第42話 純血派

パメラが勝利をおさめ3回戦に勝ち進んだ。

2回戦の第7試合が間もなく始まるのだ。

本戦2日目になり、時間に余裕ができたのか、試合開始まで時間があるようだ。


「そういえば、次に対戦するブライさんも虎の獣人なんですね」


「そういえば、そうだな」


待ち時間に何げなく、ロキの対戦相手について口に出すおっさん。

セリムも返事をする。


「ん?ああ、そうだな。有名な虎の獣人と言えばベステミア家だな。おかげで内乱になってしまったからな」


「ん?ベステミア家?」


ブレインが不穏なことを言う。


「何だ?知らねえのか?パメラといったよな?お前は虎の獣人だから知っているだろ?虎の獣人とか先獣王とか現獣王の話を」


ここには試合が終わったパメラもいる。


「内乱にベステミア家は関係ない。現獣王の独断だ!」


(やばい、パメラが怒っている。地雷を踏んだ気がする)


王族だからであろうか、パメラは基本的に喜怒哀楽を面に出さない。

自らの喜怒哀楽が家臣や民に影響してきたからであろう。

たまにおっさんをからかってほほ笑む程度だ。

コルネの方が、表情が豊かだ。

だが、1年以上一緒にいるので怒っているときの声色くらいわかるおっさんである。

そして、細かい内乱の経緯はパメラがするまで聞かないでおこうと思って現在に至るおっさんである。


「まあ、純血派にそそのかされたのであろう。先獣王の時代に不遇であったからな」


「「「純血派?」」」


ソドンが間に入って、内乱について簡単に説明をしてくれる。

パメラが怒っているので、簡潔に話をしてこの話を終わらせたいようだ。

あまり暇つぶしでするような話ではないことは、雰囲気で察するおっさんである。


獣王国には純血派や純血主義といった思想の者達がいる。

犬の獣人は犬の獣人との間に子供を産むべきといった話だ。

しかし、犬の獣人は狼の獣人との間にも子供ができる。

猫なら虎や獅子である。

豚なら猪である。

こういった近い種族を近種族という。

同じ種族を同種族。

犬と猫のように獣人として全然違うなら遠種族という。


子供のできやすさでいうと同種族、近種族、遠種族の順である。

生まれてくる子供は半々の確率でどちらかの種族の特徴を引き継ぐ。

犬と狼の間の子供なら、犬か狼だ。

犬と狼の中間のような特徴のある子供ができない。

必ずどちらかになる。

王国や帝国のような人種族との間にも遠種族以下の確率で子供ができる。

その場合の子供は、皆獣人として生まれてくる。

人種族やエルフなどは、獣人は別種族と分類しているのだ。


貴族の中には、同種族のみで子供を産むべき。

この貴族家はこの1000年、獣王国ができてから同種族のみで家を守ってきた。

何々家は1000年間、猫の獣人の家であるといった話だ。

さらには、それぞれの種族の代表が大臣など要職に就くべきといった主張もある。

こういった同種族優勢の考えをする者達を純血派というのだ。


先獣王は寛容な性格であったため、獅子以外の妻を持ち正室はベステミア家の虎の獣人であったとのことである。


「始獣王ガルシオ様は獅子の獣人だから、獅子の間にできた子供が王位をつくべきと考えるのが純血派であるな」


(ふむふむ、純血派は血統第一主義ってことかな。貴族は血統を大切にするし、分からない話ではないな。先獣王は寛容だからパメラと王国第3王子との間の婚姻も進めることができたということか)


「そこに数百年出てきたことなかったような成績で獣王貴族院を卒業した才女が現れたんだよ。獅子と虎の間にできた近種族の子供が、獅子の母を持った同種族の長兄より優れているなんて純血派には面白くないよな」


(兄とは、母が違うのね。異母兄弟ってやつか。内乱は貴族の派閥や思想を巻き込んでのことだったのか)


おかげで純血派の貴族が長兄と結託して暴動を起こし、王都を封鎖されるわで大変だったというブレインである。


「ベ、ベステミア家は関係ない…」


泣き始めたパメラである。


「ちょ!?ろ、ロキが闘技台に上がってきました。大会に集中しましょう!ブレインもいいですね!!」


パメラの感情の変異に驚き、全力で話題を変えようとする。


「わ、わかったよ。何かすまなかったな」


ブレインもパメラが泣き出したため話を止める。

親族にベステミア家がいたのかなと思うのだ。


「そうであるな。ロキの勇姿を皆で応援するであるな」


【おっさん心のメモ帳】

・獣人と種族について


(とりあえず、ブログにするかは後で考えるか。最近の検索神様の考えでは、こういう獣王国の内乱とか大事な話はブログにしないと異世界に戻れない気がするんだけど)


