第18話 魔神

アヒム達元従者がやってきた2日目である。

今日も開墾と訓練であるのだ。

既におっさんは領地にすべき土地は全て木の伐採が終わっているため、伐採した木を丸太にして、切り株も取り除くのである。


まだレベルの低い、チェプトとメイは今日も小屋待機である。

寄生道を極めさせるおっさんなのだ。


しゃべる鎧の話では、午前中の基礎訓練は、引っこ抜いた切り株、枝葉を切り落とした丸太を運ばせるようにということなのだ。

これも体力向上の訓練とのことである。


なので、午前中は、イリーナ、ソドン、アヒムが丸太を作り、おっさん、イグニル、アリッサが切り株をひたすら引き抜くのだ。

オーガ3体とロキとパメラが丸太と切り株を所定の場所に固めるのだ。

木は樹齢にもよるが、この森の木は30mから50mに達するのだ。

幹も太く、切り株も大きいのである。

ロキとパメラの筋肉痛が大変なことになっているなと思いながら、おっさんは開墾を進めるのだ。


午後は、切り株や丸太を運ぶ召喚獣とロキ、パメラがいなくなるのだが、丸太の作成と切り株の引っこ抜きを優先するのである。


夕方は、おっさんの魔法実験だ。

今日は四次元収納について調べるようだ。


丸太を触るおっさん。

木の中の水分のみを四次元収納に入れようとする。

しかし、できないようである。


(できないか。これはリンゴジュースの中の水分だけ収納したいということはできず、リンゴジュースなら、そのまましか収納できないと。木の中の一部分の身の成分を収納はできないと)


さらに実験を繰り返すのだ。


・木など2m以上の大きさの一部分のみを収納することはできない

・水や土など容易に分かれる物については一部分のみでも収納できる

・毛布と水を収納しても毛布は濡れない。四次元収納の中では、それぞれ独立している

・時間経過はしない


(だいぶわかってきたな。水を入れれるって分かってから、熱湯を収納しても、冷めなかったしな。肉を収納していても変色しないしな)


夕食ができたとのことだ。

最近、イリーナはスープのみから、焼き料理や炒め物にも挑戦しているのだ。

アリッサの指導の元、少しずつ料理のレパートリーを増やしているイリーナである。


「今日も料理おいしいですね。イリーナ」


毎日褒めるようにしているおっさんである。


「うむ。今日は香草焼きに挑戦したのだ」


イリーナも嬉しそうにしている。


「明日はロキ達の休み日なので、調理器具や食材を買い出しに行きましょう。イリーナも一緒です」


前回、イリーナを置いて王都に行ったので、今回は連れていくことにするおっさんである。


「本当か!?」


「はい。私、イリーナ、セリム、メイですね」


「わ、私もですか?」


「はい。前も言いましたが、メイは魔力があり、魔法の素質があります。聖教会に行って、魔法を覚えていただこうかなと思っています」


(そういえば、聖教会に行くのも久々だな。ウガルダンジョン都市では一度も行ってないしな。メイのレベルは17になったな)


タブレットでメイのステータスを確認するおっさんである。


「街づくりにほとんど協力できなくてすいません」


ロキがよろよろしながら会話に参加する。


「いえいえ、って!ロキ、耐久力が向上していますね!」


「「「え!?」」」


毎日の日課でロキとパメラのスキルが訓練で増えるかタブレットを見て確認をしていたのだ。

本日、ようやくなのか、ものすごく早くなのかロキのスキルが1つ増えたのだ。


耐久力向上Lv1を取得したロキである。


(ふむ、力より先に耐久力が上がったな。これはしゃべる鎧の攻撃が激しすぎたからかな。パメラは遅れて訓練に参加しだしたからか、まだスキルを習得していないな)


とりあえず、パメラ、コルネやセリムのステータスも見てみるが、ロキ以外変わらないようだ。


「しゃべる鎧さんもありがとうございます」


「ガンダレフ様ありがとうございます」


『ぬ、まあ成果が出て何よりでござるよ』


ロキの成果にお礼を言うおっさんとロキである。


「それにしても、剣聖に訓練付けてもらえるなど、ロキも幸運だな」


「え?はい」


イリーナも話に参加する。


「そういえば、なんで帝国の剣聖がダンジョンにいたんだ?」


(ぶっ。皆気にしていたのに、触れなかったのに)


