三十二冊目

 次々と湧き続ける敵を七十ほど小石で撃ち落とたが、未だ敵が減る様子は無い。


「沙耶、体力大丈夫?」


「ええ、貴方こそ」


「僕も平気だよ」


 そんな軽口を叩きながら敵を撃ち落とし続ける。


「ねえ、店長さんにもらったお札使えない?」


 言われた僕は、完全に忘れていたお札を思い出す。


「敵が多い時用と言ってたお札を使うから、一度距離を取って!」


 少し離れて戦う沙耶に聞こえるように大きな声で言う。

 返事はすぐに帰ってきた。


「貴方そのお札使い方分かるの?」


 盲点だった。

 どうするべきか考えながら敵を撃ち落としていると、僕との間にいた敵を術で退かしながら、沙耶が僕の元に駆け寄ってきた。


「怪我は?」


「してないわ。

「それよりお札、使い方教えるから一枚渡してちょうだい」


 言われた通り、敵が多い時用の白いお札を五枚セットから一枚抜き取って手渡す。


 殲滅用なら近くで使わない方がいいわね、と一言呟いた沙耶はお札を人差し指と中指で挟んでこちらに見せる。


「先ず、基本的な使い方は貴方が使うような妖具と一緒よ。

「違うとしたら、妖力を集める場所が決まっている事ぐらいかしら。

「このお札に書いてある模様が術式って言うんだけど、この術式が全部集まるお札の真ん中に正しく妖力を込める必要があるのよ。

「通信用のお札なら持ったまま使ってもいいけど、これは多分攻撃用だから妖力を込めてから相手に向けて投げてちょうだい。

「攻撃用なら、妖力を込めた三秒後くらいには起動する筈よ」


 近づいてくる敵を撃ち落としながら聞いていると、説明を終えた沙耶がお札を敵に向けて飛ばす。


 敵にお札が触れた瞬間、タイミングを合わせたのだろう、突如大きな爆発が巻き起こる。


 あのお札は爆発を起こす物だったか。


 瞬間、敵の連鎖的な破裂を察知して、沙耶の元に駆け寄る。


 咄嗟に自分の身で覆うように沙耶を抱き寄せ、自分たちを中心として全方位に全力で風を放つ。


 予想通り、敵は次々と破裂する。


 爆風を羽団扇の風で相殺し、背で熱に耐える。


 三十秒も耐えれば破裂は止まった。


 背に痛みが無い事から、火傷は無いと判断。


「怪我は?」


 沙耶は大丈夫だと答えた。

 僕にも怪我がない事が分かると、沙耶は辺りの確認を始める。


 よく見ると、壁や天井に傷一つ入っていない。


「このあのお札から感じる妖力からして、作ったのはあの店長でしょうけど、爆発と結界の二重術式だなんて、無害そうな態度で中々やってくれるじゃない」


「沙耶、感心してるところ悪いけどこのまま今の妖の原因を探るために進むか、報告の為に帰るか、決めちゃくれないか?」


「そんな決まりきった事聞かないでくれないかしら? こんなやられっぱなしじゃ釈じゃない」


 沙耶は自信ありげに歯を剥き出して笑う。


「即撤退よ!」

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