第45話 ダンジョンコアと王家と貴族
今日は63階層の続きを攻略する日の朝である。
新しく拠点の住人になったパン屋の娘ヘマのパンも食べながら、14人で朝食を囲むのである。
ヘマもずいぶん拠点の生活に慣れたようだ。
「私達もずいぶん人気が出たようですよ」
アヒムが嬉しそうに報告する。
「そうなんですね」
話に相槌を入れるおっさんである。
「はい、お店でもアフェリエイターの話で持ち切りですよ。私もお店で色々聞かれてしまいます」
(ほう、アヒムはイケメンだからな。どんな店にいっているか知らんが、あまりモテると暇を与えねばいかぬかな)
おっさんは配下にも嫉妬深かったようだ。
ダンジョンから戻った休暇の日は繁華街に繰り出すアヒムが嬉しそうに語る。
前回の61階層への攻略の前に冒険者ギルドより公表された階層の更新である。
ダンジョン都市のため、ダンジョンに関わる話は広がりが早いのだ。
「店ではどんな話をしているのですか?」
おっさんは嫉妬深かったが、配下の話を広げてあげるようだ。
「今何階を行っているのかとか、次は何階なのかってよく聞かれますね。あとは、いつダンジョンコアを持って帰るのかって話が多いですよ」
「なるほど、60階層も超えたから、そろそろかという話でしょうね。ダンジョンコアって結局なんでこんなに皆持って帰ろうとするんでしょうね」
「え?なんで踏破目指しているのにそんなことも知らねえんだよ!」
セリムからツッコミが入る。
以前冒険者ギルドの資料室で、おっさんはダンジョンコアについて調べたのだ。
しかし、ダンジョンコアが最下層で手に入ることと、魔道具であることくらいしか分からなかったのである。
(ん?そうか、ここには元ウガル家のお二人がいるのか。ダンジョンコアに詳しいのかな)
「そもそもダンジョンコアが何なのか知らないんですよね。ダンジョンコアって持って帰ると何かいいことあるんですか?」
「あるよ。ダンジョンでモンスターの氾濫が起きなくなるんだ」
「え?どうしてですか?」
「だからモンスターの氾濫が起こらなくなるんだよ」
セリムもこれ以上分からないようだ。
「それは、ダンジョンコアを管理できるとモンスターの数などを調整できるからです」
現当主ウガル伯爵の娘であるセリム母が話を補足してくれる。
ダンジョンコアを使うと、モンスターの数が調整できる。
そのため、ダンジョンのモンスターの氾濫も起きなくなる。
そして、それ以上の恵みをダンジョン都市にもたらすのだ。
モンスターの数が調整できるということは、冒険者に人気がある階層で、モンスターの数が冒険者に比べて少ないと判断すれば、その階層のモンスターを増やせばよいのだ。
また、下層でモンスターが多すぎて、攻略や素材の回収が難しかったりすると、負担を感じない程度までモンスターの数を減らせばよいのである。
ダンジョンコアを回収できたダンジョンは、氾濫に対する対策費用を削減でき、収益を上げることができるという話だ。
「ん?じゃあ、なんでそこへ王家が関わってくるのですか?」
「それは、ダンジョン都市が儲かるということが、貴族が力を持つということにつながるからです」
(なるほど、ダンジョンの氾濫の危険はなくなったが、今度は富が増えたダンジョン都市を管理する貴族の力が増え反乱の恐れがあると。王家は手に入ったダンジョンコアは必ず王家に捧げさせて、その代わり貴族に儲けさせるのか。王家はダンジョンをいつでも氾濫させることができれば、貴族は反乱しようとしないってことか。でも儲けさせた分、徴税額も高くしそうだな)
王家とダンジョン都市の関係がなんとなく分かったおっさん一行である。
前回同様、今回も魔石の競りは見送る旨、チェプトに伝えているのだ。
61階層から69階層は魔石の回収が難しいためである。
なお、現在Aランクの魔石83個。
前回の宝箱の武器防具宝石は売却して白金貨200枚ほどになった。
宝箱の中にある武器防具宝石は白金貨20枚前後のものが入っていることが多いと感じるおっさんである。
チェプト管理のお金は白金貨2700枚ほどになったのだ。
ダンジョン広場で注目を浴びつつ、ダンジョンを目指す一行。
前回同様60階層ボスを倒して、63階層の続き目指すのである。
61階層の水の上に作った土壁を、タブレットの『地図』機能で見るおっさん。
(やはり、地図は入口と出口、上陸できた点のような陸地しか表示されてないな。この辺は徹底されているな。俺が作った土魔法は陸ではないから、地図には表示されないと)
『地図』におっさんが作った土魔法の土壁は表示されないのである。
おっさんは、羊皮紙に行った順路などを書き写しながら、行った行程を記録しているのだ。
どういう工程で進んだかは、おっさんの記録した羊皮紙だよりなのである。
(そうそう、地図もそうだが、セリムの召喚術のスキルレベルも上がったんだっけ)
「そういえば、CランクとDランクの召喚獣は同時に出せるんでしたっけ?」
「ん?ちょっとやってみる?無理だ。別のランクは同時に出せないな」
「それは残念でしたね。DとCで何か強さ以外できるようになったことってあるんですか?」
「なんだそれ?」
「ランクが高くなるってことは、それだけできることが増えそうですね。モンスターも強くなることですし」
「ん、どうだろう」
召喚したオークに何か指示を出しているようだ。
「なんだろう。会話はできないけど指示の内容が具体的になった気がする。少しだけど」
(ランクが高い召喚獣が柔軟な指示ができるようになるってことか)
Cランクのモンスターはおっさんの予想どおり4体まで一度に召喚できたのだ。