ロキが闘技台に上がっていく。

その後ろに虎の獣人のブライが上がっていく。


「1回戦もかなり苦労したが、ロキは苦戦が続くかもしれないな」


イリーナが観覧席で分析する。

1回戦も死闘の末、勝利したロキである。


1回戦の相手はシングルスターの冒険者であった。

2回戦の相手は師団長の騎士である。


師団長とは3000人から5000人の配下を持つ軍職だ。

師団長の上は将軍である。


「はい、元々ロキのステータスは対人戦に適していません」


おっさんが身も蓋もないことを言う。

全力で話題を変えようとする。


「そうなのだな。開拓地でもよくそんなこと言っていたが、やはり厳しいのか」


天空都市イリーナとまだ言ってくれないイリーナである。

イリーナも話に乗って、話題を変えてしまいたいようだ。


対人戦談義は武術大会が始まる前に色々してきたのだ。


おっさんは基本的にモンスターを狩り、自身のキャラを強くすることを至上命題にしている。

強くなったキャラを、キャラ同士で対戦する対人戦には基本興味がないのだ。

しかし、長いゲーム人生で対人戦を必要としたことが何度もある。

メインとしてのゲームの遊び方ではないがそれなりに知っているといったところである。


ロキとパメラのステータス特性にあった武術大会の攻略方法を伝えてきたおっさんだ。


「かなり厳しいでしょう。特に大会の後半になればなるほど、武術大会に有利なステータスの闘士が残ります」


おっさんはステータス至上主義のようだ。


「では、しっかり応援しないといけないな」


「はい、そのとおりです」


『それでは2回戦の第7試合を始めたいのと思います。まずは王国の英雄ロキ闘士。1回戦はかなり苦戦しましたが、2回戦はいかがでしょうか!!』


「はい、相手が誰であろうと全力で戦うのみです」


ロキが卒なく受け答えをする。

もう少し面白いこと言っていいんだよという顔をする総司会ゴスティーニである。


『ロキ闘士はそのように言っております。ブライ闘士、相手は同じ槍使いのようです。同じ騎士として、負けられないのでは?』


「そうだな。遠路はるばる獣王国に来ていただいたようだが、そろそろお帰り願おう。お土産のおすすめくらいなら、あとで教えてやってもよいぞ」


(おすすめのお土産は俺も知りたいでござる。あとで聞きに行くとしよう。そういえば、お金も十分持ってきたし、天空都市イリーナで待ってくれている皆のためにお土産も買うかな。お酒とか、香辛料も種から育てられないかな)


挑発をするブライである。

挑発に盛り上がる観覧席だ。

相変わらずロキの声援はほぼ0である。

完全なアウェーだ。

パメラの声援は同族意識からか、少しずつ増え始めている。


なお、獣王国の帝国側の南方を守護するブライである。

距離的に言えば獣王国の王都は、おっさんら並みに遠いのだ。


ロキとブライに一言もらえたところで審判が寄ってくる。


片手を上げる審判。


『はじめ!』


審判が合図するが、すぐには戦いが始まらないようだ。


「ストレーゼム軍、第一師団、師団長ブライ=ヴァン=ラングロッサ」


「ヤマダ騎士団、騎士団長ロキ=フォン=グライゼル」


貴族として、騎士の戦いとして名乗りを上げる。

騎士同士の戦いをする場合は、名乗りを上げるんだなと思うおっさんである。


名乗りとともに、お互いの槍がぶつかる。

火花のお互いの間に槍が振るわれるたびに散るのである。


「ストレーゼム軍ですか?予選決勝はハーレン軍でしたね。たくさんの軍から参加しているんですね」


「うむ、帝国に接している軍は3つあるのだ。北からハーレン、ガルガニ、ストレーゼムであるな。武術大会にはよくこの3軍から参加するであるぞ」


(戦争が多くて、実践で鍛えられているのか)


おっさんがソドンに軍について教えてもらう。


「ロキとブライはほぼ互角のようだな」


「そんな感じですね。攻め切らずに長期戦になりそうです」


(虎系で素早さがある感じかな。ブライは鎧を着ているからそこまでではないが、パメラみたいに軽ファイター系だったらロキはやばかったかもな)


耐久力を中心にバランスよくパッシブスキルを得たロキである。

しかし、バランスが良いために、特徴が薄いのだ。

パメラほどの素早さがないため、攻撃は当たりにくい。

パメラほどの力がないために、一撃一撃が軽くなるのだ。


「まあ、長期戦ですね。相手がスキルを使用するまで耐えましょうですね」


「1回戦同様に、体力勝負ということか?」


「そうです。負けなければいいので、クリティカルな攻撃を受けることを避けつつ持久戦です」


おっさんがロキに伝授した作戦である。

ロキは突出して素早さも力もないが、スキルレベルは4だし、武器も防具も最高峰だ。

レベルも高く、耐久力もある。


相手の体力を削って倒す作戦だ。

2時間フルに使うのだ。

フルマラソン以上に体力を消耗するのである。


それから1時間が経過する。

試合開始から一切衰えることなく、ロキは攻め続ける。

距離を取って対戦相手を休ませるなんてことはしないのだ。

焦りの顔を示すブライである。

体力も耐久力もロキの方があるらしく、衰えることない槍捌きに、攻め切らない攻撃に不安を感じているようだ。


それからさらに30分経過する。

燃え盛る大皿の火が4つのうち3つ消える。

30分経過すれば1つずつ消されていく。

4つ全て消えたらそこで試合終了だ。


この大会は2時間経過すると、主審1名と副審4名による判定になる。

5名による多数決により勝敗が決まるのだ。


攻め続けたのはロキである。

このまま残り30分、皿の火が消えるまで戦うと判定負けになると焦るブライだ。


(ぐふふ、ブライが焦っちょる。審判は公平にジャッジして頂戴ね)


審判は獣人だからといってえこひいきはしないでねと思うおっさんだ。


そこにきて、ブライの槍が輝きだす。

ブライの変化に距離を取るロキだ。


「スキルを発動するようですね。槍なので、突きの射程を延ばしたり、突きの数を増やすものが多いはずです」


「なるほど」


おっさんは、槍技などの槍術の上位スキルを知った時、皆にその対策を教えてきたのだ。

どのようなスキルが考えられ、どうすべきかについてである。


術の上位スキルである技は、自らのセンスで開発するものと、鎧の騎士カフヴァンの話で認識したおっさんだ。

SPを消費して、消費したSPの範囲内で、攻撃の威力を上げたり、攻撃の範囲を広げたり、攻撃の数を増やすよう自ら練り上げ、開発するのだ。


(ブレインが使ったように、素早さを倍にするようなスキルもやはりあるのか)


【ブログネタメモ帳】

・気力と必殺技と発動効果


(たぶん、2倍になったのはスキルレベル1の技を発動したんだろうな。ASポイント100で得られるスキルレベル1の仲間支援魔法の効果がステータス2倍だからな。スキルレベル2ならきっと特定のステータスを3倍にするのかな)


考察を進めている間に、ロキの槍も輝きだす。

おっさんが言ったのである。

スキルによる攻撃は、ロキには恐らくかわせない。

素早さがそこまでないのだ。

相殺するよう自らもスキルを使った方がいいということだ。


『おおっと!皆さん、ブライ闘士が勝負を決めようとしております!!ロキ闘士もそれに答えるように槍を構えました!!』


長い膠着状態から脱し、決着の時が近づいたことを察した総司会ゴスティーニ。

試合を盛り上げるのだ。


「ゆくぞ!ロキとやら。ランサーショット!!」


ブライの槍撃が無数に分裂し、ロキを襲う。


「ピアシングベイル!」


おっさんが命名したロキの槍技がブライを襲う。

巨大な一突きである。

カフヴァンの技をまねて、ロヒティンス近衛騎士団長に使った技から、オリジナルの技として使っていくため、名前も変えたのだ。


お互いスキルを受けて、吹き飛ばされる!

ロキもブライも吹き飛ばされた先で立ち上がらない。


『なんと!相打ちです!!この試合、勝者はいないのか!!いや、おおっと!ロキ闘士が立ちあがります!!しかし、ブライ闘士は依然と立ち上がれません!!』


「ロキの方が耐久力ありますからね。それに、ブライのスキルは多連撃のようですが1撃1撃は軽かったようです。ロキの渾身の1発の突きでは相殺できなかったのでしょう」


「なるほど」


イリーナがおっさんの分析に納得する。


おっさんの分析の中、ゆっくり吹き飛ばされ、立ち上がれないブライに近づいていくロキである。

生存の確認をするのだ。

対戦相手が瀕死なら、右手を上げろとおっさんが言っているのだ。

回復魔法を掛けるともいっている。


本戦は倒れ、意識を失っても敗北にならない。

ここは短時間で終わらせたい予選とはルールが違うのだ。

すぐに起き上がって戦いを再開するかもしれないのだ。


なお、意識があるのに立ち上がらない。

敗走や距離を取り続けるといった行為は判定負けになる。


ロキの右手が上がらないので、どうやら生きているようだ。

横になるブライから10mほど離れた位置で起き上がるのを待つロキである。


それから数分が経過する。

ようやく、震える足で立ち上がるブライである。

両手を上げ、自らの敗北を宣言するのだ。


審判がそれを見て、ロキの勝利を宣言するのだ。


『ロキ闘士の勝利です。1回戦同様、2回戦も激闘の末、勝利を納めました!!3回戦も素晴らしい戦いをきっと見せてくれるでしょう!!』


総司会ゴスティーニの言葉により、拍手が起こる。

善戦した2人を称えるようだ。


こうして、ロキとパメラが3回戦に上がることが決まったのだ。

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