第41話 魔闘術

ここは獣王の玉座の間である。

7日かけて行われる武術大会の4日目の朝。

玉座の間には獣王が胡坐をかいて座っている。

獣王国では王は椅子に座らないようだ。


「獣王、2回戦の闘士と対戦相手が決まりました」


「おう」


セルネイ宰相が、獣王に羊皮紙を渡す。

渡したら、数歩下がって跪く。

羊皮紙をじっくり見る獣王である。


本戦2回戦

第1試合 獣王国「拳聖」カロンvs獣王国「A」コルコオ

第2試合 聖教国「シングル」クリフvs王国「B」パメラ

第3試合 獣王国「A」ボボvs獣王国「将軍」ガルガニ

第4試合 獣王国「A」ディグニvs故公国「ダブル」エルザ

第5試合 獣王国「A」シャルンvs帝国「ダブル」ルーカス

第6試合 獣王国「シングル」ゲルvs獣王国「A」エドバス

第7試合 王国「B」ロキvs獣王国「師団長」ブライ

第8試合 獣王国「シングル」ヴェルムvs帝国「シングル」ゼキ


「拳聖は年だがいまだに健在ということか。ふむ、他国からの参加者がずいぶん残っているな」


獣王も拳聖は気になるようだ。

そして、獣人がどの程度2回戦に残ったか確認をする


獣王国の参加者が9人

それ以外の参加者が7人


「はい、まだ1回戦が終わっただけですので、これから絞られてくるかと思います」


武術大会の管理部門からの報告を丁寧に獣王に説明するセルネイ宰相である。

武術大会が開催されてから、前日に行われた大会の情報を取りまとめて、毎朝報告することが日課となっている。


「ふむ、他国からの参加者も敗北したら国に帰る前に、獣王国が召し抱える旨、皆に声をかけるのだぞ?」


素養は問わぬ。

実力者は全て召し抱えるという獣王である。


「は、もちろんにてございます」


「内乱中に奪われた領土もある。戦力は少しでも多い方が良いからな」


「さすがは獣王、国を思う気持ちこのセルネイ感服しております」


「それで、王国の英雄はどうなんだ?2人とも2回戦まで抜けたようだが」


「はい、2人ともまだ力は温存していると武術大会管理部門からの報告を受けております。特にパメラという仮面を被った獣人は、いまだに実力の底が見えていないと報告を受けております」


「獣人か」


「はい、虎の獣人とのことです」


「虎か」


「はい、虎でございます。恐れながら獣王家には入れない方が良いかと」


「分かっておる。先獣王の過ちは繰り返さないぞ。今日もしっかり武術大会も盛り上げてくれ。我が民も喜んでいるのでな」


「もちろんにてござます。はい、大会の盛り上げのため、王国の英雄について1つお願いがございます」


「ん?なんだ?王国の英雄がか?」


「はい、王国最高の魔導士が本大会に来ております。オーガの大群の件もウガルダンジョン攻略の件も冒険者ギルド等に調査させた結果、その実力、その魔力に疑いはないとのことです」


「ふむ、王国が国を挙げて、他国の有力者も呼んで式を挙げるだけの魔導士ということだな」


「はい、そのとおりにてございます。今回のお願いと言いますのは、せっかくですので、王国の英雄にその魔力を使い余興をさせるなどいかがでしょうか?良い演出になるかと具申します」


「おお!そうか、なるほど!大会も盛り上がるな!」


強く反応を示す獣王である。


「はい、きっと大いに大会を盛り上げてくれるでしょう。それに、王国の英雄の魔力がどの程度か図る、いい機会かと思いますので」


「そうか、たしかに知っておいて損はないな。さすが我が獣王国の宰相だ、そのように取り計るがよい」


では本日もつつがなく武術大会を行いますと、獣王の玉座を後にするセルネイ宰相である。





・・・・・・・・・


「まだ、パメラの戦いは始まっていないようですね」


おっさんが、皆が既にいるいつもの闘技場の観覧席に戻ってくる。


「戻ってきたか。拳聖は相変わらずすごかったぞ。さっき、第1試合が終わったから、まもなくだな。それにしてもどうしたのだ?運営担当者に呼ばれて」


(運営担当者のせいで第1試合の拳聖戦見損なった件について)


「いえ、この2回戦が全て終わったら、何か魔力を使って演出をしてほしいと頼まれました」


(王都に着いた時に言ってほしかったでござる。よく分らんが結構無茶ぶりな件について。ドン引きするくらいの演出しちゃうよ?まじで)


