第25話 命名③

おっさんがイリーナの街の受入計画を聞いて1か月が経ったのだ。

今日は100人強の新たな街の仲間を受入れる日なのだ。


1か月の間で訓練はいくつか変わってきたのだ。

ロキとパメラである。

必殺技の訓練に入ったのだ。

鎧の騎士カフヴァンが必殺技の手ほどきを始めたのだ。

おっさんも当然興味があるので話を一緒になって聞くのだ。

そこで初めて聞くのだ。

この世界に気力だとか闘気のようなものがあることを。

たしかにダンジョンコアの番人戦で剣圧というか剣激のようなものを出していたなとおっさんは思うのだ。

気力を剣やナックルに込めてうち放つのだという話である。

あまり細かい説明も理論もないようだ。

やって見せるから頑張ってできるようになれとそれだけだ。

魔力に置き換えて考えると言われてみればそうだなと思うおっさんである。


おっさんはタブレットを使い気力のようなものはあるのか確認するのだ。

力で検索すると見たことない物があるのだ。


【ブログネタメモ帳】

・必殺技と気力の関係 ~〇〇スラッシュを使ってみたい~


・気力向上Lv1 100ポイント

・精霊力向上Lv1 100ポイント


世の中に精霊がいることもこの時初めて知るのであった。

じゃあ召喚士ならぬ精霊士もいるんだなと思うのである。


おっさんは今でこそASポイントが100から始まるスキルも取得するが、最初はASポイントが1から始まるものばかり取得していたのだ。

ASポイントが100で始まるものをレベル5までするには100万ポイント必要なのだ。

1000から始まるものは1000万ポイントである。

いくつか興味があるものもあるが、今取らないといけないもの、優先順位の高い物も多いのだ。



1月も経ちパッシブスキルの成長もあった。


ロキが体力向上Lv1、気配察知Lv1を取得した。

パメラが素早さ向上Lv2を取得した。

コルネが夜目Lv1を取得した。

セリムとメイが魔力向上Lv1を取得したのだ。

イリーナ、ソドン、アヒム、イグニル、アリッサが力向上Lv1を取得したのだ。


おっさんのパッシブスキルの分析が進むのだ。

ロキはバランス型で満遍なくパッシブスキルが成長し、パメラは特化型なのだなと感じる。

これは戦闘スタイルとステータスの傾向によるものだと。


遠くのものを見ると鷹の目が、近くで敵の動きを感じると気配察知が育つのだろうと。

鎧の騎士カフヴァンも、ロヒティンス近衛騎士団長も気配察知がとても高いように感じるおっさんである。


城壁の上から森林からモンスターが出てこないか警護に1月ほど当たっていたのだ。

コルネの夜目は深い森林で敵の動きを察知しようとしたから生えたのかなと思うのだ。


セリムとメイの魔力向上Lv1は大きな収穫である。

座禅を組み瞑想することは、魔力上昇につながるのだ。

座禅で自身の内面と向き合い、体内の魔力の流れを読むというものだ。


そして、セリムよりメイの方が魔力向上Lv1を取得するのが早かったのだ。

これはメイの方がセリムより魔力が高いのだ。

ステータスがパッシブスキルの成長に影響していると判断できる材料になったのだ。


最後にイリーナたちの力向上Lv1である。

これは開墾作業によっても力が向上することを意味する。

戦闘だけではない、そして、開墾作業が終わっても、疲労をなくすために回復魔法をかけることを2カ月間抑えていたおっさんである。

力を使い何かを行い、疲労は自然回復することが力向上につながると分析したのだ。


【ブログネタメモ帳】

・パッシブスキルの取得条件考察 その1


魔道具については、依頼したものは全て作成が終わった。

今日やってくる第一陣を受入るときに一緒に持ってきてもらう予定であるのだ。

試作でお願いした、配送魔道具と高温魔道具も試作機が完成したのだ。

用途も詳しく説明し、施設型の作成に入ったのだ。

配送魔道具は20個以上必要と考えているが、とりあえず4つ注文した。

高温魔道具も4つ注文した。

両方とも1つ白金貨20個である。


最後にヘマとアヒム彼女である。

