第11話 それでも勇者は魔王を救う!

魔王は若干童顔かも知れないが、白く透き通る様な肌と整った顔立ち、流れる様に光る美しい金髪と頭のサイドから前方上へと伸びる太く尖った角……全てが彼女の美しさを彩る装飾品ようだ。今まで見たどの人間の女よりも際立ったその美しさが勇者の胸に刺さった。


「か、かわいい……」


思わず勇者の口から思わず出た言葉だが、魔王はまさか自分の事を言われてるとは思わず、自分の他に誰かいるのかと周りをキョロキョロしている。


「仲間たちは全てお前を倒す為に出て行った。ここにはお前と私のだけだ!」


「二人きり……?」


最初は勇者の言った言葉の意味が分からない魔王だったが、漸くその意味を理解すると誰が見ても分かるほど顔を赤くして全力で否定した。


「ばっ、馬鹿かお前、そそそ、そういう意味で言ったのではない!!」


「そう言うって、どういう意味だ?」


「ばばば、バキャ!」


魔王は分かり易く動揺して噛んだ。真っ赤になった顔を両手で隠してはいるのだが、口を尖らせて眉根を寄せる顔もとても可愛く、俺はギドラと戦うつもりで飛び込んだ時の緊張感がほぼ霧散したのを感じた。


「はぁ……」


俺は軽くため息を吐くと懐から一枚の絵を取り出した。ポーが書いたギドラの絵だ。この絵をもらってからずっと、何度となく見返したこの絵だが、気になる点が一つだけあった。そこに視線を落とし、魔王の方を見てもう一度ため息を吐いた。


「はぁーっ、なるほどね。ポーのヤツここまで折り込み済みって事かよ」


俺はその絵を投げ捨て魔王の方へと向き直る。


だが、当の魔王は俺の投げ捨てた絵の方を見ていた。そしてこちらに視線を移すとゆっくりと噛み締める様に口を開いた。


「その絵を持っているという事は貴方があの預言者の言っていた勇者ね」


「ポーのヤツここまで来たのか!?」


「いいえ、彼が夢枕に立ったのよ。その絵を持った勇者が魔族を救うとね。誰も信じなかったけど」


ポーの能力なのだろうか、俺に見せたのと同じ様なものなのだろう。だが俺は今、彼女の答えで全てを理解した。


魔族を救うか。ふふふ……笑わせてくれる!


「俺は勇者。残念だが、お前たち魔族をこの世界から消し去る為に来た! 外の魔族は全て俺が消し去った。あとはここに残った魔族が最後だ!!」


「そうか……やはり夢は夢か」


俺はソウルブレイカーを握り締め身構えた。


そして魔王も両手で何かを握る様な仕草でクロスさせる。上に向けた魔王の手の平から六つの小さな火の魂が現れると、彼女の影が広がって行き、中から六体の影の騎士が現れた。


先手必勝! 


俺は全力で走り込むと、剣を振りかぶる騎士の横をすり抜けながら斬り付ける。次に振り下ろされた剣を受け流しながら一撃を入れて行き、次の騎士に蹴りを入れた反動で、その次の騎士に体当たりをかました。


俺が騎士を斬り倒す毎に、魔王が作り出した火の魂は消えていき、最後の一体を斬り付けると全ての炎は消え、魔王は膝をついた。


「勇者……貴様、影の騎士シャドウナイツに何をした?」


「影の騎士ね……本来、物理攻撃は効かないだろうけど、魔術であんた自身の魂と繋がっているなら俺のソウルブレイカーで斬れなくはない。この剣の効果が影の騎士を通してお前の魂を少しずつ破壊し力を奪っているんだ」


「そうか……私は死ぬのか」


俺は魔王の問いには答えず、ポーの書いたギドラの絵を拾うと彼女の隣で腰を落とした。力が入らなくなり、後ろへと倒れそうになる魔王の背中を支えて抱き寄せると笑顔で呟いた。


「魔王、お前やっぱり可愛いな。一目惚れだ。この世界の誰よりも綺麗だ。そしていい匂いがする」


「ば、ば、馬鹿なのかお前は?」


魔王は顔を赤らめると俺の腕の中で少しばかり抵抗をしてみたものの、もうあまり力が入らないのか諦めて俺から視線をそらした。


「私と先代魔王は人間と争わず、ゆっくりと滅ぶ道を選んだのだ。そして私の容姿はかなり人間に近い。魔族の中では恨んだり嫌われる事はあっても、お前のような事を言う奴など一人もいなかった。正直ずっとずっと長い間、孤独だったよ。寂しいと感じていたのかも知れない。だから敵であるお前の言葉が、少し……ほんのほんの極々少しだけ気になってしまった。それだけの事だ」


「素直じゃねぇな。嬉しかったって言えよ」


「嬉し……くない」


「強情だな」


「フフフ……まさかこの私が死の間際に笑う事が出来るなんて。あの予言……まんざら嘘では無かったって事かしらね」


死を前にしながらも、口を尖らせて微笑む魔王を見て、俺は自分の選択が間違いでない事を確信した。


「魔王、最後にひとつ頼みだ」


「なによ」


「俺を……殺せ!」



死にかけの魔王を前に、自分の選択を受け入れる【勇者】20歳、新年まで残りあと5分。覚悟の年の瀬間際であった。



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