「「「演出?」」」


皆気になったのか、疑問の声が上がる。


「なんだ?今年は本戦2日目も演出をするのか?」


「今年も?恒例なんですか?」


ブレインの言葉に反応するおっさんである。

ブレインが演出について教えてくれるのだ。

7日に渡って行われる獣王武術大会には、演出を試合後に行うのが通例であるとのことだ。

主に5日目と6日目のそれぞれの試合が全て終わった後に行うのだ。

本戦でいうと3日目と4日目である。


理由は2つあって、1つは5日目と6日目は時間が余るとのことだ。

武術大会1日目と2日目は予選とその予選決勝によって数千人の中から32人を選ばないといけない。

3日目は16戦、4日目は8戦あって試合の数も多いのだ。

しかし、5日目は4戦、6日目は2戦しかない。

大会は後半になるほど、実力のある闘士同士の戦いにより1試合に掛ける時間が伸びるが、それでも時間が余ることがある。

飽きさせないために、獣王国王楽隊や獣王国演劇隊などが演出をその日の全試合の終わりに行うという話だ。

7日目は、試合は決勝戦の1回のみであるが、閉会式や獣王による表彰が行われる。


(いわゆる時間調整か。ボクシングの試合を2時間くらい放送の枠を取ってテレビ中継したものの、1ラウンドでKOして時間が余ったので、残り時間に過去の試合見せたり、インタビュアーの話で時間を調整するって感じか?)


もう1つの理由は、興奮した獣人の冷却効果が目的とのことだ。

武術大会だ、闘士達の戦いを見て観客席の獣人は興奮している。

もちろん、そのための武術大会であるが、興奮したまま試合後に観客が王都に繰り出すと、酒場や大通りで乱闘騒ぎが頻発するのだ。

賭けで負けてムシャクシャしている者も多い。

そのために、試合後に演劇や音楽の演出を行い、気持ちを落ち着かせるとのことだ。


「なるほど、ありがとうございます。では気持ちを落ち着かせる演出を考えてみます」


魔力で気分を落ち着かせるって何?って顔を皆でするのだ。


そういって考えていると、パメラとクリフが闘技台に上がっていく。

第2試合が始まるのだ。


「魔闘士が出てきましたね?」


「うむ、ケイタは気になっているようだな」


「はい、どんなことができるのか知りたいですね」


【ブログネタメモ帳】

・本戦2回戦 ~魔闘術の真価~


魔闘士クリフは本戦出場者32人において、おっさんが気になっている闘士の1人だ。

おっさんはこの大会において、獣王国だけではなく、世界中から強者、猛者が集まってくることを知ったのだ。

強者の戦い方を知りたいと思うのはゲーム脳には自然なことである。

特に『魔』が肩書につくなら、なおさら気になるのだ。


『それでは2回戦の第2試合を始めたいと思います。対戦者は魔闘士クリフと王国の英雄パメラです!』


総司会ゴスティーニが試合の開始前に2人をしっかり紹介するようだ。


『クリフ闘士、前回は準決勝で敗れて惜しい結果になりましたね。対戦に相手のパメラ闘士は同じく前回準決勝まで勝ち進んだシングルスターのゲオルガ闘士を一方的に倒した強者です。対戦前にお気持ちをお聞かせください!!』


「相手は紛れもない強者。最初から全力でいく」


魔闘士クリフが短く回答する。

サラダボウルを反対にしたぴったりとした帽子を被り、神官の服を着た魔闘士クリフが、全力を宣言する。

ざわめく闘技場の観覧席。


(パメラは強者認定か。魔闘術は早々に見れそうだな。ブレインから前回の武術大会の様子は聞いているから、パメラも戦闘中に動揺は少ないだろう)


『クリフ闘士はそのように言っています。パメラ闘士、意気込みをお聞かせください』


「………」


沈黙を貫くパメラである。

クリフを正視し、何も発しない。


『仮面の闘士は、今だ何も発しません!このまま何も語らずに闘技台を後にするのでしょうか!注目の一戦です!!』


総司会ゴスティーニも、パメラが反応しないと思っていたらしい。

これ以上のやり取りは粘らないようだ。

引き下がると同時に審判がパメラとクリフの間に入ってくる。


片手を上げる審判

審判は実はAランクの冒険者が行っているので、筋肉隆々のムキムキなのだ。

冒険者ギルドも強者発掘のために武術大会には全面協力である。

Aランクやそれ以上同士の戦いの判定を行い、戦いの邪魔もしないとなると、それなりの力が必要なのだ。


『はじめ!』


審判による開始の合図ともにパメラとクリフの両者は距離を詰める。

お互い武器はナックルの近距離スタイルである。


パメラのオリハルコンのナックルにクリフのナックルが合わさる。

クリフのナックルはオリハルコンではない軽量なミスリルのナックルである。



ドオオン!



