第26話 バーベキュー
おっさんがどや顔で領都の名前を宣言したのだ。
天空都市イリーナであると。
外壁の地面から100mの地点に設けられた街の出口に人が集まってくる。
どうやら今回の受入れる人が全員外壁を抜けたようだ。
おっさんが皆を案内するようである。
「すみませぬ。その前に一度名乗らせてほしいのである」
「あ、はい、そうでしたね」
アルキードが、建物に驚愕したため、会話が途中になってしまったのだ。
しっかり初めの挨拶をしたいとのことである。
膝をつき、臣下の礼に則って挨拶をするようだ。
おっさんがこれからの上司になるのだ。
騎士や従者達も馬や馬車から降りて膝をつき頭を下げるのだ。
「ダドリム=フォン=アルキードと申します。この度は、私を領内に受け入れていただきありがとうございます。今後とも領内の守護に努めていきたいと思います」
アルキードは、おっさんの領内の騎士団の副団長の予定である。
しかし、これはおっさんから拝命を受けてから名乗ることが礼儀であると考えているため、このような挨拶になったのだ。
「ホルキンス=フォン=リトメルと申します。ヤマダ子爵様の恩情に感謝します。今後ともヤマダ家の繁栄と領内の発展に努めてまいります」
腰の低いリトメルも挨拶をする。
同じく代官になることのお礼は言わないのだ。
それはおっさんが任命して初めて名乗れるのである。
「私はケイタ=フォン=ヤマダと申します。今後ともよろしくお願いします。アルキードさんもダンジョンコアの移送ぶりですね。リトメルさんもウガルダンジョン都市でお世話になりました。今後ともよろしくお願いしますね」
おっさんも挨拶をする。
となりにいたロキも挨拶するのだ。
ここにはおっさんとロキとアヒムしかいない。
3人で迎えに来たのだ。
「他の方はどちらに?」
アルキードが3人しかいないので尋ねるのだ。
「今皆さんの歓迎会の準備をしています。私達は案内係ですね。街の状況も説明しながらご案内しますよ」
「歓迎会?」
「はい、ここから80町(8km)先の川のほとりで皆さんと親睦を図ろうと思いまして。少し距離もあり、もうお昼過ぎですが、そちらで皆さんと食事にしましょう」
おっさんは80町といったが、この世界では2里(6km)20町(2km)と言う方が一般的である。
「そ、そうでありますか」
食事を準備してくれていると言うおっさんである。
他の皆は食事の準備中とのことだ。
おっさんの作った大森林上空に作った道は30km置きに宿泊施設がある。
まだ、土壁を広くしただけであるが。
天空都市イリーナに来る30km手前で一度、宿泊して、朝から馬車と騎馬で走ってきたのだ。
歩きでの移動者はいない。
もう一度馬車に乗るように促すおっさんである。
このまままっすぐ川のほとりまで案内するのだ。
おっさん、ロキ、アヒムもアルキードらとともに大きな馬車に乗るのである。
案内ということもあり、アルキードやおっさんの乗る大きな馬車が先頭を走り先導するのだ。
まっすぐ進み始める一行であるのだ。
切り株を引っこ抜いて踏み固めた道は結構凸凹している。
しかし、この日のために魔力調整で厚さ1m程度の幅30mの道を川まで伸ばしていたのだ。
さくさく進むのだ。
「この先が内壁ですね」
「内壁ですか。高さは1町(100m)ほどでありますか?」
統一感のある高さである。
アルキードも大体の大きさ、長さが分かってきたようだ。
「はい、建物を囲むように高さ1町の壁を作りました。縦横は50町(5km)ですね。厚さも1町です」
おっさんの土地は縦横12kmである。
縦は遮るものはないが、横は川があるので4km、8kmに街が分かれるのだ。
その縦12km、横8kmの中心に縦横5kmの内壁を作ったのだ。
外壁に空いた道から内壁までは、1.5kmの距離である。
