第58話 決戦前夜

「では、いきましょう」


「「「はい」」」


ワープゲートを抜け、90階層に入るおっさんら一行である。

まずは90階層ボスを皆で倒すのである。


「本日より、より実戦形式を取ります。まずは土壁の隙間は3か所。中央にソドン、アヒム、イグニル。左にロキ、パメラ、右にイリーナ、アリッサ。コルネは私と共に土壁上部から敵を殲滅、セリムは、攻撃型召喚です。飛竜と魔術師をだしてください。ブレスと攻撃魔法を上部からお願いします」


「「「はい!」」」


装備がそろい、スキルも上がり、Aランク召喚獣の召喚が可能になったので、戦闘の型作りに入ったおっさんである。


土壁を形成した瞬間32体のAランクモンスターが向かってくるのである。

中央では、ソドンが2枚の盾で敵の押し返し、両脇からアヒムとイグニルが敵をしとめるのだ。

アヒムとイグニルは槍術が3であるが、レベルとオリハルコンの槍により2人で1体の敵を圧倒する。

左のパメラを先頭に敵を粉砕するのだ。

おっさんら一行で最高のSTRとDEXの乗った攻撃は、敵を言葉のとおり粉砕するのだ。

パメラのオリハルコンの拳はアダマンタイトのゴーレムも粉砕するのである。

敵が必要以上にパメラに近づかないように、後方より槍で敵を倒すロキである。

右のイリーナは先頭に剣による近距離で倒し、アリッサは槍で牽制役である。

上部では、飛竜が土壁下の近距離の敵をブレスで焼き払い、魔術師が遠距離の敵を倒すのだ。

おっさんと司令塔の役割をこなす。

コルネは後方の敵の動きを遠くにいるうちから早く察知するのだ。

おっさんとコルネは後方にいる魔術師を優先して攻撃するのであった。


「32体もいたのにあっという間でしたな」


30分もかからず殲滅するおっさんら一行である。


(以前は16体を1時間かけていたのに、今は1体1分以下か。これなら100階層にこのまま目指したほうがいいか)


80階層ボスの16体の時は殲滅に1時間かかっていたのだ。


「魔石を回収したら、91階層に行きます。スキルも上がったので、今回は100階層まで一気に行きたいと思います」


「「「はい!」」」


今まで10階層単位の攻略に3回に分けて攻略をしてきたが、装備もスキルも上がったので2回で攻略できると判断したおっさんである。

10人の構成を変更しながら、戦術を練るおっさんら一行であった。


そして15日が過ぎたのだ。


「次は99階層ですね」


現在98階層である。

出口を見つけたので、下の階層に入るのだ。

スロープの先は扉がある。


「あれ?扉があります。次は99階層なのにボスがいるのでしょうか」


普段の10階層ごとに扉があり、ボスがいるのだ。

おっさんらは100階層にボスがいると予想していたが、99階層にボスの間の扉があることに気付くのだ。


「本当ですね。では、扉を抜けるとボスですので気を付けてください」


(え?1階層前にボスの間があるのか?)


「「「はい!」」」


ボスの間に入るいつもの扉がある。


「変ですね。扉の上部に宝石がありませんね」


皆が思っていることをロキが代表して言葉に出すのである。

ボスの間の扉には宝石が埋め込められていて、宝石が青色なら入ることができる。

赤色なら中で、戦闘中で入れないのである。

その宝石がないのだ。

おっさんより前に出て、ロキが扉を開けるようだ。

扉を開けると、ボスはいなかったのだ。

そこにはワープゲートがあったのだ。

いつもの階層前の休憩をする広間ほどの広さである。

今開けた扉と反対側には出口のようなものが見える。

扉と同じ大きさの出口で、いつもの次の階層に繋がっているようだ。


「あれ、終りでしょうか?」


「……多分違います。恐らくこの先にダンジョンコアの番人がいるのでしょう」


(ボスはいない。あるのはワープゲートと100階層に繋がる出口。いやな予感しかしないな)


「なるほど」


「念のため、この先に何があるか確認して、今日はワープゲートで帰りましょう。アヒム、台車はワープゲートのところに置いておいてください」


「「「はい」」」


ワープゲートを避け、扉と反対側の出口を通っていく。

出口を抜けるといつものようスロープになっている。

100階層に繋がっているようだ。

ソドンを先頭にゆっくり歩いていく。

そこにあったのは、何もない広間であった。

やや薄暗いが、遠くまで見える。


「何もありませぬな」


「はい」


「敵がいます」


皆がコルネの指さした方向を見る。


「本当です。米粒のようなものが地面から浮いているように見えますね。これはまるでしゃべる鎧のようですね」


「コルネ、他に敵はいますか?」


コルネが全力で他の敵がいるか探すようだ。

コルネの話では、敵は10kmほど先の1体のみ。

大きさは3mほどで、同じく3mほど浮いているとのことだ。

武器は剣のようなものを背中に肩からぶら下げている。

大きさから両手剣のようであるとのことだ。

騎士のような格好をしているとのことだ。

また、浮いている騎士はこの階層の中心にいるらしく、20km先に壁があるとのことだ。

そして、この広間には次につながる場所は何もなく壁になっているとのことである。


(む、ずいぶん詳細に見えるんだな。って、鷹の目がスキルレベル4になってる。ここにきて本当に助かるな。それにしても、ラスボスは巨大なゴーレムと思っていたのだけどな。Sランクの騎士型のラスボスか)


