第19話 メイ

しゃべる鎧から、鎧の騎士カフヴァンになった次の日の朝である。


「それではいってきます。皆さんはゆっくりされてください」


激しい開墾と訓練である。

皆ゆっくり休むように伝えて、おっさん、イリーナ、セリム、メイの4人はセピラス1体に乗ってフェステルの街に向かうのだ。

3日に1日は休息日なのだ。


フェステルの街はイリーナの街(開墾中)から240kmほどである。

ちょうど、王都とイリーナの街(開墾中)が480kmなので中間なのだ。

往復も半分で済むのだ。


セピラスに乗り込む4人である。

落ちないようにおっさんがメイと紐で胴体を結ぶ。


「では、セリム、魔力接続をお願いします」


「分かった。やってみる」


セピラスに魔力を送り込むセリムである。

タブレットで確認するおっさんである。


(やはり、AS1000ポイントのスキルだから魔力消費20か。スキルレベルもまだ1だしな。魔力接続もスキルレベル上げたいな。やはり、カフヴァンが魔力500を吸収したのは特例であったのかな)


魔力接続のレベルが召喚士としてのセリムの成長につながると考えたおっさんであるのだ。


「どうですか?召喚獣は何か言ってますか?」


「4人乗っているけど、早く飛べるぞってさ」


「では2人で乗ってるときと同じ速度でお願いしてください」


「分かった」


時速240kmほどで飛ぶセピラスである。

4人は大きな羽毛の中に身をひそめ、到着を待つのである。

召喚獣の背中に乗ると、地面は見えないのだ。

それか、遠くの先である。

もしも、地面を見るなら羽毛のない飛竜の、しかも背中ではなく肩付近に乗らないといけないのだ。

おっさんはタブレットの『地図』機能により、どこを飛行しているのか確認するのである。


そして、1時間でフェステルの街の貴族街側の北門近くの草原に降りるおっさんである。

草原から、数キロ歩くのだ。


フェステルの街のおっさんが作った外門を抜け、旧市街に入る内門も抜けるおっさんである。

さらに歩きを進めフェステル伯爵邸に入るのだ。


「これは、ヤマダ子爵様」


フェステル伯爵の家宰のセバスに挨拶をするおっさんである。

ここにいる経緯も説明するのだ。

おっさんが封土を貰ったこと。

それは、おっさんがトトカナ村の先の冒険者のために作った要塞の先のウェミナ大森林全域であること。

すでに、冒険者の要塞から歩いて4日程度のところに、領都にすべき土地を発見し、12人で開墾中であること。


「なるほど、そのようなことになっているのですね」


「はい、ですので、測量ができるものをトトカナ村、できれば冒険者の要塞に派遣してください」


「では、冒険者の要塞まで、派遣しましょう。すでに、馬車が通れるように整備されています。今からだと恐らく6日あれば、確実に到着できるかと思います」


(ここから冒険者の要塞まで4日だから結構早く対応してくれるのね)


「もう1つお願いがありまして、街に必要な魔道具の施設の話が聞きたいです」


魔道具ギルドの紹介状を書いてくれるとのこと。

通常の魔道具ではないので、予定を入れて伺うのが良いとのことである。

これはいつがいいかと聞かれたので、3日後の午後に伺うと話をしたのだ。


対応のお礼を言って、フェステル伯爵邸を後にしようとする。

移動に馬車を出してくれるとのことなので、助かりますと言葉に甘えるのである。


おっさんは、メイに待機中に書いてもらった必要な物リストを確認する。

・食料品

・調理器具

・日用品

・髭剃りセット

・衣服(主に下着) などなど


ウガルダンジョン都市の拠点から出ていくとき、魔道具を除いてほとんどの物を拠点に置いてきたおっさんらである。

その時は、今のようにウェミナ大森林でキャンプ生活を想定していなかったのだ。


(ふむ、髭剃りは助かるな。キャンプ状態で、全力で無精ひげだからな)


おっさんは貴族になってうれしいことがある。

一番うれしいと言っても過言ではない。

それは元侍女でメイド長のメイが毎日髭剃りをしてくれることだ。

ダンジョンから帰ってくると、髭を整えてくれるのである。

この時ばかりはイリーナもメイがべたべたおっさんを触っても何も言わないのである。

貴族としての、エチケットなのだ。


「これからどうするのだ?」


おっさんが必要なものを考えていると、イリーナが予定を聞いてくる。


「まずは、昼食ですね。そのあとは聖教会にいきましょう。終わったら、市場やお店で買い物をしましょう」


予定通り街の大通りのレストランで食事をするおっさんである。

席に着きメニューを見るのだ。

メニューを隅々まで見るおっさんである。

そして一言いうのだ。


「ありませんね」


「何を探しているのだ?」


「ハンバーグです」


「「「ハンバーグ?」」」


(メニューにないってことは知らないか)


