロンの拳がパメラの腹に達するのだ。

殴られ吹き飛ばされるパメラだ。

数十mも吹き飛ばされ、全身を闘技台に打ち付ける。

完全に沈黙するパメラ。


吹き飛ばされた先で横たわり動かなくなるパメラ。

棒立ちのまま動かないカロン。


驚きのあまり観客席のだれも声が出ない。


そこにはあまりにも絶望的なほどの力の差があったのだ。

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