第9話 消失した記憶

「あーだる。なんで俺らがこんなことしなくちゃいけないの?」

「お前からやろうと持ち掛けたことではないか」


 現在エドワードとシャーロットはこの街を覆う謎の魔力の残滓の発生源を突き止めることだ。だがどうやっても元がわからないのだ。残滓がどこに行っても一定に残っているせいで一切分からず、術式も掴めない。

 唯一つかめているヒントはバーモルと同じ魔力質をしていることぐらい。

 必然、調査に行き詰った二人はバーモルに接触を図ることになる。


「バーモルがどこにいるかを探さなきゃいけないわけだが」

「ギルドに行って待つしかあるまい」

「さっさと話聞いて終わらしたいな」

「面倒くさがりめ」


 次の目標を定めた二人は街中をバーモルの姿を探しながらギルドに向かって移動する。出来れば見つけてしまいたかったが、そう簡単に鉢合わせることもなくギルドに辿り着いた。

 今度はギルド内にいることを願い、扉を開けると、なんとバーモルのパーティがいた。

 ちょうどいい声をかけようとシャーロットが足を進める。

 だが後ろからついて来ているはずのエドワードの足音が止まっている。


「おい」

「いや、、、そのすまんけど頼むわ」

「まだ、苦手か?」

「、、、、苦しくはあるな!」

「誇らしげに己の弱点を言うな」


 エドワードがマリクルフィアに苦手意識を持ち、避け続けていることはこの街に来てからよく知ることだ。何故、エドワードが彼女に苦手意識を持つのかは少しわかってしまうシャーロットは何も言えなかった。

 エドワードはなるべく彼女らのほうを見ないようにしているがシャーロットの次の言葉を聞いて体の向きを変えた。


「ん?グリージィとかいう男がいるなぁ」

「ぬぁにぃ!?」

「五月蠅い。近くで叫ぶな」

「あ、あぁすまん」

「どうせお前は使い物にならんのだからここにいろ」

「ひでぇよ、、、妹弟子よ」


 またまたエドワードのくだらない感情の揺れ動きにイラっと来たのか肩を怒らせて彼女らの方向に向かうシャーロット。

 少女らの会話の輪に入ると、盛り上がる彼女たちだがバーモルとグリージィは特に変わらない。グリージィは彼女の機微が薄いだけか、それとも別の英雄を見慣れているのか。一方でバーモルは緊張して感情がぐちゃぐちゃになっているのが表情から分かった。

 だがシャーロットは彼女らと話すために来たのではなく、バーモルに質問するために来たのだ。


「シャーロットさん!一体どうしたんですか?何か用でしょうか」

「いや、そういうわけではなくてな。少しバーモルに話を聞きたくてな」

「ん?」


 自分に何を聞くことがあるのだろうと首をかしげるバーモル。


「街全体にお前の魔力質と似ているものが充満しているんだが、お前が無意識的に何かの魔法を使っている可能性がある。少し調べさせてもらってもいいか」

「あ、うん?よくわからんが分かった」

「じゃあ行くぞ」


 バーモルの了承も取れたところで、魔力を練って彼女の背中に触る。ちょうど心臓当たりに掌を当てて魔力を通す。


「少しの間気分が悪くなるが耐えてくれよ」


 自身の魔力を通しバーモルの体を隅々まで探査するが、彼女が魔力を消費している様子は見られない。

 だが彼女の魔力回路が異常に瞳に集中していることが分かり、彼女は今回の件の正解を察する。


「なるほどな。お前、魔が」

「い、言うな!、、、あんまり大きい声で言うな。それと口外しないでほしい」

「?分かった、、、」


 シャーロットは怪訝な表情をして彼女から手を放した。


「シャーロットさん」

「ん?」

「何かわかりましたか」

「まあ問題解決とは行かんが、ヒントにはなるだろうな」


 そうですかと小さくグリージィはつぶやきシャーロットから目をそらした。

 取得可能な情報はすべて得たとエドワードのほうへシャーロットは帰っていった。


「どうだったシャーロット」


 そうエドワードが彼女に質問をした。

 だが彼女が告げたのはエドワードが一瞬思考を手放すに足る衝撃を持った言葉だった。


?」

「は?何のことだって、お前バーモルの体を魔力的に検査してきたはずだろう?」

「バーモルとはなんだ?」


 シャーロットはバーモルに関する記憶を〝消失”していた。



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