第57話 死亡フラグ
ここは1k8畳のおっさんの住む賃貸マンションの1室である。
13日に及びダンジョン攻略の日程が終わり、現実世界に戻ってブログを起こしているのだ。
異世界に行くのは土曜日である。
1週間かけてブログを投稿したので、今日はいつもの土曜日だ。
ダンジョン都市編
第105記事目 税と貴族
第106記事目 劇場に行ってみた ~イケメンはどなた?~
第107記事目 ダンジョンの記録 ~81層から89層編~
第108記事目 ダンジョン90階ボス編と攻撃魔法Lv5
第109記事目 召喚獣 ~自我と進化~
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「とうとう94階までたどり着いたな。ダンジョンに来てもう9カ月。国王との約束から10カ月といったところかな」
おっさんがタブレットのメモ帳を見ながら日数の確認をしている。
「武器はダンジョン産のオリハルコン製がほぼそろい、セリムは召喚術のスキルレベル4か。ずいぶん形になってきたな」
クランメンバーの装備やスキルレベル、召喚獣から戦術を考えるおっさんである。
「あとはダンジョンコアが何階まであるかといったところだな。ゲームだと99階か100階が定番だよな」
過去にゲームで攻略したダンジョンの階層を考えるおっさんである。
「さてと、異世界にいくか」
検索神サイトから異世界に行くためと扉をクリックする。
『ブログ記事の投稿が確認できません。異世界にはいけません』
「っておい!」
勢い余ってツッコミを入れてしまうおっさんである。
「ふむ、久々にブログを投稿漏らしたかというか。心当たりはあるな。検索神はこれもブログにしろということか。気が進まないな」
一度現実世界に戻ると、ブログネタは全て投稿しないと異世界に行けないのである。
よって、ブログネタを今回漏らしたと検索神は判定したのだ。
おっさんはブログを興すネタには、ある程度の線引きをしているのだ。
絶対ではないが、あまりブログネタにしていないものもあるのだ。
例えば、検索神についてだ。
仲間機能など、タブレットの各種機能については、ブログネタにしてこなかった。
そして、奴隷などの、現実世界において非合法な内容についても、極力避けてきたのだ。
もちろん、話としてあまり盛り上がりに欠けるものについても、ブログネタにしてこなかったのである。
おっさんは思い当たる節があるので、もう1つブログを興すのであった。
そして、翌日の日曜日
「ふう、もう1つブログを興したぞっと」
第110記事目 ウガルの悲劇
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「さてと、もう一度異世界に行けるか確認するかな」
『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』
どうやら異世界に行ける条件は整ったらしい。
「ふむ、やはり検索神は、ウガルの悲劇もダンジョン攻略の情報の1つとしてブログに投稿しろってことか」
おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景がウガルダンジョン都市でおっさんが借りた賃貸の1軒屋に変わる。
14人で朝食を取るのである。
まだ薄味のイリーナのスープを飲みながら、今日の予定を話すのである。
「休暇は4日間とします。装備の修理と新調は各自済ませておいてください。今日はこれから魔道具屋にいって、コルネの魔導弓の魔石の予備を作ってもらいます。そのあとは、魔石の競り、講習会日程の確認ですね」
「「「はい」」」
一度のダンジョンの攻略でAランクの100個の魔石を回収しているが、今回はコルネの魔道具用に10個多く魔石を回収したのだ。
コルネの弓の用事であるが、従者と侍女は休みにして魔道具屋に向かう一行である。
「すいませ~ん」
「はい、いらっしゃい。ああヤマダ男爵様」
奥から魔道具屋の店主が出てくる。
おっさんは店とのやり取りをやりたい人という認識が共通認識のため、静観する一行である。
おっさんはこの魔道具屋にも何度も足を運んでいるのだ。
魔道具屋は、休みの日に、やってくる暇つぶしスポットの1つでもある。
「すいません。魔道具の弓の魔石の補充と、ダンジョンで手に入った魔道具の売却にきました」
おっさんは、入口までやってきた店主を奥のカンターに戻し、弓や魔道具を置き始める
「こ、これは…」
震える手を必死に抑え、魔道具を触るおっさんである。
「ダンジョンで手に入りました。宝箱から出たのですが、魔道具なので、この店に持ってきました」
「は、はあ」
魔道具屋の店主の話では、どれもかなり珍しいものであるとのことだ。
91階層以降で手に入った魔道具であると説明したら納得したのであった。
店主でも分からないものも多く、魔道具ギルドの研究施設に持っていきたいとのことである。
また、魔導弓についてである。
「これも素晴らしいですね。魔道具による弓は、いくつかダンジョンで発見されていますが、これはAランクの魔石に耐えられるように作られていますね」
魔道具屋の店主の話では、Aランク魔石を加工して、魔導弓にはめる予備の魔石にすることは可能であるとのこと。
10個加工にするのに10日は掛かるという話である。
寸法を測るのに1日ほど預かればいいとのことだ。
次回の攻略には間に合うとのことである。
(予備の魔石は、次のダンジョン攻略時に貰いに行くか)
加工の代金と魔道具の売値はいくらになるかも、魔道具ギルドと相談して決めるという話なので、これ以上のことは分らないため、店を後にするのであった。
冒険者ギルドにいって、魔石の競りの代金を回収するおっさんである。
魔石100個で白金貨2100枚になったのだ。
新たに100個の魔石を競りに出すのである。
講習会は遠方の冒険者ギルドの支部長が間もなくやってくるので、もう少し待ってほしいとのことであった。
夕方過ぎに拠点に戻るおっさんら一行である。
拠点に入るとチェプトからおっさん宛てに手紙が届いているという話だ。
私室に置いておきましたという話なので、一行を解散させ、自由行動にする。
イリーナは夕食の準備のために調理場に向かうのであった。
私室に入るおっさん。
机の上には、綺麗な封筒に、朱色の蝋で封をしている。
王家からの手紙のようだ。
(ふむふむ。王家からの手紙か。チェプトは誰からの手紙と言わなかったな。俺のプライベートを、気を使ってくれたのかな)
チェプトの成長を喜ぶおっさんである。
手紙の封を開け、中身の手紙を読むおっさんであった。
(む。これは、とうとう来たか。皆に相談しないとな)
手紙を読んでほどなくして夕食の準備が整ったようだ
アヒムが歓楽街に繰り出しており、イグニルとヘマも出かけているため、11人で食事を取るのであった。
皆でわいわい食べることを推奨するおっさんである。
静かに上品に食べる必要はないのだ。
「すいません。結婚式の予定が王家からありました。約2カ月前にお知らせが届くんですね」
「まあ、そうだな。英雄であるケイタの結婚式だからな。他国についてはもっと早く招待状を送ってるのではないのか」
王家は帝国、聖教国、獣王国にも結婚式の招待状を送っているのだ。
王都にもそれぞれの国の外交をつかさどる、外交施設があるため、その施設の代表等が、出席の可否を自国に伺いを立てて決定するのである。
「王家が主催するんですね」
「む、知らなかったのか」
「はい、アロルド子爵がしてくれるものと思っていました」
(いや知らんかったし。王都でやるけど、アロルド子爵が主催するものかと思ってた件について。これはあれか、ダンジョンの攻略が進んだので、結婚式の主催が、王国的に子爵から王家に変わったということか)
あまり結婚式のことについて、イリーナにも深く聞いてこなかったのだ。
フェステル子爵から1年後に王都で結婚式をするという情報しか聞いていないおっさんであるのだ。
「とうとう結婚式のお知らせが届いたのですね」
ロキも自分のことのようにうれしそうである。
「はい、私はちょっと世間に疎くて結婚式どんな感じなのでしょうか?」
(特に異世界の結婚式は知らないぞ)
「ん?そうなのか?まあケイタは知らなそうだな」
おっさんと知り合って1年近くになるイリーナである。
貴族の情報だけでなく、普段の生活や風習についても疎いのだ。
「私の知っている結婚式と違って、もし、何かイリーナに渡さないといけないこととか、やらないといけないことがあるなら教えていただかないと、何もしないかもしれません」
「そうなのか?というか、ケイタの知ってる結婚式ってなんだ?」
