第11話 チフル=スズキ

魔道具の明かりがともる国王の書斎に集められた国王を含む5人が円卓を囲っている。


「チフル=スズキですか?」


「うむ、本人はビヨウブロガーともアフェリエイターとも名乗っていたそうだな。目の前の古い資料にはそう書かれておるわ」


国王は回答をする。

マデロス宰相とロヒティンス近衛騎士団長は黙って聞いているようだ。


「そ、それがケイタと何が関係しているのでしょうか」


「少し300年前に起きたチフルの話をしよう。そのものは女性で20代であったという。見た目は黒目、黒髪であったと伝承には載っている。初めて歴史上に現れたのは、ここだな」


地図で指し示すのはフェステル領のルルネ村の近くである。


「話を続けよう。そこには小さな村があってオークの氾濫があったそうだ。たくさんの犠牲がでたと記載されている。そこで現れたのがチフルだ。突然現れたチフルは数百に上るオークの軍勢をなでるように切って捨てたと言われておる」


「村にやってきたオークを倒して村人を救ったのですね」


ゴブリンから村を救ったケイタに重なる2人である。


「チフルはな。神の加護を持っておってな。『検索神』というものを信仰していたのだよ」


「「け、検索神!」」


有名ではないこの神を2人は知っているのだ。


「情報収集をするのが好きな女性でな。健康に良い食事療法などを広めたともいわれている。そのあとの貴重な情報は戦乱でずいぶん失ってしまったがな。確か世界に香辛料を広めたのはチフルだと言われておるな」


「戦乱ですか?」


と問うイリーナ。


「ふむ、最近の士官学校では300年前の動乱を習わないようだな」


「あ、聖教戦争」


「そうだ、聖教戦争だ。我が国がユーティア聖教国と分裂してしまった戦争だ」


「申し訳ございません」


「良いのだ、話を続けよう。チフルとケイタの違いといえば、魔導に秀でたケイタと違い、チフルは剣聖とも呼ばれた剣使いだったのだよ。ウェミナ大連山が帝国とつながったのも300年前だ。人々を救うため、ウェミナ大連山に住まう古代竜を倒すのにふるった剣は、山をも切ったと資料には書き示されておるわ」


「チフル様はその後どうなったのでしょうか?英雄として祀られたということでしょうか?古代竜を倒して」


「資料にはこう書かれておる。邪神を封印するために自らの命を差し出し世界を救ったと言われておる。我が王国1000年の歴史の中で、5名しかいないSランク冒険者の1人よ。死んだ後に認められたがの…」


「そ、そんな…」


「そういえば、話は変わるがの。ケイタが家名の申請をするという話がでたと聞いているが本当か?」


「は、はい、これから申請を予定しております」


フェステル子爵が答える。


「それはなんという名前だ?」


「ヤマダという名前です」


「ほう、ヤマダか。ケイタ=ヤマダか。チフル=スズキとどこか似ていると思わぬかね?断言しようか?これは本人が決めた家名であろう」


「似ていますね…。そ、そうです…。ケイタが自ら名付けました。ケ、ケイタは神の使徒なのでしょうか?」


「わしはそう思っておる。あまりにもチフルと共通点が多すぎるゆえな」


「そういう話をするために我々をお呼びされたのでしょうか?」


「ふむ、ではこれからの話をしよう。チフルは邪神を封印した。世界を救い英霊となったチフルの聖遺物の扱いで聖教会と王国は揉めてな。結局戦争となり、国を2分する結果となったのだよ。チフルの聖遺物は今、聖教国の神殿に祭られているよ。そして、今も聖教国は聖人であるケイタを差し出せと言ってきておる」


「そんな!差し出すのですか?」


「まさか、王宮魔術師として王家で匿おうとも思ったがな。謁見も1日も早くすべての予定を繰り上げて行ったのだ。王国の未来に関わることだからな。なんとか懐柔を試みたのだがな。脅しも通じるかも試してみたがどれも難しいようだな。そして、本人はダンジョンに行きたいそうだな…。あの時は理解ができずに年甲斐もない態度をとってしまったな」


「はあ…」


謁見で爆笑した国王を思い出すフェステル子爵である。


「ケイタは本人の意思か、神の意思で行動をしているとしようか。それはあまり止めない方が良い。聖教国に行くと本人が判断したとしても、それは神の意思であると余は思っておる…」


「あくまで本人の意思にゆだねると?」


「もちろんそうだ。ただな」


国王はにやりと不敵な笑いを浮かべる


「ただなんでしょう?」


「本人が心からこの王国に居たいと思ってくれたら、これほど素晴らしいことだと思わんか?例えば綺麗な妻とかわいい子供がいたら、そうそうほかの国に行きたいと思わないのではないかと余は思うのだがどうであろうか?クルーガー君」


「な!それで私を?」


「もちろん、君が決めてくれてよい。余が一言いえば妻など他に100人でも集められるからな。そして、もしかすると、ウガルダンジョンも1年以内に10人以内の仲間をもって攻略をするかもしれぬ。その時、英雄の側に居たいかどうかという話だな」