ナックル同士がぶつかった音ではない爆音がする。

爆風と共に吹き飛ばされるパメラである。


『おおおっと!魔闘士クリフ宣言通りです!!いきなり魔闘術を使いました!!』


爆風と共に吹き飛ばされたパメラは空中でバランスを取り足から着地する。

殴った方の手を触り無事を確認する。

そのときもクリフを正視し、警戒を怠らない。


どうやら、オリハルコンで覆われた拳は問題ないようだ。


(むむ、本当にナックルというか拳が爆発したな。これは火魔法か何かで拳の周りを覆ってる感じか。接触したら爆発するみたいな)


おっさんが、鷹の目を駆使して、魔闘術の分析を進める。

そして、パメラも次にどうするか考えるようだ。


弧を描くように横から攻撃を仕掛けるパメラである。

クリフの拳に触れるのはまずいと思ったようだ。


素早さはクリフより高い。

一気に距離を詰められるパメラだ。


(素のステータスである攻撃力と素早さはパメラが有利)


再度、殴りかかるパメラだ。


ゴキャッ


あと少しでクリフを殴れるというところである。

拳は空で止まる。

ガラス質の何かが、パメラの拳の行く手を遮るようだ。


クリフの拳から湯気のようなものが見える。


「氷です!」


コルネが反応する。


「これは、氷魔法を拳に込めて、氷の壁を生成して、攻撃を防いでいるようですね」


「うむ、魔闘士クリフとは格闘家であって、魔法使いであるということか。多彩だな」


おっさんとイリーナがクリフの分析を進める。

クリフの拳が氷魔法で氷を生成し、パメラの拳の行く手を阻む。

魔法で作った氷は、通常の氷より頑丈なようで、オリハルコンのナックルであっても簡単には破壊できないようだ。


「氷魔法の氷は、確かに溶けるのですが、土魔法の土壁同様に硬度が通常より硬いですよ。おそらく魔力に依存していると思います」


「なるほど」


最近、スキルを取得し分析を進めた氷魔法について、考察を述べるおっさんである。

ブレスや火魔法を防げるのではないかとあれこれ、天空都市イリーナで分析をしていたのだ。


(攻撃に火魔法を、防御に氷魔法を使うのか。両手で分けているわけではなくて、右左どちらの手でもどちらも使えるようだな。発動時間がほぼないのは、拳に魔法を滞留させているからか?いや発動させている魔法のレベルが低いからかもしれぬ)


パメラは氷を破壊しつつ、火を避けつつ、攻防を続ける。

素早さを売りにして、相手を翻弄する作戦のようだ。

長期戦と判断したようだ。



それから1時間が経過する。


そこには、魔力が尽きつつあり、動きが鈍くなったクリフと、一定の距離を保ち様子を見るパメラがいる。

魔闘術は魔力が尽きたら終わりのようだ。


(ふむ、魔力が尽きたらただの格闘家か。パメラの素早さを魔闘術で捉えられなければ、魔力はいずれ底をつくと。オリハルコンのナックルで攻撃をほぼ防御できたのも大きいか)


「ここまでのようだな。格闘に魔法と両方鍛えた結果半端な状態になったようだな」


イリーナも魔闘術について総評する。


「そうですね。何か新たなスキルとの出会いがあったような気がしたのですが」


(何かすごい期待したのだが、ここまでか。まだ可能性を秘めている気がするんだけど)


おっさんは、魔闘術の可能性について考える。


『おおっと!魔闘士クリフは負けを認めるようです!!』


クリフが負けを認めたため、審判がパメラの片手を上げる。

パメラの勝利である。


『これで、3回戦の第1試合は拳聖カロン対王国の英雄パメラに決まりました!!パメラ闘士の快進撃は止まってしまうのか!!3回戦も目が離せません!!!』


しっかり総司会ゴスティーニが〆てくれる。


「これは、次は拳聖相手ですか。3回戦はかなり厳しい戦いになりそうですね」


皆も頷くのだ。

パメラは拳聖カロンを相手にどのように戦うのであろうか。

パメラの2回戦が終わったのである。

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