そういえば、おっさんには新婚旅行のように独特な故郷の風習があったなと思いだすイリーナである。
「えっと、結婚式の指輪を2つ買います」
「指輪?」
(お、どうやら、指輪いらないのか)
「はい、指輪を結婚式の時、お互いに左手薬指にはめるという儀式を行います」
「そうなのか」
「式場は教会ですね。ここでは聖教会ですか」
「なるほど、まあ地方で建物がないところでは、領主の館や聖教会の建物を借りることもあるぞ」
イリーナは思うのである。
おっさんは、結構田舎者なんだなと。
あまり王国の風習が入ってこないほどの田舎に生まれて、その田舎独特の風習の中で生きてきたのかなであろうと。
(結婚か。できれば、両親を連れてきたかったな。こういう異世界ものだと、天涯孤独の孤児が異世界に行ったり、転移や転生で今生の別れになるのが普通なんだけど、普通に生きているしな。俺の住んでる賃貸マンションから車で1時間の距離に実家がある件について)
「どうされたのですか。暗い顔をされて」
心配になりおっさんに問いかけるのだ。
「いえ、両親も式に呼びたかったな」
「そ、それは申し訳ありませんでした」
皆、おっさんは天涯孤独の身と思っているのだ。
これはおっさん以外の共通認識である。
「なに、ケイタの両親も天国で見守っているぞ」
イリーナがフォローをするのである。
「え?いえ、普通に生きてますけど」
(60過ぎて、セカンドライフを楽しんでるけど)
「「「え」」」
「あ?すいません。言っていなかったですね。両親は共に生きています。60過ぎてますが元気にしています。ただ、王都にはこれないのですが」
おっさんは思い出すのだ。
きっと色々言ってないこともあるだと。
「そうなのか、いつかケイタの御両親にも挨拶したいのだが」
「ちょっと難しいですが、いつかそんなことが出来たらいいですね」
(検索神にお願いするかな。それにしても皆には伝えていないことも結構あるな。1年近く共にしてきたのにな)
「そうだな。ちなみに他に結婚式でケイタの故郷ですることってあるのか?」
おっさんの顔が暗くなったので、話を変えようとするイリーナである。
「ああ、そうですね。あとは指輪の交換をしたあと、2人で口づけをするんでしたっけ」
(キスか。思うと結構恥ずかしいな)
「「「な!」」」
「え?やはりそういう風習はなかったようですね」
(なかったか。良かった恥ずかしいものな)
「そんなことないぞ。王国でも結婚式では、皆の前で口づけをするのだ」
王都でもある風習と答えるイリーナである。
「え?そんなこと…」
というセリム。
「セリムはまだ知らないのだな!そうだな?」
席的にイリーナがセリムを見ると、おっさんはイリーナの顔を見ることがでないのである。
きっと見なかった方が良かったと思う般若の顔でセリムを見るイリーナである。
「ひぃ…。そ、そういえば、あるのに忘れてしまってたよ。ははは」
(なんだ、やっぱり結婚式ではキスしないといけないのか)
とんだ茶番を見せられているなと思うパメラが軽くため息をつくのであった。
「どうしたパメラ。安心しろ。招待状はちゃんとパメラの分も用意するぞ?」
「そうなのか。何で参加するのだ?花嫁としてか?」
「なんだと?参列者側に決まっているだろ!」
ソドン何とかしろという顔で見るおっさんである。
ソドンはそんなの無理ですといった顔をして首を横に振るのであった。
「結局イグニル達は帰ってこなかったな」
「そうですね。せっかくの休みなので自由にさせましょう」
イリーナにベッドの中で見つめられるおっさんである。
「そういえば、私にはダンジョン攻略の褒美は無いのか?」
「え?」
(婚約者に褒美って。いや婚約者だからこそか。どうしよう)
「やはり、何も考えていなかったのか?」
「すいません」
「ふふ。では、王国の風習を1つ、夫婦の間に取り入れてほしい」
「風習?」
「結婚後は、夫婦は毎晩、お休みの口づけをするものなのだ」
「え?」
「駄目なのか?」
「そうですね。では王国の風習はしっかり取り入れないといけませんね」
何となく嘘っぽいけど、それでもいいと思うおっさんである。
「うむ。ダンジョンの攻略したら私達は結婚するのだな」
「そうですね」
それは、死亡フラグだから言わないでほしいと思うおっさんであった。
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