さすがに、ゼルメア侯爵の家にずっと預けているのも良くないので、フェステル伯爵邸に移動させた。

この時、ゼルメア侯爵邸にあった荷物も全てフェステル伯爵邸に移動したのだ。

荷物は本日第一陣と共に届く予定だ。

ヘマとアヒム彼女は2か月後の町民受け入れ時に合わせてやってきてもらう予定だ。


武術大会のために、獣王国へ出発するまで半月後に迫ってきたのだ。





・・・・・・・・・


「まもなく、ヤマダ子爵様の領都に到着します」


「うむ」


おっさんの従者に新しくなった3人のうちの1人が、騎士の格好をした40歳くらいの男に話しかけるのだ。

大きな馬車である。


「やっとの到着ですね」


すると騎士の前に座った男が騎士に話しかけるのだ。


「そうだな。ウガルダンジョン都市から20日近くかかったからな」


暗い通路を魔道具の灯りで通ること4日目である。

申し訳ない程度に光が入ってくるが、モンスター除けのために作られたこの道は、両側にも上部も土壁で塞がれており、とても暗いのである。

荷馬車に乗せた灯り用の魔道具がなぜこんなにいるのだと思ったが、理由が分かるのである。

今後、洞窟のような道に魔道具が設置される予定と聞いたのだ。


「それで、お前の家は誰も反対しなかったのか?リトメル殿よ」


何度かしたような会話を退屈しのぎにするのだ。


「ええ、御当主様の恩情ですからね。遠く離れた地に行きますが、しっかり説得しました。アルキード殿はどうでしたか?すぐに説得できましたか?」


代官のリトメルはウガル元伯爵よりおっさんの領都で代官として働くことも手紙で聞かされたのだ。

自分のために奔走してくれたウガル元伯爵に感謝こそすれ、何の不満もないようだ。

細かい日程は、ウガル元伯爵が戻ってきてからなので、出ていく準備だけはしておいてくれと書かれていたのだ。


「わが家はかなり苦労したがな。しかし、御当主様の願いだ。説得はするさ」


おっさんの領都への異動を直接ウガル元伯爵から言われたアルキードである。

ずっと仕えてきたウガル家の元当主からのお願いである。

お前しかいないとまで言われ頭を下げられたのだ。

アルキード家はずっとウガル家と共に歩んだ男爵家であり、ずっと騎士団長や副騎士団長を輩出してきたのだ。

領が変わるということは、仕える家が変わるということだ。

一瞬目の前が真っ白になったが、主の最後の願いを聞こうと、家族を説得したのだ。


「まもなく外壁に入ります」


リトメルとアルキードの間に入って従者がガイドを行う。

冒険者の要塞までは新しくイリーナの街(仮称)にいく騎士や従者の案内を受けていた。

しかしイリーナの街に入ったことがないため、冒険者の要塞からは先におっさんに仕えることになった3人に案内と説明を受けているのだ。


「外壁?」


「はい。街に入る外壁です」


薄暗かったトンネル状の道に差し込む光が完全に消えるのだ。


「かなり、厚い外壁であるな。どれくらいの厚さなのだ?」


「はい、2町(200m)と聞いております」


「厚さ2町の城壁とは。さすが、王国の英雄であるな。魔法だけでそれだけの外壁を作れるなど、戦局が変わってくるな」


外壁の活用方法をアルキードの頭の中にいくつも湧いてくるのだ。

城壁を好きなところに作れるのだ。

そして、その先を照らす光である。

ようやく4日に渡る薄暗い生活からも終わるのかと思うアルキードであるのだ。


「ふむ、街にようやくついたようだな?ん?どうしたのだ、騒がしいな」


後方には数十の荷馬車が今後の街づくりのために運ばれているのである。

しかし、貴族であるアルキードとリトメルの前には最前を走っているわけではないので、馬車も騎馬隊もいるのだ。

先行して前を進む騎馬隊と思われる者達が騒がしいのだ。


あまり騒ぐのは良くないな、誰かに注意させるかと思い口に出そうかというところで光が降り注ぐ。

外壁を抜けたのだ。

まだお昼過ぎで日差しが馬車の中にふりそそぐのだ。

久々の強い光に目が眩むが、その先に漆黒の外套を着た男が仲間や配下を引き連れて待ってくれているのだ。


どうやら、わざわざ外壁まで迎えに来てくれたようだ。

