第6話 仲間、、、?
エドワードがマリクルフィアに出会ってから一週間が経ったその日。ケダモノのスズメから取れた素材で服を仕立ててもらい、それを受け取りに行った帰り。
冒険者ギルドに入るマリクルフィアの一党を見た。もちろん彼女との接触の一切を絶っていたエドワードであるが、彼女らの一党を見て血相を変えた。
彼女らの一党に金髪の男が混じっていたのだ。たまたま入るタイミングが被ったわけでもない。彼女の一党と親しげに会話しているではないか。
「シャーロット、行くぞ」
「はぁ、、、この間は拒絶していただろうが。大丈夫なのか?」
「ま、まあ大丈夫っしょ」
「信用ならん」
初めて会った時に記憶が曖昧になるほどの拒絶反応を起こしていたエドワードの顔は引き攣っている。だが“彼女"がどこの馬の骨とも知れない男と一緒にいるという事の方が彼にとっては問題らしい。
反応が娘離れできない親そのものである。
「うぅ……。でも変な虫は取り除かなければ」
「これだから男は」
「さあ行くぞ!」
いつもより気合の入ったエドワードの声に呆れながらも、彼について行くシャーロット。だが結局彼はギルドを押しあけて隙間から覗くばかりで、なかなか屋内に入ろうとせずにモジモジしている。
「さっさと行け!」
「おうわぁ!?」
シャーロットはエドワードを蹴り倒してギルド内へと強引に押し入れた。エドワードの叫び声に気づかれるかと思ったが、時刻は夕方で冒険者たちが賑わう時間でもある。
お陰でバレなかったようだ。
依頼達成の報告をしたい冒険者たちで受付までは列が出来ていた。
列の最後尾から見ても、エドワードがためらっている間に冒険者たちの群れに埋もれてしまっていて見えない。
マリクルフィアたちを見つけるために側面まで移動することにしたエドワード。エドワードはすでにギルド内の空気の一部となっており、気に留めるものも誰もいない。
ましてや彼女たちも見ることはないだろうに、エドワードは慎重に歩を進めていた。
ようやく側面につき、そこからさらに万全を期してテーブルの影に身を隠し彼女らを探す。傍にいるシャーロットを見ればそこにエドワードがいることは簡単に推測できることではあるが、今の彼にはそんなことに思考が及ばないようだ。
ジッと見つめ、ようやくマリクルフィア達を見つけた。
先ほどの男も一緒に並んでいる。
男はパーティと仲睦まじく話しているが、とりわけバーモルへ会話を振ることが多い。
「なんだ、バーモル狙いか。なーんだいいや」
「随分と判断が早いな」
「いや、もうあれはそうとしか思えない……ッ!?」
エドワードがそういった直後、偶然か今度はマリクルフィアに話を振り始めた。
「あんの男……ッ!」
それを見た途端、エドワードは今までの慎重な行動が嘘のように体を曝け出しマリクルフィアと男に向かって歩き出した。
マリクルフィアが彼に向かって背を向けていたからだが。
「目も当てられんな」
そしてとある少女の手を掴み、こちらへと引っ張ってきた。
「ちょ、エドワード!?」
「ちょっと来い」
彼が連れてきたのはバーモルだった。先日やり取りがあり、かつ名前を知っているのも彼女だけだからだ。人間的に、親しみやすい人間を選んだ結果、バーモルを連れてくることになった。
バーモルも抵抗しているが、エドワードの力に逆らえるものはいない。
「おい、あの男は何者だ?」
「いきなり何をするかと思ったら、そんなことが聞きたいのか?」
「そんなことじゃないだろう!?あの金髪に碧眼の優男くんの経歴は誰だって気になるだろぅ!?」
バーモルの肩を掴みそう力説する。それを見たバーモルは完全に引いていた。シャーロットは頭に手を当てて俯き落胆している。
「すまない。バーモルという者よ。説明を頼む」
「分かった。あの男と出会ったのはな」
それは彼女たちがコボルト討伐に出向いた日のことだった。
一週間前、エドワードたちがコボルトアーミーを討伐したその日、彼女たちは昇格依頼であるパープスライダーの討伐を完了し、Bランクへと昇格した。
Bランク冒険者といえば中堅から上位の間で、周りから一目置かれる程度の実力者として認識されるレベルである。
そんな彼女たちの初めての依頼がコボルト討伐依頼だ。コボルトアーミーが全滅した後、その巣を特定すべく調査依頼が発行された。三日後、巣は見つかったが既に捨てられており、近くの小規模なコボルトの群れに合流したのではないかとの推測のもと、さらに調査依頼が発行された。
その結果として中規模の巣が見つかり、それを見つけたDランクパーティは、1人を残して死んだ。
故にBランクの依頼として回ってきたわけである。
距離は隣町との距離がちょうど半分になる程度の位置だ。