謁見の間については、フェステル子爵から一連の話を昨晩の間に聞いているイリーナである。

なんてことをしてくれたんだとイリーナは思った。

ともに旅をした期間は少ないが、ケイタらしいなともイリーナは思ったのであった。

そして、無理やり剣を買ってもらったことを思い出すイリーナである。

謁見の話を聞いてイリーナは剣の意味を知るのだ。

受付で回収された剣のある腰に手を当てる。


「いえ、婚約者は私イリーナ=クルーガーです。剣を先日ケイタからいただきました」


「剣だと?」


「はい、白金貨10枚もするミスリルの剣です。私も一緒にダンジョンを攻略しようという話です」


「ほう、やはりお主なのだな…。お主を呼んでよかったぞ!今王家はケイタと何もつながりのない状況だ。このままダンジョンにケイタ1人で行かせるわけにはいかないという話だからな」


「ウガルダンジョン都市へケイタと共にという話でしょうか?」


「そうだ!ケイタという男は道理を大切にする性格なのだろう。世話になり男爵の地位を勧めた子爵のために、ダンジョン踏破の功績を差し出すほどにはな。きっと今共に歩んでいるそなたをケイタは大事にしているのではと思ったのだよ。確信があったわけではないがの」


「はい」


国王は少し間を開け、目をつぶって語りだす。


「ヴィルスセン王国はな…。リケメルア帝国の侵攻をずっと受けている。帝国は怪しい実験を続け、その侵攻は激しさを増している…。北のユーティア聖教国からは宗教を通して、圧力を続けてきておるわ。この国難の時に神が使徒をもたらしたのだ。ほかのどの国でもない、わが王国にな…。これには必ず意味がある。もちろん国益を一切考えていないと言えば嘘になるがの」


「そのために私達にお呼びがかかったのですね」


「ふむ、そうだ。しかしフェステル子爵よ。そなたを呼んだのにはもう1つ理由がある」


「え?私だけですか?」


「そうだ、貴族である故な、王位争奪戦に参加するのは常だと余も思っておる」


「な!?」


「しかしな、南のガルシオ獣王国で何があったか知っておるな?」


「内乱でございましょうか?」


「そうだ、王位をめぐり王子王女らが血で血を洗う内乱が起きたのを知っているであろう。我が国もそのようにしたいのか?」


「いえ、私は決してそのような…」


「ケイタの力は王国騎士団全軍すら屠るのだぞ。王位争奪戦にその力を使うのではないのか?」


謁見の間でロヒティンス近衛騎士団長の言った言葉を思い出すフェステル子爵である。


「と、とんでもありません!」


「獣王国は昨年やっと内乱が落ち着いたばかりだ。最有力だった第一王女を現獣王が殺してな…。国王として父としてそのようなことはさせるわけにはいかないのだよ。お主を呼んだのはその釘をさすために呼んだのだ。昨日はケイタをみんなに見せびらかすように中庭でお茶会を、ジークやゼルメアとしていたというのでな」


「き、肝に銘じておきます。決して内乱を起こすようなことは致しません」


「ケイタはそのようなことは致しません!」


イリーナが割って話す。


「そうだな、だが優しい男とは時に狂気にも走るものだ。余の目が黒い内は王国で内乱など起こさせぬとまあそういう話だ。よいな?」


「はは!」


テーブル席で頭を下げるフェステル子爵である。


「そうだな、イリーナよ。もしかしたら王家の使いの者がウガルダンジョン都市に行くかもしれないがその時は対応をしておいてくれ。当面の間は聖教国の要求は王家がのらりくらりとかわす予定だ。真摯に取り合う必要はないのでな」


「畏まりました」


「そうだな、それで式はどこで上げる予定だ?」


「えっと、ケイタとの結婚式でしょうか?それは…」


「ふむ、まだ決めていないと。フェステル子爵はどうなのだ?」


「え、と、そうですね。ふぇすて…」


国王とマデロス宰相の眼光が厳しくなる。


「もしかすると、その時にはダンジョンコアも持って帰った王国の英雄であるのに。よもや子爵領での式で済ませる予定ではないだろうな?」


国王は厳しい口調で話す。


「も、もちろんでございます!当然王都でやらせていただきます!!」


「ふむ、マデロス宰相よ」


「は」


「どうやらフェステル子爵は王都でケイタの結婚式をやると言っておるぞ。これは国王としても出席したほうが良いのか?」


「は、王都で、王国の英雄が式を上げるのであれば王家としては致し方ないかと…。1年後という話ですか。準備をするにはちょうど良い期間かと存じます。内外にもお示しできる良い機会かと。そうですね、クルーガー家の当主には、こちらから手紙を送っておきましょう」


「「な!?」」


「さて、今後の予定も決まったことだしの。フェステル子爵は領都に戻るだろうがイリーナよ。よろしく頼むぞ!さてずいぶん話したな。今日話した話は他言無用で頼むぞ」


「「はい、かしこまりました」」


扉の鍵を開け、部屋を出ると、無言で王家の使いの者がやってくる。

2人を案内するようだ。

おっさんの今後の話がおっさんのいない間にどんどん進んでいくのである。

また、王国を巻き込んでのおっさんのブログネタ収集も始まろうとしているのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る