とりあえず4人の注文を済ませるのだ。

そして、待っている間にハンバーグについて、話をする。

肉をミンチにして、卵黄やパン粉で固めて、香辛料で味を調えて、両面を焼いて食べる料理であると。


「なるほど、それがケイタの故郷で食べられている料理であるのだな。でもなんで、そのような話を?」


「それは、ロキとパメラが体力を消耗してて、すぐに固まり肉を食べれないのです。訓練の後、なるべく早く食事をした方が、訓練の効果は出るのです」


(運動後、30分以内の食事が理想だしな。プロテインはなくても、細かくしたミンチ肉は食べさせたいな。あとはエネルギーの吸収のいい麦粥かな。現実世界でレシピ調べておくか)


簡単に訓練後速やかに食事をする重要性を説明するおっさんである。

おっさんはほとんど成果の出ないスポーツジムに10年以上通っているのだ。

少しは成果出ている風に言ったが一切成果は出ていないのだ。

ロキとパメラが体力を消耗して、訓練が終わったあと2~3時間食事ができないのだ。

肉は500g近いブロック肉を焼いて食べるのだ。

肉はステーキのようにして食事をするのが、この異世界では一般的のようであるのだ。

ハンバーグの材料も、市場で探してみましょうという話になったのだ。



食事を済ませた4人は聖教会の建物を目指すのである。

建物の中に入るおっさんら。

入ると数人の聖教会のローブのようなものに、サラダボウルを反対にしたような、ピタッとフィットした帽子を被った人たちが寄ってくるのだ。


「今日はどのようなご予定ですか?」


「こちらの女性に魔法を習得させたくて参りました」


それはそれはと、個室に案内されるおっさんら4人である。

かなりにこにこしている。


(ずいぶん態度がいいな。たくさんの寄付が期待できるってことかね?私のブログネタになるとも知らずに。ぐふふ)


【ブログネタメモ帳】

・聖教会での魔法習得について


かなり綺麗な個室に案内されるおっさんである。

木目調のテーブル席に腰かけると、いくつかの資料を持って話をしてくれるようだ。



「本日は、魔法の取得ということで簡単に流れを説明します」


まずは魔力があるか確認すること。

魔力がなければ、その後の祈りをしても魔法を習得できないからである。


次に魔力があると分かれば、祈りである。

祈りによって魔力を習得できる。

なお、魔法それぞれに祈りが必要であるとのことだ。


「なるほど、大体分かりました。お祈りを見学させていただいても大丈夫ですか?」


「もちろんでございます。こちらが必要な寄付金になります」


・魔力検査 金貨10枚


・回復魔法の祈り 金貨50枚

・治癒魔法の祈り 金貨50枚

・火魔法の祈り 金貨30枚

・水魔法の祈り 金貨30枚

・風魔法の祈り 金貨30枚

・土魔法の祈り 金貨30枚

・火魔法の祈り 金貨30枚

・氷魔法の祈り 金貨50枚

・雷魔法の祈り 金貨50枚


・回復魔法の祈り上級 金貨100枚

・治癒魔法の祈り上級 金貨100枚

・火魔法の祈り上級 金貨60枚

・水魔法の祈り上級 金貨60枚

・風魔法の祈り上級 金貨60枚

・土魔法の祈り上級 金貨60枚

・火魔法の祈り上級 金貨60枚

・氷魔法の祈り上級 金貨100枚

・雷魔法の祈り上級 金貨100枚


(ふむふむ、金貨1枚10万円なので、確認だけで100万円かかるのね。全ての魔法スキルは上級まであると。これはスキルレベル2まで習得させることができるってことかな?)


「通常の方の魔法が習得できなかった場合は、上級の魔法は習得できないですよね」


「はい。そうです。また、例えば、回復魔法上級を覚えるためには、まずは回復魔法を習得する必要がございます」


(なるほど、上級習得したら、上級じゃない通常の方も覚えれるってわけではないのか。あくまでも通常から習得するってことね)


「分かりました。では、魔力はあると思ってここにきたのですが、念のために魔力検査を、そして通常の魔法全てでお願いします。」


「え?全てですか?」


「え!?」


聖教会の担当者とメイが驚くのである。

メイはおっさん耐性がアリッサと違ってまだ少ないのだ。

イリーナとセリムが始まったなという顔をしている。


「はい。どの魔法に適正があるか分かりません。白金貨3枚と金貨60枚ですね」


寄付金がたくさんいるというのは聞いていたので十分なお金を持ってきたおっさんである。

白金貨と金貨をじゃらじゃら高級なテーブルに出して、お金の準備をし出す。


「は、はい」


お金を受け取る聖教会の神官である。


「時間はかかりますか?」


「いえ、全ての祈りを捧げても半刻(1時間)もかかりません」


「分かりました。あと、通常の方を習得できた場合は、全て上級の祈りもお願いしますね。寄付金はありますので」


お金持っているの見ましたよねといった言葉を、含みを持たせるおっさんである。

ではそのようにと返事をし、部屋から出ていくのである。

そして、水晶を持ってきて、こちらに触れてくださいと言われるのだ。


(ほう、俺もやった魔力検知の水晶だな。仲間支援魔法で魔力を上げたら割れそうだな)