馬車の中から新たな主に挨拶するのは失礼と御者に馬車を停めるように指示をする。

馬車から降りるアルキード。

では、私もとリトメルも降りるのである。


「長旅お疲れ様です、アルキードさん、リトメルさん。食事はまだですよね。今準備をしますので、街の中央まで案内します」


「いえ、これは出迎えていただきありがとうご…」


新たな主のねぎらいの言葉に反応するかのように、返事をしようとするアルキードである。

しかし、言葉が詰まってしまったのだ。

どうやら、おっさんの後ろに見える建物のサイズがおかしいのだ。


目が久々の光になれていないからかとも思ったアルキードである。

見間違いかな、ちょっとこの外壁を抜けた状況を先に理解するかと周りを見回す。


「いかがされましたか?」


目の前の漆黒の外套を着た新たな主が心配をするようだ。


「ここは街のどのあたりになるのでありますか?」


「えっと、ここは外壁に作った道の上です。街の出口です。高さ1町(100m)に作った、冒険者の要塞と外壁をつなぐ道の街側の出口です。外壁の中腹というか下の方に作っていますが、ここからでも街の中に入れるようにしています」


外壁の下の方と言われて、上を見上げるアルキードである。

そこには、はるか上まで続く外壁があるのだ。

外壁のかなり下の方に作った外壁の穴の前であるのだ。


「この外壁は高さどれくらいであるのですか?」


「10町(1km)です」


自分の距離感が壊れたわけではないようだと思うアルキードである。


「10町ですか」


「はい」


ウガルダンジョン都市の外壁は100mもないのだ。

王都もそうである。

王都の外壁を見て感動した自分が何だったのかの何十年も前の記憶が上塗りされていく。


フェステルの街の外壁は高さ15mである。

1kmの外壁が果てしなく先まで続いているのだ。

しかし、距離感を確認するための作業として、外壁の高さを確認したのだ。

街の中央と思われる場所で、正面にあるよく見たことのない構造物の大きさが、常識的ではないのだ。


「あの、目の前の建物は何でしょうか」


「ああ、よくぞ聞いてくださいました。あそこに皆さんと住むことになります」


嬉しそうに話すおっさんである。

どうやら自分はあそこに住むらしいと思うアルキードである。

街が1辺12kmもあって、外壁も1kmもあるので、距離感がいまいちつかめないが、どうも非常識に大きいのだ。


「す、すいませぬが、あの建物は、大きさはどの程度であるのですか?」


らちが明かないので聞いてみるアルキードである。

一緒にやってきた騎士や従者も聞きたいようだ。


「はい、あの建物は底辺が1辺40町(4km)の四角形になっていまして、高さは20町(2km)になります」


「高さ20町?城壁の倍の高さということでありますか?」


「はい」


「何か空洞が階層のように見ますが、空洞のところに住むということでしょうか」


高すぎて、全容はよく見えないが、複層構造のように見えるアルキードである。


「その通りです。2町(200m)ごとに新しい階層になっていますので、10階建てですね」


1辺12kmの街を囲む1kmの城壁。

その中にある1つの建物は、底辺は4kmの四角形、高2kmのピラミッドの形をした建物であった。

日本一の高さの電波塔3本分だ。

180m置きに厚さ20mの床を作った10階建ての建物であるのだ。


「ここが、イリーナの街でございますか」


何となく状況を整理するアルキードである。


「え?ああ、そうなんですけど、それは仮称で、正確には違うのです」


「と言いますと?正確にこの街は何というのですか?」


リトメルや騎士達も横でアルキードとおっさんお話を聞いていたのだ。

街の名前が皆気になるようである。


ブサイクなおっさんは十分に間を開け、どや顔で答えるのだ。



「はい、ここは天空都市イリーナといいます」



異世界に天空都市イリーナが誕生した瞬間であったのだ。

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