セリムがしゃべる鎧に質問をするのだ。

おっさんは、イリーナからしゃべる鎧について、イリーナの知っている範囲で聞いていたのだ。

しゃべる鎧は自身をガンダレフ=バルゼリンと名乗っていたこと。

その名は100年前のリケメルア帝国の剣聖であるということ。

帝国の英雄であるが、とある事件で王国を救ったということもあり、王国でもかなり人気のある剣聖であるとのことだ。


(力が人によって数十倍、数百倍違う世界だからな。他国であっても、敵国であっても、力あるものに対して一種の畏敬の念があるかもしれないな)


イリーナからの話を思い出すおっさんである。


皆かなり気になっていたが、聞かずにいたのだ。

ウガルダンジョンの52階でしゃべる鎧は言っていたのだ。


『この宝物庫を守って100年』


100年もダンジョンにいた経緯など言いたくないであろうと。


皆の視線がセリムに集中する。

セリムを見ているわけではなく、セリムの中のしゃべる鎧を見ているのだ。


「いえ、セリム。人にはあまり話したくない話もあるでしょう。無理に聞いたら駄目ですよ」


おっさんが嗜める。


「うん、そっか。そうだったな。ごめん」


『…む。まあ、隠しておく話ではないでござるからな。楽しい話でもないが、聞きたいなら言うでござるよ』


「本当か?」


夜空の中で川の流れが聞こえてくる。

木を大量に切ったためか、あたり一帯に木材の香りがする。

焚火の木はまだ水分を多く含んでいるためか、パチパチと音がするのだ。

12人で焚火に集まっている中、しゃべる鎧が話し出すのだ。


帝国に魔神が出現したという話だった。

帝都に時間をかけて潜入し、ゆっくり帝都内を侵食していったという話だ。


「ある時、時の帝王が帝国全土から兵を集めてな。拙者もその時、帝都にいたのだ。王国を攻め滅ぼすという発令が行われたのだ」


帝国はかれこれ1000年ほど、王国を攻めている。

しかし、帝国には常に戦争状態の獣王国もあるのだ。


帝国は大きいため、複数の国と接しているのである。

この大陸には、王国、獣王国、聖教国、帝国だけではないのだ。

王国の西は帝国であるが、帝国の西にも国があるのだ。


そして、複数の国と常に戦争状態なのだ。

王国にそれだけ挙兵すると、王国以外の国がその隙に攻めてくるかもしれない。

一度に大軍で挙兵することもある。

しかし、そういったバランスを無視した挙兵であったとの話だ。


『あまりに無謀な作戦であったからな。異議を唱えたでござるよ』


「え?誰に?」


『もちろん、時の帝王でござるよ』


(え?直接帝王に意見言える立場だったの?)


しゃべる鎧は帝国の将軍の1人であった。

そして、20万の行軍にも参加していたのだ。

意見を言いに、玉座の間に入った時見たものは、生気のない帝王とそして大臣達であったのだ。

聞く耳は玉座の間のだれもいなかったという話だ。

聞く耳もない帝王であるが、命令は命令である。

帝都にいる間に何度も、意見を言おうとしたが誰も取り合ってもらえない。

そして、流されるように、王国に挙兵したという話だ。


『王国を目指して2か月ほど、移動した大森林に入る寸前のところで発見したでござるよ。その時、軍の大将軍に化けていたでござるよ』


「魔神ですか?」


『そうでござる。明らかに人ではない何かでござったよ』


軍を統べる大将軍として軍の中に紛れ込んでいた魔神。

挙兵を楽しむようにそいつはいたのだ。

死闘の末、しゃべる鎧は魔神を倒した。


(魔神に操られていたのは時の帝王だったのか)


魔神を倒し、20万の軍の進軍を止めた。

帝都に戻り、帝国の英雄として称えられた。

戻ってきたら帝王は自我を取り戻していたとのことだ。


『しかし、魔神はその1体ではなかったでござるよ』


帝国は魔神が巣くっていた。

その後、しゃべる鎧の前に魔神が現れるようになった。

1体、また1体と魔神を倒すしゃべる鎧であった。

その様から、魔神狩りと呼ばれるようなったという話だ。

王国に魔神狩りの話が行ったのはこの頃であるとのことだ。


(王国的には、魔神狩りの情報の方が先で、20万人挙兵を止めたのが後だったのね)