召喚術の考察や検証もありつつの、一行の攻略が進んでいくのである。
その後攻略を進めていくおっさんら一行である。
予定通り66階層まで達した、あと拠点に計15日かけて戻るのであった。
その後、拠点で3日の休息日を設けダンジョンを攻略するのである。
そして、現在70階層ボス手前である。
「結局、70階層ボスだな。ダンジョンコアはまだのようだな」
「そのようですね。この扉の先にダンジョンコアがあるかもしれませんが。では、入ってみましょう」
そこには8体の15mほどの大きさのモンスターがいた。
数も多いためか今までのボスの広間より若干広いようだ。
大きな骸骨のような剣士が4体。
大きな骸骨のような魔術師が4体。
「70階はどうやら、Aランクモンスター8体のようですね」
「これは結構厳しいのではないのか」
ソドンもあせっているのだ。
余裕を持っているものは、一行には1人もいないのだ。
過去ないほどのAランクモンスターの数である。
(これは階層ボスのAランクが今後、倍に増えていく感じか?80階は16体で、90階で32体か。何階まであるか知らんが)
「ちょっと待ってください。作戦を考えます」
今までは、数体のAランクであったので、おっさんが数を数匹減らして残りを皆で倒す。
それは、66階層からAランクモンスターの数が最大4体になっても変わらないのだ。
ここにきて、しっかりとした作戦が必要になってきたのだ。
「では、私が後方の魔術師を倒します。2体攻撃したら土魔法で土壁を作成します。恐らく回復が間に合わない恐れがあるので、ソドンは守りと回復優先で。剣士も大型で剣も大きく、壁の隙間からかなりの距離の攻撃が可能と思われますので接戦する際は注意を。また敵魔術師の魔法が発動されたら、直撃は避けて壁に隠れてください。Aランクである魔術師の魔法では壁は破壊できないはずです」
攻撃魔法からの土魔法にする理由は、土魔法を発動してから、攻撃魔法を使うと、土魔法の発動も攻撃判定を受け取り8体全てが動き始めるおそれがあるのだ。
仲間がいる状況で実験はできないのである。
「「「は」」」
陣形を組みだすおっさんら一行である。
「では、いきます。インフェルノフレア」
1発目の火魔法Lv4を放ったところで、敵も動き出す。
魔術師を1体倒して残り7体である。
7体の敵は動き始めるのだ。
2発目の火魔法Lv4を放ったところで、土魔法で壁を作成する。
魔術師2体目を倒して残り6体である。
骸骨の剣士はおっさんらの陣にかなり近づいている。
4つの土魔法の壁の隙間から攻撃を加える骸骨の剣士である。
後方では骸骨の魔術師の足元に魔法陣が発生する。
敵の魔法発動に時間がかかると思ったおっさんがさらに火魔法Lv4で魔術師を倒す。
残り5体である。
そこで、後方にいる残り1体の魔術師から魔法が発動される。
「壁に」
骸骨と戦っていた仲間も壁に避難する。
巨大で無数の氷柱が土壁の隙間に流れ込んでくる。
魔法発動が落ち着いたと判断した後、後方の魔術師を倒したおっさんは、前線で戦う仲間と合流し、1体ずつ骸骨剣士の数を減らしていくのであった。
「倒せましたね」
ロキが呟くのだ。
「そうですね。かなり攻撃も受けてしまいましたが、みんな無事なようですね」
(どんどん敵の数が増えていくなら、セリムの召喚獣への期待が大きくなるな。Aランク2体同時に呼ぶことが出来たら戦況変わってくるぞ)
おっさんの範囲回復魔法で皆全快である。
「だが、防具がボロボロであるな」
無傷のオリハルコンの盾と違い、防具はかなり消耗しているようだ。
「そうですね。結構長く使ってますので、戻ったら新調しに行きましょうか」
「そうであるな」
特に敵との接戦が多い、前方職は皆防具の消耗が激しいのだ。
素早いパメラを除いてである。
(そういえば、パメラが攻撃受けているとこ見たことないな)
「では、前回同様71階層を見てから、帰りましょう」
「「「はい」」
素材を回収し、71階層に向かう一行である。
(洞窟(土)、洞窟(石)、森林、墓地、砂漠、王宮、海ときて次は何だろうな)
71階層に入ると、そこには何もなかった。
「何もございませんか」
広い大きな空間が広がっていたのだ。
(これは、空か?次は空中なのか?)
「なんだ、何もないぞ!」
「いえ、あそこに何かあります」
セリムの反応に答えるコルネである。
一行が眺めるとそこには髪の毛ほどの線が遠くに見えるのだ。
「なるほど、こんどはあれを目指して、下の階層を目指すということですね。あの小さな陸地のどれかに下に通じる階層があるということですね。あとは帰ってから対策を練りましょう」
18日間に及んだ70階層達成までのダンジョン攻略が終わったのだ。
広場で注目を浴びつつ、拠点に戻る一行である。
「「「おかえりなさいませ」」
拠点に入ると、拠点組が出迎えてくれる。
「ただいま戻りました。今回はちょっと攻略に日数かかってしまいましたね。何かありましたか?」
「はい、言伝を受けております」
チェプトから返事が返ってくるのだ。
「言伝ですか?」
(伝言なんて珍しいな。指名依頼か何かか?)
「はい、冒険者ギルドの職員が来訪されまして、ヤマダ男爵様が戻りましたら、冒険者ギルドに来てほしいとのことです」
(ん?どうせ70階達成したから、明日向かう予定だったけどな)
「分かりました。明日向かいますね」
冒険者ギルドに呼ばれたおっさんであった。
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