内壁の門はまだ作っていない。
外壁の門は全てふさがっている。
今この街で空いているのは冒険者の要塞とつながる道のみである。
外壁の冒険者の要塞に続く道は、今は完全につながっている。
冒険者側のフェステル騎士団の副騎士団長には、迎え入れる準備が整っていないため、まだ人を通さないでほしい旨伝えてはいるのである。
1.5km先にある内壁なので、すぐにたどり着き、そしてくぐり抜けるのである。
そこにあるのは、外壁を抜けたところで見た巨大な建築物である。
おっさんの作ったピラミッド型の多層構造の建物は、高さ2kmなので、斜辺も2kmの正三角形なのである。
角度は45度であるのだ。
「これは、1階部分は地面なのですね」
「そうです。1階部分は地面ですね。2階以降には正面の階段や台車でも登ることができる道も作っています」
外周にスロープの道を、階層ごとに複数作っているのだ。
「これは、何階まであるのですか?」
「2町置きに土壁の床を9つ作った10階建ての建物になっています」
挨拶する前に聞いた気がするが、もう一度尋ねるアルキードだ。
各階層の高さは180mである。
床の厚さは20mであるのだ。
階層間だと200mの10階建てで、2000mの建物であるのだ。
「10階ですか?全て合わせるとずいぶん広くなるのですね」
「はい、フェステルの街よりやや大きいくらいでしょうか」
1階から10階まですべて合わせると100平方km弱である。
80平方kmのフェステルの街より広いのだ。
そして、すぐに階段らしきものが見えてくる。
45度の階段が2km先まで続いているのだ。
「なるほど、この階段は頂上まで続いているのですか?」
「そうです、20町(2km)の階段です」
馬車は階段を横切り、建物の中に入っていくのだ。
見上げながら、皆進むのである。
巨大な天井なのだ。
見上げた先には、2階の床に当たる、縦横3600m、広さ14.4平方kmの天井である。
天井が広いため、建物の中心は昼間でもやや薄暗くなっている。
高さ180mの天井でも、天井が広すぎて光が入りきらないのである。
なるほど、ここにも灯りがいるのかと思うアルキードである。
建物の中心の柱を発見する。
「これは、あの細い柱で支えているのですか?」
「はい。この柱は天井まで続いてます」
5km四方の内壁の中心に縦横20mの柱が立っている。
おっさんらは街の中心を走っているため、建物の中心であり、街の中心にある柱が良く見えるのだ。
この柱は高さ2kmあり、建物全体を支えている。
物理を超えた魔力により支えられた建物である。
案内を受け、街を通り過ぎながら、建物を見ながら皆思うのである。
今回やってきたのは120名である。
従者20名
役人20名
騎士10名
兵50名
そして、アルキードとリトメルとその家族である。
どうしても一緒について行きたいと、長年各家に仕えてきた数名の従者や侍女も連れてきて全部で120名なのだ。
アルキード家もリトメル家も全てが天空都市イリーナにやってきたわけではない。
騎士院に通うアルキードの子供もいる。
文官として王都で働くリトメル家の子供や親せきもいるのだ。
階級も立場も違うので、思いもばらばらであるが、1つあるなら『不安』であるのだ。
ウェミナ大森林は帝国との国境の森。
危険なモンスターも多く、深い険しい森。
人の生活できる場所ではないのだ。
では今回のおっさんの街への移動は不平不満があるかといえば、そういうものではないのだ。
王国は完全に皆に仕事や雇用があり、安住した生活をしているわけではないのだ。
単純に失業率でいうと20%前後なのである。
騎士の嫡男は騎士になる。
騎士の嫡男以外の子供は従者になる。
一部は兵士にもなる。
では、従者や兵士の子供は何になるのか?