余計なことを考えながら見ていると、メイが水晶に触れる。

魔力があるので、水晶は光り輝くのだ。

メイがおっさんを見て、ここ一番の笑顔をするのだ。


「魔力はございますね。おめでとうございます」


お祝い言われるメイである。

ではと、メイを祈り部屋に案内するとのことである。

おっさんらもついて行くのだ。

祭壇のような部屋に案内される。


(おお!石膏のように真っ白な石像がたくさんあるぞ。祈りをささげる中心の台の前にいるのが創造神ルドマかな。たしか、聖教会が信仰している神だよね。この男神は戦神ベルムぽいな)


そこまで広くない祭壇のような部屋には、部屋の周りを囲むように真っ白な石像が立っていたのだ。

恐らく、この世界の神であろう、男神や女神が10数柱部屋の外周に並べられているのである。

メイがまっすぐに進んだ突き当りの前にある、祈りをささげる用であろう台の上に正座をして座るように言われる。

言われるままに正座をし、両手を握り頭の上に掲げるのだ。


(完全に祈りのポーズだな)


その前に立つ、聖教会の担当者である。

何か本のようなものをもってぶつぶつ言っている。

恐らく神官なのであろうと思うおっさんである。


(ふむふむ、スキルを取得させるのは本か。何か魔法書を思い出すな)


かなり長いこと祈りをささげるようである。

水晶が、金、銀、水色の順に輝くのである。


「おお!3つの魔法を習得できましたね」


(まじか?こんなんでスキル習得できるのか?どれどれ)


NAME:メイ=ブランカ

Lv:17

AGE:20

HP:153/153

MP:190/190

STR:52

VIT:52

DEX:53

INT:185

LUC:104

アクティブ:料理【2】、水【1】、回復【1】、治癒【1】

パッシブ:礼儀【1】

EXP:33500


(ふむ、これはどう見たらいいのかな)


「ありがとうございます。どの魔法を覚えたのでしょうか?」


分かっているけど、とりあえず聞くおっさんである。


「はい、回復魔法、治癒魔法、水魔法でございます。3つも魔法を覚えることができるとは、優秀な配下をお持ちですね」


神官から褒められるおっさんである。

メイのおっさんに対する話し方で、関係を察した神官である。


「ありがとうございます。その3点の魔法について、上級の魔法の取得もお願いします」


「よ、よろしいのですか?取得できなくても寄付金の返金もしておりません。また、習得できるものもほんの一部の方に限りますが」


(しっかり、事前説明してくれるのね)


「構いません。白金貨3枚です。寄付金ですのでおつりはいりません」


白金貨3枚と少し多めに渡すおっさんである。

スキルを取得させてくれたお礼が含まれているのだ。

寄付金を神官に渡すと、ではと、魔法の取得の祈りの儀式を再開するようだ。

後方に戻り、儀式を見るおっさんである。

しかし、今度は、本は光らないようだ。


「もうしわけございません。やはり、難しかったですね」


「いえいえ、また、修行に励んで、ここに来たいと思います。ん?魔法の取得はどこでも大丈夫なのですか?もしかしたら別の聖教会にいくかもしれませんので」


「いえ、男爵領など、あまり小さいところでは、行っておりません。子爵領でも行っていないところがありますが、伯爵領都や王都では、確実かと思われます」


「ありがとうございます」


(ふむふむ、さて、この儀式をどう見るべきかな)


・神官には、スキルを目覚めさせるスキルを持っている

・神官が持っている本は魔法書の上位版で、条件を満たした人にスキルをいくつでも与えられる。なくなりもしない

・神がいて、レベルに達し、祈り、寄付金を差し出した者にスキルを提供している


(おそらく、2番目かな。本が光ってたしな。次点で3番目かもしれないな、実際に神がいるわけだし。1番目もあるかもしれないから、スキルがあるかタブレットで探してみるか)


思考の中に入っていると、メイがこっちを見て何か言いたそうにしていることに気付くのである。


「わ、私、頑張ります!!っつうう」


泣き出したメイである。

どうやら、積もりに積もったものがあったらしい。

メイが魔法を取得したのであった。

そして、必死になだめるおっさんとイリーナであった。

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