終電

帰り道—茜

私は、足を道に押し付けるかのようにしっかりと帰路に就く。

歩幅はいつもの半分くらい。

真っ黒の大きな傘が、目の前を歩いている。

彼の鞄は少し濡れていて、時折泥が靴に跳ねる。

私は、もしものときに備えて沢山の言い訳を考えていた。

いつもなら歩くのが速い彼が、ゆっくり、ゆっくりと足を前に出す。

私は、傘の柄を両手でぎゅっと握りしめる。

口の中が渇いている。

心臓の音が身体に響き、私をさらに追い詰める。

雨音が大きく聞こえる。

足元に視線を落とす。

彼の歩みは止まっていた。

「…好き」

顔を上げても目の前は、真っ黒の大きな傘だった。

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