代々従者として仕えることができるかといえば、そうではないものがほとんどである。
嫡男になれず家を継げなかった士爵家の子供がどんどん従者になるからだ。
貴族も無限に従者を雇えるかといえばそうではない。
今回、アルキード家やリトメル家に代々仕える従者がその雇用の枠を埋めているようにである。
不安定な雇用環境で、福祉などの概念のない世界だ。
そこに新しい街を作ろうとしている英雄がいる。
薄暗い道を4日もかけて進んだ場所は、既にかなり切り開かれた、まだ外壁と内壁と巨大な建物だけがある街であった。
これだけ大きな街だ。
雇用の枠は、自分はもちろん自分の孫の代まであるのだ。
不安の方が大きいが、期待もあるといったところであるのだ。
そんなことを考えている、川に到着する。
随分大きな川だな。
これなら生活用水に困らないなと思うものも多い。
そして川のほとりに10人ほどの人がいる。
大きな小屋もいくつか見受けられる。
「到着しましたね。あちらです」
おっさんが作った土壁の道は、川のあたりで地面と一体になり消えるのだ。
おっさんは馬車を降りて、皆に川のほとりまでくるように言うのだ。
ぞろぞろと川のほとりまでくるのである。
「ここで食事をするのですか?」
「そうです、親睦を兼ねてバーベキューですね」
【ブログネタメモ帳】
・街に住人がやってきた ~バーベキューで歓迎会~
バーベキューって何?って顔をするアルキードとリトメルである。
しかし、目の前には、石を組んで作ったカマドに鉄板が置いてある。
薪も石の中に沢山入っているので、何かを焼いて食べるものだろうくらいの想像は着くのだ。
アルキードは騎士なので野外で狩ったモンスターの肉を焼いて食うくらいの経験は何度もあるのだ。
少し離れたところで、イリーナ、コルネ、アリッサ、メイが肉を切り分けている。
肉を焼いて食うのかみたいなことは想像つくのである。
近くでボアでもとらえたのか、すごい肉の量であるなとも思うアルキードである。
アヒム、イグニル、チェプトが率先して馬車を停める場所まで移動させる。
馬小屋はないが、馬車を停める場所は準備しているのである。
当然長旅で疲れた馬用に準備した干し草も水もこの日のために完備してあるのだ。
皆で食事がしたいおっさんである。
1か月後に、新しい街の仲間が来ると聞いて、あれこれ構想を練っていたのだ。
皆がおっさんの周りに集まってくる。
おっさんが一言いってバーベキューを始めるのである。
「では、皆さん、天空都市イリーナに来ていただきありがとうございます!私はケイタ=フォン=ヤマダと申します!今日は親睦を兼ねてバーベキューをしたいと思います。お肉や野菜を焼いて食べる簡単な料理ですが、みなさんわいわい食べて飲んでください。飲み物もキンキンに冷えてます!!!以上です」
キンキンって言いたかっただけのおっさんである。
以上なのかと思うアルキードである。
そういえば、20日近い道中でリトメルに、ウガルダンジョン都市でおっさんがどういうものなのか何度か聞いたことあったな。
おっさんは食卓に従者も呼び、皆で食事をするのが好きと言っていたなと思いだすのである。
石を組んで作ったカマドは10個あるようだ。
全てに鉄板が引いてある。
火をつけて回る、アヒム達である。
「お、お肉食べていいのですか?」
「ぶっ」
アルキードの末っ子(8歳男)が肉に反応したようだ。
噴き出すアルキードである。
アルキードとリトメルは一家で来たので小さい子供もいるのだ。
リトメルの子供(7歳男と9歳女)も興味津々である。
食事と分かってか群衆の結構前の方にやってきている。
「もちろんです。ちょっと実演しますね。このように鉄板でこの金具で肉をつかんで焼くのです」
アルキード子供の前でトング的な物で肉を挟んで鉄板で焼くのだ。
本当は鉄板じゃなくて金網が欲しかったが、間に合わなかったのだ。
ジュウウッ
「おおお!!」
