救世の英雄と最果ての再会
十六夜
プロローグ
「どうして、、、」
少年は号哭した。
「どうしてなんだ、、、」
周りのすべてが崩壊していく中、少年は慟哭した。
強くなれた気がしていた、強くなれた気でいた。でもまだ足りていなかったのだ。目の前の地獄を前にしてそう絶望した。
全てが自惚れに過ぎなかったのだと気づいたのは大切な人を失ってからだった。余りにも遅すぎた。
悲哀、失望、悲嘆、嘆願、絶望、軽蔑、そして憤怒。
地獄を生み出した化け物を見据える。数多の負の感情がないまぜにしたままの心から選びだされたのはそれでも後悔だった。
「どうしてボクハコンナニモヨワイ?」
後悔を押しのけて割り込んでくる憤怒に呑まれた意識と共に、鎖が遠くで鳴るのを聞いた。
己が別の存在へと書き換わっていく感触。それが心地よかった。
自分の欲したものを与えてくれるそれがひたすらに心地よかった。
きっと己の感情を捻じ曲げるこれは受け入れてはいけなかった力の類だったのだろうけれど。
気付けば先ほどと同じ体勢で固まっていた。
‶彼女″の体はただひたすらに冷たかった。
「うぅ、ぁああ!!」
頭の中の何かが捩じ切れていた。
ちゃんと分かっていた。それでもヨワイだけの僕はそれを肯定するほかなかった。
もう、何も答えてくれない‶彼女″を地面に横たえる。
両手を組ませて、神に祈っているかのようにして。そうしたら‶彼女″はただ寝ているだけのように見える。それほど穏やかな顔をしているのだ。
一体、己の死を明確に自覚しながらこれほど穏やかな顔で逝ける人がどれだけいるのだろうか。
、、、それほど僕を信頼しているのだろうか。
‶彼女″が最後に僕にした約束、、、それを果たさなければならない。
‶貴方ならきっと大丈夫。だからたくさんの人を救ってあげて、、、私の分も″
強く、なりたい。
いや、強くならなければならない。
どこに行けばいい?僕が頼れる人は、、、どれだけ生き残っているのだろうか。
この惨劇からの復興を考えると、僕をおいておく余裕など無さそうだ。
どこか、自分を磨ける場所。いや、それじゃ生温い。
第一、その結果がこの体たらくではないか。
死を一番実感できる場所、、、そうだ、、そこがいい。
そうすれば‶彼女″を間近に感じ取れることもできる。
行こう、行こう、行こう行こう行こう行こう行こう行こう行こう
イコう。
「おい・・・ワード・・・エドワード!!」
「んうぉ!びっくりした、、、シャーロットか」
「私しかいないだろうが。驚くことなどないだろう」
自分を記憶の底から掬い上げてくれた少女を見つめる。
記憶と現実、過去と今。寝ぼけた頭で情報を噛み砕き受け入れる。
シャーロット。紅の髪をポニーテールに纏め、知性を伺わせる深い蒼の瞳を持った美少女。
黒髪黒目の平々凡々のエドワードの容姿とは釣り合わないほどの美少女である。
彼らの関係は同じ師に師事した兄弟子と妹弟子。それ以上でもそれ以下でもなかった。
シャーロットの背後を見てようやく自分がなぜ起こされたのか思い出した。
「見張り番の交代か」
「随分な寝ぼけようだな。夢でも見てたのか」
「ああ、、、もう近くなってきたからなぁ」
彼が刃を磨くことを決定づけられた場所。彼の旅はある種の終着点に達しようとしていた。
「泣くなよ」
「泣いてねえよ」
嘆息を一つ零す。なぜ妹分はこんなにも偉そうなのだろうか。
「早く寝ろ」
「お前が起きなかったからだろうが」
口煩い妹分を寝床に追いやり魔石の入ったランプを手に取り周囲の索敵を始める。
属性魔法に分類される全八属性の魔法を使えるシャーロットの闇魔法のお陰で結界は張られてあるものの、偶然で結界が壊れるなんてことがあるかもしれない。万が一に備えて、系統外魔法に分類されるエドワード固有の魔法<金属生成>魔法で手になじむ重さの剣を創り出し、いつでも抜き取れる位置に突き刺して辺りを緩く見渡す。
エドワードの索敵が適当に終わってしまうのは当然のことと言えた。
この世界に脅威になるものが存在しない
夜空を見上げて物思いにふける。
必然、彼が思い出してしまうのはさきほど見た夢と、彼らの目的地のことだった。
彼らの目的地である都市の壁上で二人の男女が眠りについた街へと視線を送り語り合っていた。
「ようやく全部確認し終わりましたね」
「いや~長かった長かった。あたい達の旅も中々に長かったね!」
「彼らに付いていきたいといったのは貴女でしょうに」
「まあね!でも楽しかったろ?」
「そりゃ楽しかったですけど。別にこんなことしなくても良かったのではないですか?」
「ひと手間加わってねぇと楽しくないだろ……それに公平じゃない」
「それは僕も思いましたが、、、」
彼らの会話の内容の意味は分からない。ただ。
「でも長い長い旅は終わりを迎える。あたい達の再会も近いな!!」
「ええ、そうですね」
彼らが心底楽しそうだということだけが分かった。
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