第3話 それでも勇者は包みを破く!
昼より少し前、部屋で休んでいた勇者を大神官が訪ねてきた。彼はいつもの様にノックもせず、いきなりドバァーンと扉を開けて飛び込ん出来た。
「勇者、勇者よ!」
「何度言っても、お前にはプライバシーって物が無いのかクソジジイ!」
「思春期って面倒くさいのう。エッチな事がしたいならまた後にするのじゃ」
「誰がするか!!!」
えっ、何で……? といった顔をする大神官だがこのヒューマン真教の神殿には女性がほとんどいない。飯炊きを一手に引き受けてくれているおばあちゃんシスターがいるだけだ。感謝こそすれ、そういった目でばあちゃんを見る事はない。女性そのものを見る機会がほぼ無い為、今はそういった若者らしい感情が湧き上がって来ないのだ。
「ところで用事は何だ、メシか?」
「飯ではない!」
「じゃあ寝る」
「ニートか!!」
大神官のツッコミも虚しく、勇者は魔王がギドラだと知ってから、すっかりやる気を無くしていた。とはいえ十年も続けていた習慣だ、簡単にやめる事も出来ずに鍛錬だけはいまだに仕方なく続けてしまっていた。
「そんな可哀想な勇者に大神官さまは素晴らしい贈り物を持って来たのじゃった」
「途中からナレーションが声に出ちまってるじゃねぇか、とうとうボケたか、モーロクか?」
「ひとを異界の悪魔のように言うでない」
「それモーロックな」
「……」
「……」
「優しいワシそんなつまらぬダジャレは水に流し、お前の為に良い物を持って来たのじゃ」
自分から振っておいて滑ったら、さも俺が悪いかの様な塩対応。『いつか絶対に殺す』そんな勇者の思いなどつゆ知らず、大神官はローブの中からゴソゴソと長方形の箱を取り出した。
その箱には魔術文字のような物が書かれた紙が大量に貼ってあり、まるで何かとんでもない邪悪な物でも封印でもしてあるかの様な異様な雰囲気をかもし出している。
「勇者よ、その邪悪な絵柄の包装紙を破いて中身を取り出すのじゃ」
「はっ?」
「じゃから包装紙を剥がして中身を見てみろと言っとるのじゃ」
「ただの包装紙なのか?」
「大預言者ポーの奴が徹夜で書いた力作じゃ。ビビったじゃろ、はっはっはーっ!」
「ぷおぉおぉぉ―――俺の純真な心をモテ遊びやがってぇえぇぇこんちくしょう!!!」
魔族より先にまずコイツらを滅ぼすべきだと心に誓う。ポーの名を叫びながら包装紙をビリビリにひっちゃぶいた【勇者】17歳の秋だった。
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