王都の北には山が連なっており、その森の中で襲われたそうだ。
既に彼女たちは麓に辿り着いていた。
「壊滅寸前までに追い込まれた例のパーティの奴がいうには、速い奴に奇襲されたそうだ」
「アサシンってこと~」
「だとしらAランクの依頼じゃないかしら、、、?」
「まあ調査と討伐、両方の意味を兼ねているのだろう」
「お嬢様をそんな危険なところには」
「ヒーティア、そんなこと言ってたら何もできないですよ」
「そうだぞぅ、お嬢様っこ。私達は冒険者だ!!」
「ブランカのような野蛮人には分からないのでしょね。わたくしのお嬢様を思う気持ちが」
「んだと!?」
「まあまあ二人共落ち着いて。喧嘩はダメよ?」
バーモルが全体的なリーダーを務め、ヒーティアが危険性に口を出し、マリクルフィアが断わり、ブランカが突っかかる。それを宥めるのはアネモネだ。いつもならブランカにソラがふっかけるのだが、彼女は欠伸を噛み殺して、静観していた。
「とはいえ道程は森だ。奇襲は仕掛けやすい場所になっている」
「じゃああたしが人一倍働かなきゃいけないってこと~?」
「ソラが一番得意だろ?」
「りょ~かいー」
少しふざけた空気を残しつつ、彼女たちの初依頼は始まった。
記された距離は五キロほど。警戒して慎重に進んでも二時間もすれば辿り着くだろう。
「<聴覚強化>」
ソラの魔法適性は系統外魔法の<強化付与>魔法である。
それにより聴覚を強化し索敵に力を使う。
歩いて既に一時間が経った。コボルトには一匹も遭遇していない。ちょうど目的地までの距離が半分になったころだ。小休憩を入れる。
ソラは一人、木に登って警戒をしている。
警戒の意識が少し薄れてきたところに活を入れる声が入る。
「いる!!」
人一倍警戒していたソラが声をあげ、それと同時に弓を引き矢を放って敵の位置を告げる。
ソラは矢を集団の左方向に撃った。
「木の上を速い奴が渡ってくる!ブランカ!!」
「おうよ!!」
ブランカの名を呼ぶ。それだけでブランカはソラが何をしようとしてるのか分かるのだ。
気配は一度隊の後ろまで回ってから急襲してきた。
ソラはそれを木から降りることにより、避けた。
ただし背中は地面に向けて、矢を射かけながらだ。
「よっと。あんま危ない真似すんなよ」
「あたしが怪我したらブランカのせいにすればいいし?」
「お前なぁ」
まさかの方向に避けられた気配は、鼻先を矢が掠り足を踏み外し落下した。
だが流石に高位の魔物と言ったところか。無様な落下を見せることは無くしっかりと両足で地面に着地し、敵を睨みつけた。
「ソラ!<脚力上昇>最大だ!」
「あいよー」
敵を前にしてどこか抜けている返答をするソラ。バーモルの指示に即応し彼女に脚力上昇を付与する。
コボルトアサシンはソラとブランカに狙いを付ける。
速度に特化し進化した個体だ。
距離を詰めるのは一瞬だ。
「あんたの相手は私じゃないぞ」
だがバーモルの一声で何をするか察していたブランカはアサシンが走りだすより先に後ろに跳び退いていた。
アサシンは狙いを変えて、ブランカと入れ替わり出てきたバーモルに突っ込む。
バーモルは助走もしっかりつけて自身の得物である大剣を抜いている。
既にお互いの得物の間合い。リーチはバーモルの方が上だ。
間合いギリギリの左切り上げ。
それは急静止したアサシンにあっさりと避けられた。
半歩下がり、避けられたバーモルは隙だらけだ。
アサシンがにやりと口をゆがめるのが簡単に分かる。
だがそれはバーモルも同じだった。
アサシン特有の急加速で大剣を引き戻す暇も与えずに爪牙で襲い掛かる。
その動きが完全に止まった。まるで勢いを消失したかのように、唐突に突然に動きが消失した。
「GUA?」
「終いだ」
そう言ってバーモルは切り上げた大剣を同じ軌跡で振り下ろした。
後に残ったのは真っ二つになったアサシンだけだった。
「さすがね。バーモル」
「ソラの索敵に助けられた。全然分からなかったからな」
「あたし偉い?」
「えらいえらい」
「ブランカには聞いてない!」
その時だった。
「とても良い仲間を持ったようですね」
「「「「「「!!?」」」」」」
音もなければ気配もない。
最初からそこにいたとでもいうようにその男はそこに立っていた。
「どうも皆さん初めましてグリージィという者です」
「一体何者だ?」
当然の質問をバーモルが口にした。
もしかしたら指名手配の犯罪者か?その考えが頭を過る。
だがその男は予想外の言葉を発したのだった。
「貴女の仲間ですよ、バーモルさん」
「なか、ま、だと?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます