詠唱術式

 門を潜ると、見慣れた階段が続いていた。


「行こうか」


 先生が言った。


「詠唱術式の説明だったか。

「先ず、声方術式せいほうじゅつしき は分かるな?」


 歩きながら言う先生は、またもや聴き慣れない単語を口にする。


「九尾苑はそんなことも教えとらんか」


 先生は僕の心を読んだかのように言う。


「声方術式、術の名前を口で呼んで術を発動する方法じゃ」


「ああ、それならば最近覚えたばかりです。

「正式名称を知りませんでした。

「無知を晒すようでお恥ずかしい」


「気にするでない。

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言ってな、名称を知っただけ徳と誇っていれば良い」


 先生は優しい口調で続ける。


「声方術式は声に妖力を乗せる術式、詠唱術式は言葉に妖力を乗せる術師と思えば良い。

「ここまで、何となく分かるかね?」


「ええ、何となくは」


「なら良い、話を続けよう」


 そうか、説明とは話についてこれているか確認してもらえるものだったか。


 てっきり、無理にでも頭に詰め込むものだと思っていた。


「他にも、おんしが持っているような妖具を使って術を使う、具形術式や、札なんかに術式を自ら書き込んで使う、準具形術式なんかもある」


「それなら、詠唱術式以外は全て使用経験があります」


「そうかそうか、経験があるというのは何事にも変え難い宝だ。

「具形術式などは他と違い、妖具を用意するのに手間がかかる。

「それを今の段階で手に入れ、使いこなせる技術まで持っているのは僥倖だ。

「環境に感謝すると良い」


「ええ、いくら感謝しようと足りませんよ」


 さて、と先生は言いって杖に乗る自分の片手をポンと叩く。


「話を戻すがな、さっき挙げた数多くの術式、それら全てを超越する威力を発揮する術師。

「それが詠唱術式というわけだ」


 そう言い終えたタイミングで階段を降り終え、広い空間に到着する。

 まるで、階段の長さを予め予想して話の長さを、途中の脱線すらも調節したかのようなタイミングだ。


「さて、上手く使えるまで戻れると思うでないぞ。

「幸い、この空間には寝床も飯もあるでな」


 なるほど、九尾苑さんが危険と言ったのはこのことだったのか。


 しかし今の言葉、羽団扇を使う訓練のときの九尾苑さんの言葉に妙に似ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る