第06話 おっさん、ゴブリンを倒す

8畳1kの賃貸マンションのシングルベットでおっさんが目覚める。

携帯で時間を確認すると、7時過ぎのようだ。

あれから2本の記事をブログに投稿した。

そして、昨晩から検証した結果、これまでに分かったことがある。


・魔法は現実世界では使えない

・タブレットも出せない

・ASポイントもわからない

・おそらく、異世界の時間は過ぎていない


検索神サイトを確認したが、どこにもASポイントを確認する項目はなかった。

どうやら異世界のタブレットでしかアクセス数と収益は確認できないらしい。

また、現実世界も夜になるが、検索神サイトの画面は日中のままだ。

何時かはわからない。

1日48時間の世界かもしれないが、現実世界が異世界に行っても時間が過ぎていない。

そのため、異世界も現実世界に戻った時に時間が過ぎていないと考えるのが普通であろうとおっさんは考える。


「3本の記事がどの程度のアクセスがあるか分らんが、とりあえず、異世界に行くか」


検索神サイトの画面を確認する。

『ブログ記事の投稿が確認できました。異世界にいきますか はい いいえ』

おっさんは『はい』をクリックすると、ふっと目の前の風景が現実世界に戻る前の森の中の開けた場所に変わる。

魔法の練習跡が残る小岩が目の前に見える。


「ふむ」


おっさんは太陽を見る。

太陽の位置は変わっていないようだ。


(異世界にいけば現実世界が、現実世界に行けば異世界が、それぞれ時間が停止するとみてよさそうだな。世界移動のタイミングも生命線だな。絶体絶命の状況で、帰還してその場を脱出しても、戻ったらピンチの戦場ってことか)


ステータスはどうなっているかな。


「ステータスオープン」


名前:ケイタ ヤマダ

Lv:1

AGE:35

HP:24/24

MP:36/36

STR:6

VIT:6

DEX:6

INT:18

LUC:10


アクティブ:火魔法【1】、水魔法【1】、風魔法【1】、回復魔法【1】

パッシブ:体力向上【1】、魔力向上【1】、力向上【1】、耐久力向上【1】、素早さ向上【1】、知力向上【1】


加護:検索神の加護(極小)


EXP:0


PV:18P

AS:1P


(おおMPが完全回復している。現実世界に一度戻ると全快するのか。これもゲームのような設定か。それに、アクセス分析のアイコンより先にステータスを見てしまったが、PVとASも増えている。まあさすがの弱小ブロガーだ。一晩過ぎても18アクセスか。それにしてもPVに対してASの値が悪いな。ブログ記事の直帰率が高すぎてリンクをほとんど踏んでいないんだろう。もっと面白いブログを書かねばな)


PVの18Pに目をやると青文字で書いており、タップできるようだ。


(PVのポイントからもスキルの取得ができるようだな。タップしてみるか)


『PVのポイントを経験値に変換しますか はい いいえ』


(あれ。なんだとPVのポイントからは経験値に変換するのか。スキルはASポイントのみ取得可能ってことか)


(これなら1ポイントで取れるスキルが1つだけ取れるのか)


おっさんは昨日晩に決めておいた、スキルを一つ選択し取得する。


・魔法耐性向上 レベル1 必要ポイント1P


(作戦は『いのちだいじに』だな)


次はPVだな。貯めていてもしょうがないから、経験値に変換するか。


『PVのポイントを経験値に変換しますか はい いいえ』

『はい』をタップする。


(何か軽くなったような気がするな。これがレベルアップか)


「ステータスオープン」


名前:ケイタ ヤマダ

Lv:2

AGE:35

HP:36/36

MP:48/48

STR:8

VIT:10

DEX:10

INT:30

LUC:13


アクティブ:火魔法【1】、水魔法【1】、風魔法【1】、回復魔法【1】

パッシブ:体力向上【1】、魔力向上【1】、力向上【1】、耐久力向上【1】、素早さ向上【1】、知力向上【1】、魔法耐性向上【1】


加護:検索神の加護(極小)


EXP:18


PV:0P

AS:0P


(ふむ、INTがずいぶん上がってきたな。攻撃魔法はINT依存なら昨日より威力は上っているはずだな。ファイアーボールだけ試しておくか)


小岩を目標に手をかざす。


「ファイアーボール」


昨日より若干大きめのビーチボール大の火の玉が現れ、小岩めがけて飛んでいく。


『ゴッボフン』

『パラ、パラパラ』


(昨日より威力は上がっているな。ステータスで確認したが、MPの消費は2のままか。魔法はINT依存、魔法レベルで消費MPは固定で間違いなさそうだな)


おっさんはある程度の魔法威力の検証を終わらせると、森に向かって歩き出した。

経験値を得るためだ。

あたりを見渡しながら、見晴らし良い森の隙間から森林の中に入っていく。

朝から異世界に来たが、まだ昼間のようだ。

森林に入るときびしい日差しが和らぐのを感じる。

おっさんは森の中をどんどん進んでいく。

森林はとても静かで遠くの方で鳥の声が木霊する。


(この森何もいないな、昨日から。ゴブリン的なものはいないのか。できれば人里に入る前にレベルを上げておきたいところだな。異世界の村はいい村だけとは限らないからな)