『そんな日々が終わりを迎えたでござるよ』


現れたのは、自らを上位魔神と名乗る魔神であった。


『手も足も出なかったでござるよ』


赤子をひねるかのように痛めつけられ、生きたままモンスターに変えられたという話だ。

そして、


『お前に仕事を与えようと笑って言われたでござるよ』


中性的で怪しい声の持ち主だったという。

何かの道楽か、暇つぶしのように、ダンジョンの一室に飛ばされ、意識をゆっくりと失っていったという話だった。

抵抗も出来ず、朧げな意識の中、100年の刻が過ぎたという話だ。


『ダンジョンコアを解放したら、もしくはと思ったが、拙者はまだ、この世に未練があるらしいでござるよ。奴をこの手にかけるまで、拙者は消えるわけにはいかないでござるよ』


「そんなに強いのか?」


『もしも目の前に現れたら、運がなかったと思うでござるよ』


「でも、俺たちにはケイタもいるしな」


『ふむ』


「ふむってなんだよ?」


『まあ、ケイタ殿に力があると拙者も思うでござる。これだけの魔力だ。拙者も敗れたでござるしな。しかし、恐らくであるが、上位魔神でなくて、普通の魔神であっても、倒すのは難しいと拙者は思うでござるぞ』


「な!?そんなわけないだろ!ケイタだぞ!」


(そうだ、おれだぞ?)


ちなみにおっさんは、異世界ものをたくさん読んでいるので自分が最強など思っていないのだ。

世の中には上には上がいるのだ。

絶対はないのだ。


『拙者は生きていたころの半分かそこらしか力が出ないのだ。その我に苦戦するなら、それくらいということでござるよ』


「「「な!?」」」


(なるほど、全盛期で魔神レベルのしゃべる鎧さん。その半分の力しかないしゃべる鎧に苦戦する俺ってことか。そして全盛期のしゃべる鎧さんを赤子のように扱う上位魔神か)


おっさんの中でのイメージ

・上位魔神は昔のしゃべる鎧よりはるかに強い

・昔のしゃべる鎧は魔神より強い

・今のしゃべる鎧は昔のしゃべる鎧の半分程度

・おっさんは今のしゃべる鎧よりやや強い


「それは、なるべく魔神とは会わないようにしないといけませんね」


『うむ、長生きしたいなら、会わないように祈るしかないでござるな。拙者のように死ぬよりひどい目にあいたくなければな』


「しゃべる鎧さん、ちなみにセリムの魔力を吸収したときで全盛期と比べて、どの程度なんですか?」


『ふむ、あれで7~8割でござるな。それにしても、しゃべる鎧か』


(お?とうとう反応したな。これは名前の呼び方を変えるチャンスか)


名前の呼び方を変えるタイミングを完全に失っていたおっさんである。


「やっぱりその名前で呼ぶのはまずかったですか?」


「うん?その名前で呼ばれるの嫌なのか?」


セリムもおっさんに合わせて尋ねる。


『いや、生前に固執するのは上位魔神パルトロンのみよ。まあ、名前は好きに呼べと言いたいところだが、主殿よ。せっかくの機会だ』


「うん?」


『拙者に新しい名前を付けてほしいでござるよ。契約者でござるからな』


どうやらしゃべる鎧も名前の替え時を探していたようだ。

セリムに新たな名前を付けてほしいというしゃべる鎧である。


「え?名前か?そんな、じゃあ、えっと、ガ、フ、バ、ンだから、カフヴァンでどうだ?」


ガンダレフ=バルゼリンの名前と家名の最初と終わりの1文字ずつを使って1つの名前にしたセリムである。

過去のすべてを捨てさせるには、セリムなりにためらいがあったのかもしれない。


『カフヴァンか。そうか、拙者は今後カフヴァンと名乗るとしよう』


(カフヴァンか。いい名前かもしれないな。どこかの神話に、似た名前の伝説の防具があったな。今度から鎧の騎士カフヴァンだな。それにしても思い残すことか。ロキ達を鍛えてくれるのも何か思うことがあるのかな)


今後、おっさんらはしゃべる鎧のことをカフヴァンと呼ぶようになった。

その後、毎度のごとく、さん付けは不要というやり取りがあり、おっさんもカフヴァンと呼ぶようになったのであった。

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