第04話 おっさん、魔法をぶっぱなす

うっそうとした森の中をおっさんはゆっくり周りも見渡しながら歩いていく。

遠くで、聞いたことのない鳥の声が木霊している。

そこまで木の種類に詳しくないおっさんだが、葉の形も違うのかなと落ち葉を見ながら、ここは本当に異世界なのかと検証をする。


(知らないといけないことはいくつかあるなと心のメモに記録しておくか。人は一度に覚えておけるのは3つまでとか。子供のお使い的な番組を検証する記事をネットで見たことがあるな。優先順位を決めて3つまでにしておくか。さっきのタブレット、ブログ記事を書けというくらいなんだからメモ機能くらいつければいいんだがな。)


・帰還条件

・レベルアップの条件

・こっちの世界と元の世界の時間軸


(同じ生活を人はするものだ。なので、もし帰還条件が新たな体験なら、黙々とこれから行うであろうレベル上げは最初の一度目はいいが、その後は帰還条件を満たさない恐れがあるな)


(魔法の検証をしたら一度元の世界に戻ってブログに記事を起こすか)


10分ほど歩くと、おっさんは少し開けた場所にたどり着いた。

開けた場所にある人の背丈ほどの小岩が見える。


(ふむ、これを的に火魔法をぶっ放すか)


おっさんは手岩を的に手を前にかざす。

丹田に力をこめ、夢にまで見た言葉を口にする。


「ファイアーボール」


手の前方が明るくなる。

火花が見えたと思ったら、瞬く間に30cmほどの球体の火の玉が1つ出現する。

火の玉は1秒足らずで出現し、おっさんが的を意識すると、同じく1秒足らずで的の岩にぶつかる。


『ドン、ゴッ』

『パラ、パラパラ』


音を立て、小岩に当たり岩の一部を破壊し崩した、火の玉は火を地面にまき散らしながら少しずつ崩しながら形を小さく変え消えていくのが見て取れる。


「ふむ」


おっさんは感動していた。

無邪気だった数十年前に戻っていた。


(思った以上の威力だな。魔法は自然にでて違和感はないな。気持ち疲労感というか、何かを抜かれたような気がするな)


(これがMP消費か)


おっさんはタブレットを開き自分のステータスを確認する。


(MPと経験値はどうなっているだろうか)


おっさんはタブレットのステータスアプリを起動させ、MPとEXPの欄を確認する。


MP:34/36

EXP:0


(ふむ。ファイアーボールのMPの消費は2か。岩を的にしても経験値は手に入らないか)


(このファイアーボールは、声出しの部分はまあいいか。出現に1秒、着弾にも1秒かな。余裕をもって3秒にするか。距離は大体30メートルとすると)


おっさんは拾った木の枝でファイアーボールの着弾までの速度を計算していく。

おっさんはどうも検証することが好きなようだ。

この辺が異世界に来た理由の1つなのかもしれない。


(出現換算だと時速21.6km/hか。着弾からのみの換算だと時速108km/hか。ゴムのパンチはたしか時速800km/hでジャンボジェット並みだったかな。これはチーターくらいか)


(見た目にもそうだったが、結構な速度だな。魔法を使えるものがごろごろいる世界で、ゴブリンでも、これくらい使えるならかなり脅威か。敵から魔法を放たれることも考えないといけないな)


(それだと魔法防御的なパッシブスキル取っておくべきだったか。使ってしまったじゃんボーナスポイント全部)


またもや苦悩し、うなだれるおっさん。

検証は好きだが、結構抜けているらしい。


(まあ必要ポイント1万ポイントのスキルもあるんだし、取得できるだろう。きっとそうなんだろう)


(ずいぶん音が出たが、だれも寄ってこないな)


(さて次は回復魔法か)


腕をまくり上げるおっさん。

おもむろに拾った小枝で自分の腕をぶつ。

じわりと打った部分が赤くなっていく。

ぶたれた手と反対の手を、赤くはれた部分に添わせる。

丹田に力をこめ、言葉を発する。


「ヒール」


ほのかな光とともに4月の陽気のような温かさが、ぶった腕の部分につたわる。

ほんの数秒の光が消え、ぶった部分の赤身も痛みも消えているのがわかる。


(思ったとおりの効果だな。傷の度合いによって、回復までに時間が違うか検証は別途必要だな。これ以上の自傷行為はいやだし、また別の機会だな)


タブレットを開き、MPの消費とEXPが増えているか確認をする。


MP:32/36

EXP:0


(ふむ。ヒールのMPの消費も2か。傷を治しても経験値は手に入らないか)


(わかったことはLv1の魔法はMP消費2のようだな。ほかの検証も一緒にするか)


おっさんは傷の消えた手にもう片方の手を添わせる。


「ヒール」


温かい光があらわれ、すぐに消える。


(傷がなくても回復魔法は発動するのか。ではこれならどうだ)


(ヒール)


温かい光があらわれ、すぐに消える。


(おお、声を発しない無詠唱はいける口か)


「ホ〇ミ」


温かい光があらわれ、すぐに消える。

目を見開き、わなわなと震えるおっさん。

なぜならおっさんは、『最後のファンタジー』より、『ドラゴンを倒す課題』の方が好きだからだ。


(これは大きいぞ。がぜん、みなぎってきたぜ。でもブログ的に、伏字だとあれなので今後はヒールパターンでいくかな)


MPが全て消費されていることをタブレットで確認したおっさんは、残りの攻撃魔法も的を使って試していく。

この開けた場所について、小一時間が過ぎようとしていた。

(ウインドカッターとウォーターボールの威力もまずまずだな)


タブレットでMPの消費を確認する。


MP:22/36


(ふむ、ファイアーボールを初めて使って1時間ほどたつが、MPの自然回復はしないな。MPの回復条件を調べないとな。長期戦になるとMPがなくなり後衛職はじり貧になるな)


(MPの回復を助けるスキルやMPの回復させるアイテムが必要だな。)


(さてと、これからすることは、自宅への帰還だな。ブログ記事のネタはいくつもできたしな)


太陽を見るおっさん。


(そういえば、太陽の数は1つだな。タブレットに時計機能もないしな。太陽の高さを確認したし、またこの世界に戻ってきたときの時間経過が分かるだろう)


タブレットの扉マークのアイコンをタップする。

『ブログに投稿できる程度の体験をされました。日本に帰還しますか。はい いいえ』

おっさんは『はい』をタップすると、ふっと目の前の風景が5年ほど住んでいる8畳の1kに戻る。


(普通に戻ってきたな)


(さてと、ブログを起こすか)


パソコンに戻るおっさんであった。

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