コルネは視界の悪い81階層の吹雪地帯も、91階層以降の通路と小部屋の階層もずっと索敵を続けており、鷹の目のスキルレベルを4まで上げたのであった。


「コルネ助かります。一度ワープゲートで帰りましょう。恐らく最後の決戦です。しっかり休んで最終決戦に臨みましょう」


「「「はい」」」


コルネは嬉しそうに返事するのである。


ワープゲートをダンジョン広場に出る。

16日ぶりに見たダンジョン広場は、何か様子が違うようだ。

どうやら慰霊祭の準備真っただ中のようだ。

壇上のようなものがダンジョン入り口の少し手前に建設されてある。

貴族が入るのか、来賓者が入るのか、プレハブ小屋のようなものもいくつかダンジョン入り口横に作られている。

祈りをささげる用の板がダンジョンを囲むように引かれているようだ。


粗方終わった建築物を見ながらおっさんら一行は拠点に戻るのであった。

14人全員で食事を取る中おっさんは皆に話し掛けるのである。


「まもなく慰霊祭のようですね」


「はい、5日後から慰霊祭です」


ヘマが慰霊祭の日程を教えてくれるのだ。


「5日後から3日間の慰霊祭ですか。では慰霊祭を邪魔するわけにはいきませんので、4日後に出発しましょうか」


「「「はい」」」


全員が返事するのだ。

それを見て、おっさんら一行に語り掛けるのだ。


「ダンジョンの番人は1体のみのようですね。しかもそこまで大きくないようです」


「うむ」


イリーナが返事をする。

何を話し出すのだろうと、食事の手を止めて、おっさんを見るのだ。


「99階層までとうとうやってきました。これは万人に誇れる素晴らしい成果です。それもたった10人で成しえたのです。これは一生に渡って、いえ、孫の代まで語れる話だと思います」


「たしかにそうだな」


「しかし、これからの戦いですが、おそらくSランクのモンスターです。一度Sランクモンスターと戦いましたが、強敵で、誰も誰かを守る余裕はありません。もちろん私もありません。前回は狭い通路におびき寄せて戦いましたが、あれだけの広さです。全員を無事に街に返すのが私の役目であるなら、次の戦いはそれが難しいのです」


はっきりと全員を守れる保証も余裕もないと言い切るおっさんである。


「それは皆分かっていることではないでしょうか」


ロキがたまらず返事をする。


「いえ、相手は一体なのです。何も全員で戦う必要はありません。もし家族がいる。愛する人がいるならこれだけの成果です。次の戦いを辞退していただいてもかまわないのです。ロキ、あなたにはクルーガー男爵領に2人の子供と妻がいますね。騎士の本懐はダンジョンで死ぬことですか?」


「はい。騎士の本懐は、主を守り抜くことです。ですので、ここで戦いを降りるつもりもありません」


即答をするロキである。


「ケイタは相変わらずだな」


イリーナが口を挟む。


「え」


「堂々と皆ついてこいと言えばよいのだ。検索神様は仲間を集めてダンジョン攻略をせよといっているのであろう。我らが集まったことには意味があるのではないのか?」


「そうだよ」


セリムもうなずく。

セリム母は、子供の成長を喜んでいるようだ。

全員誰も抜けないという顔でおっさんを見るのである。


「分かりました。4日後の朝出発なので、今回はすいませんが、休みは3日です。防具の修理は明日中にお願いします。明日は冒険者ギルドと魔道具屋にいきます」


「「「はい」」」


翌日従者と侍女は自由行動にさせて、魔道具屋に行く。

魔導弓にはめ込む予備の満タンに充填された魔石を10個回収する。

魔道具屋が気を使ってくれて、弓を引いても邪魔にならない専用の身に着ける袋を作ってくれたのだ。

合わせてさらにAランクの魔石10個の加工を依頼するのだ。

次の決戦では使わないが、今後のためである。

なお、魔石20個の加工依頼を差し引いても前回持ってきた魔道具が白金貨200枚になったのだ。


そして冒険者ギルドに向かうおっさんら一行である。

魔石100個の白金貨2000枚も貰う。


(とうとう、白金貨2000枚になったな。1年前の8割引きか。ガソリン代が日本全国で1ℓ当たり100円が20円になるようなものだな。もしくは電気代が月1万円から2千円になるようなものか)


おっさんは魔石を石油や電気代に置き換えて考えるのだ。

そして新たに魔石100個を渡すのであった。


講習会は明日でも大丈夫と言われたので81階層から99階層の講習会を翌日行ったのだ。

過去にないほどの人数が講習会に参加したのであった。

特に魔道具が91階層以降手に入る話や、ゴーレムがアダマンタイトやミスリルでできている話はかなりの関心を集めたのだ。

王家に報告すべきダンジョン管理部の副大臣からの執拗な質問攻めに遭ったおっさんであった。

そして、91階層から手に入る魔道具の話を聞きたい魔道具ギルドの副支部長が職員引き連れて乗り込んできたのである。

魔道具の話を聞きたい魔道具ギルドとダンジョンの攻略の話を聞きたい冒険者ギルド側がバチバチと火花が散り、講習会は長丁場で夜中まで続いたのである。


そして、2日後にダンジョンコアの番人と戦うこと、今後魔石の競りはできない可能性が高いことを伝えたのであった。


前日の夜、ベッドでとるべきスキルを必死に考えていると、いつものごとくイリーナに抱き着かれるおっさんである。

不安だったのか、初めて抱きしめ返してしまったようだ。

イリーナもびっくりしたようだが、笑顔でお休みと言われたのであった。

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