感動するアルキード子供である。
肉の香りがあたりに立ちこめる。
「ちゃんと両面焼きましょう!よく焼けたら、このお肉にぴったりの特製香辛料を振りかけて食べるのです。どうぞ。火傷しないようにね」
実演するといったが、食べさせてくれるようだ。
ほおばるアルキードの子供である。
「お、おいひいです!!」
目を見開き感動しているようだ。
「よかった。このように食べますので、お肉はじゃんじゃんあります。どんどん食べてください」
イリーナたちが、山盛りに切り分けた肉を木の板に乗せたものを皆に配りだす。
トングと皿とフォークも一緒に配る。
騎士、役人、兵、従者の順で受け取るところを見ると、階級社会だなとしみじみと思うおっさんだ。
石でできたカマドごとに10人ちょいの塊になって、見様見真似で焼き始めるのだ。
「う、うまい!!」
「な、なんだ?このうまい肉は」
「グレイトボアか?いやワイバーンか?いやもっとうまいぞ!!」
肉を夢中になって食べる人達。
前もって切り分けていた肉がどんどん消えていく。
街に着いたときすでにお昼を過ぎていたため、皆空腹だったのだ。
頑張って作った、土壁の桶に水をため、氷魔法の氷を浮かべたおっさん渾身の飲み物を出すタイミングが見つからないのだ。
その桶に、お酒や果実水の入った小さな樽が何十個も浮いているのである。
アヒム達が気付いて、木のコップと共に配りだすのである。
「あ、あの、このように美味しい肉を食べたことがないのですが、何の肉でしょうか?この大森林にいるモンスターの肉でしょうか?」
一度食べれば忘れられないほどの美味い肉である。
しかし、誰も食べたことのない肉のようだ。
ウェミナ大森林にいる固有のモンスターの肉と思ったようだ。
かなり気になるのか、リトメルの質問の答えを待つものも多いようだ。
「ああ、これはウェミナ大連山で獲れたドラゴンです」
「「「え?」」」
もう運ぶの苦労しましたよというおっさんである。
そこでリトメルの思考が停止した。
野鳥を獲りに行った感覚で伝えるのだ。
おっさんはあれから300体のAランクモンスターを大連山で倒したのだ。
そのうち100体近くがドラゴン種である。
倒したドラゴンはなるべく肉を食料として持って帰ったのだ。
持って帰れない肉は、現地で、氷魔法で凍らせておいて、何度も往復して、この河原まで運んだのだ。
「ここに一杯ありますので、だから遠慮せずにじゃんじゃん食べてください」
川のほとりに土壁に作った大きな小屋がいくつかあるのだ。
その小屋の1つの正面の土壁を消す。
そこには1月かけて貯めに貯めた氷漬けの数十トンの肉ブロックがあるのだ。
「「「な!」」」
従者の食事は、肉片が1つ浮いた薄味のスープに、数日前にまとめて焼いた硬いパンが普通なのだ。
それすら3食を食べることができないものも多い。
人生で肉だけで腹を満たしたことがないのが普通である。
いくら食べてもいいと言われて、泣きながら食べる従者も現れだすのだ。
役人や騎士になっても従者の食事に毛が生えた程度の食事であるのだ。
価値観や人生観が変わったものもいるようである。
ドラゴンを腹いっぱい食べたことのある従者はこの街にしかいないであろう。
アルキードやリトメルの子供たちも一心不乱に食べるのだ。
100人以上の腹を満たすため、イリーナたちが必死に肉を切り分け、木の皿にのせていく。
100人以上の人達が鬼のように食べるのだ。
おっさんがイリーナ達に焼けた肉と飲み物を運んであげていることに気付くアルキードとリトメルの妻や侍女達である。
肉の準備を手伝ってくれるようだ。
その後、バーベキューは数時間続いたのだ。
従者の1人までお腹いっぱいになったか確認するおっさんである。
そんなおっさんを見て、皆期待の方が大きくなったのであった。
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