さらにどんどん歩みを進めていく。

おっさんは地面を見る。


(けもの道すらないな。もしかして何もない森じゃなかろうか。やばいな、何か体験をしないと戻れないのでは)


慌ててタブレットを開き、扉の絵が表示されているアイコンをタップし起動させる。

タブレットの画面を確認する。

『ブログに投稿できる程度の体験をしていません。』


(はい。戻れません。レベルを上げるか何かブログに投稿できるだけのネタを探さなければ帰還できないということか。異世界には食べ物も何も持ってこられないしな。時間との戦いになりそうだ)


安易に異世界に戻ってきたことをおっさんは反省しつつ、モンスターか何かネタはないか森の中を見ながら歩みを進めていく。


森を進むこと1時間ほど経過した。


森を進むこと2時間ほど経過した。


森を進むこと3時間ほど経過した。


(あーもう疲れたんですけどー。なにもいないじゃん。この森は)


おっさんは悪態をつきながら大木を背に休憩をする。


(困ったな。何もないぞ)


時間がかなり経過したのでタブレットを確認しても、日本へは戻れないようだ。

すると風向きが変わったような気がした。

家畜のようなにおいがした気がしたのだ。


(お、何かいるのか。この匂いはどこかで嗅いだことがあるような)

匂いのする方向に歩みを進めていく。

匂いはだんだん強くなっていく。


(ああ、思い出した。動物園のサイや象の檻の前のようなにおいだ。もしくは田舎の牧場のようなにおいだな。牧場のある村が近いのか)


(村が近いなら。先に村に入りましたイベントをするかな。それでも帰還できるだろうけど)


そんことを考えながら匂いのする方向に歩みを進めていく。

臭みはだんだん悪臭へと変わってくる。


(酸っぱ臭くなってきたな。どうやら、生活水準が日本よりずいぶん悪いのか。中世のヨーロッパもそんな感じと聞いたことがあるな)


匂いを元に中世ヨーロッパについて思考を膨らませつつ、森の切れ目のような場所までたどり着いた。


(やはり開けた場所があるのか。先に村とは予定が狂ったな)


おっさんは森林を抜けるとそこは魔法を練習した場所の10倍以上の広さのあるひろっぱであった。

奥の方には円状の木柵のある村が見える。








そして、森林を完全に抜けた時、おっさんはゴブリンと思われる1体と目が合った。

どうやらこの悪臭の正体はゴブリンの村のようだった。

目の合ったゴブリンもどうやら、村に戻るゴブリンのようだ。





「ふむ」


とうなずくおっさんは状況を整理する。

(50mほど奥に2体のゴブリンはゴブリン村を守る番人か。10数mほど目の前に1体は何か人間のようなものを肩から担いでいるようだ。)


(ゴブリンの大きさは120cmくらいか。ジェットコースターの入り口にある小学生のパネルを思い出しながら大きさを測る)


しかし、思考を無視するかのように、ゴブリンは叫びだす。


「グギャ」

「グギャグギャギャ」

「グギャグギャギャ」


すると村の中のやぐらの上にいる1匹のゴブリンが銅鑼のようなものをけたたましく叩くのが見て取れる。

ゴブリンの村の中に緊張が伝わっていくようだ。


目の前の人間のようなものを持った1匹が人間のようなものを投げ捨て、おっさんに向かって突進してくる。

手には小型のナイフのようなものが見える。

門番らしき奥の一匹も槍のようなものを持って突っ込んでくる。

門番らしき、もう一匹は仲間を呼びに行くのか、一方後ろにあとずさりをする。


「ファイアーボール」


おっさんは人間のようなものを投げ捨てた一番手前のゴブリンの胸元めがけてファイアーボールを発射する。

よける間もなく着弾したゴブリンはバウンドを繰り返しながら、十数メートル吹き飛ぶ。

魔法を食らって吹き飛んだ仲間を見て2匹のゴブリンが硬直する一瞬に、


「ファイアーボール」

「ファイアーボール」

「ウインドカッター」


2体の門番を難なく魔法で爆死させる。

その後、1体の高見台のゴブリンはウインドカッターで首を吹き飛ばす。


(結構な距離だと思うが、魔法の着弾は容易なのか。頭で意識した場所に飛んでいくな。)


(体が少し軽くなった気がするな。レベルが3に上がったか)


レベルが上がったステータスを確認はできそうにない。

ぞろぞろとゴブリンたちが村の中から湧いてくるからだ。


(レベル上げの養分としてごちになります)


どうやら、平和な日本で生まれたおっさんはゴブリンを吹き飛ばしても心は痛まないようだ。

おっさんはゴブリンに投げ出された、人間らしきものに近づきつつ、ゴブリンに対して意識を集中するのであった。

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