一冊目

 僕は今、いつものように学校が終わり、日が暮れてきた頃の夕飯にはまだ早い時間を、街中を練り歩き脳内マッピングすることで潰している。

 まあ脳内マッピングなんてカッコつけた言い方をしたが、有り体に言ってしまえば散歩だ。


 いつもの日常、決して変わることの無い日常だ。


 いや、訂正しよう。

 僕は今、人生で最も華やかしい日々を過ごす筈の高校2年生だ。


 しかし、いつかは高校生活に別れを告げ、大学に行き、社会人にるのだろう。


 そうしたら、こんな時間を只潰す為だけの散歩の時間などなくなるだろうか。


 そんな事を考えながら歩いていると突然、僕の視界は一つの建物へと吸い込まれるようにギョロりと動く。


 其処には、真新しい一軒家ばかりの住宅街には削ぐわない、古ぼけた店が置いてあった。


 置いてあったとは、それこそ建物には削ぐわない不思議な表現に聞こえるだろうけど事実なのだ。


 住宅街の道の真ん中に、ぽつんと置き去りにされた学校机とその上に乗る掌サイズの店。


 其の店は、道の真ん中に、学校机の上に置いてある。


 そしてこの店は、この不思議な状況を頭から削除しても、何処か異界めいていて、嘘めいていた。

 まるでそこには何もないように感じる、実際にある物がないかのような、僕の目が、脳が嘘をついているかのような。


 僕はその店へと吸い込まれるように手を伸ばす。


 ぴたりと店の小さな扉に指が触れた瞬間、静電気のような衝撃が指に駆け巡る。


 手を引くと、直ぐに痛みは引いた、ら

 そこで僕はある違和感に気づく。


 先程まではそこにないように感じていた店が、今はハッキリと、目の前にあると断言出来る程の存在感を発しているのだ。


 恐る恐る僕は再び扉に触れる、今度は何も起きない。


 そこで僕は思い出した、そういえば、扉とは指を添えるものではない、叩くものだと。


 僕は扉を二度叩く。

 すると扉が開く、瞬間僕は店の中へと吸い込まれた。

 視線が吸い込まれた訳でも、吸い込まれるように扉に触れた訳でもない、頭から、全身、全てが吸い込まれた。


「お客様ですよ、店長」


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