三十七冊目

 深夜、市街地から少し離れた寂れた商店街で僕が一人で歩いていると、ふと視線を感じる。


火吹きの左腕ひふきのさわん


 言うと、僕の左腕が炎に包まれる。

 中指を横に一線、それから続けて言う。


「三の指、獄壁」


 瞬間、指で一本引いた線から上下真っ直ぐ、炎の壁が現れる。


 すると、その壁に三つの鉛玉が命中する。

 壁がなければ丁度僕の急所に当たる位置だ。


「離れてちゃ僕は殺せないよ。

「どうしても殺したいってんなら近づいてきな」


 言うと、いくつも並ぶ店の一つから男が一人出てくる。


「銃の腕はあるらしいけど、近づく度胸はあるの?」


 途端、男はこちらに向かい駆ける。


 男がこちらに向かい、勢いよく腕を振るう。


 炎を纏っていない右腕でそれを防ぐと、金属の甲高い音がなる。


 男の手には、こんな夜の暗闇にはよく馴染む真っ黒のナイフが握られている。


「九尾苑さんの術がかかってるんだ。

「生半可な攻撃じゃあ燃えず、斬れず、銃弾も通さないよ。

「少なくとも、君程度じゃ傷をつけるに値しない代物だ」


 少し煽って相手の様子を見ようと思っていると、男は実力差を判断したのか即撤退を選ぶ。


「逃走っていうのはさ、ある程度近い実力だから成せるんだ」


 燃える左腕から親指を突き出し、空に線を一本引く。


「一の指、火遊び」


 瞬間、親指で一本引いた線から火の玉が五つ発射される。 


「一折目、爆」


 瞬間、逃げる男に近づく火の玉が爆発する。


「雇い主は誰だ」


 僕は聞くが、男は黙りっきりだ。


 仕方ない。

 僕的にはあまり喜ばしいことではないのだが、あとは任せるとしよう。


「起きてくれよ、魔封社まふやしろ


 瞬間、視界が暗くなってゆく。


 完全に何も見えなくなった直後、声が聞こえた気がした。


「そろそろ俺のことを思い出せ」


 そんな声が。

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