Mission04: 補給作業

『ゲルゼリア、そしてプロメテウス隊……聞き覚えがあります。我がサロメルデ王国を幾度となく、その力で助けてくれた……』

「ご存知でしたら話が早い。一刻も早く帝国機を掃討します。幸い、ゲルゼリアも間もなくこの空域に到達します。ご安心を」


 ゼルゲイドやプロメテウス隊、そしてゲルゼリアの存在は、既にサロメルデ王国全土に知られている。

 しかし味方であるはずのサロメルデ王国に対してさえも神出鬼没であり、半ば都市伝説としても――特に、王都から離れれば離れるほど――認識されていた。


 そんな“都市伝説”のゲルゼリアから助けられたことに、ポートダック乗組員はまだ、この現状を信じ切れていなかった。

 だがレーダーは、1隻の味方艦――ゲルゼリアを捕捉し、ポートダックに知らせる。


 映像に映った威容を見て、ポートダック乗組員はこれが紛れもない現実であることを認識した。


「あの大きさ、あの色……! 間違いない、ゲルゼリアだ!」

「救国の英雄たちが助けに来てくれたぞ!」


 話はこれだけにとどまらない。

 最後の1機を撃墜したシュヴァルリト・グランと、プロメテウス隊のリクシアス2機が合流した。


「こちらエクスカリバー。輸送艦に絡んでいた帝国機はせん滅した」

「了解。俺たちで話をつけているところだ。ゲルゼリアと合流させて護衛する」

「はいよ。頼りになるな、パトリックさん」

「これも隊長としての仕事だからな」


 プロメテウス1ワンことパトリックは、さらに話を続ける。

 目的地や修復作業の必要の有無など、護衛において必要な話を一通りした。


「聞いての通りだ、M。俺たちと同じ、メイディアまで物資を運ぶそうだ」

『了解。ならば好都合だな』


 目的地が同じであるのは、護衛において条件が良いものである。


 それからさらに、補修などの話を済ませるMとポートダック艦長。

 結果として外部に損傷が少なく、しかも致命的でなかったため、そのまま自力で同行するという結論に落ち着いた。


 と、ここでMが突如として切り出す。


『エクスカリバー並びにプロメテウス隊。補給は必要か?』

「こちらエクスカリバー。必要ない」

「こちらプロメテウス1ワン。俺たちは必要だ。弾薬を想定以上に消耗した」


 先ほどの戦闘では一方的な勝利を収めたシュヴァルリト・グランとプロメテウス隊だが、弾薬などの消耗品を多く使った。シュヴァルリト・グランは体躯や3つの大型動力炉に相当するだけのエネルギーがあり、また実弾兵器を持たないがゆえに補給の必要はそう無いものの、プロメテウス隊のリクシアスとグリンドリンは装備の都合上そうもいかなかった。

 実弾兵器を主体としていたためである。


 それを受けたゲルゼリアは、ブリッジ後方――艦首側から見て――にあるカタパルトハッチを開放する。

 プロメテウス隊は、開き次第順次機体を向かわせる。格納庫に直結しているため、入ればすぐに補給を受けられるのだ。


『そちらの護衛機も、補給しますか?』


 Mはパレント隊に繋ぎ、補給と整備の提案をする。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「隊長に続きます」


 パレント隊の弾薬もまた、尽きる寸前だった。やや遠慮がちに、しかし急いで補給を受ける。


『悪いですね、エクスカリバー……ゼルゲイド様。しばらくは貴方1機で護衛を頼みます』

「大丈夫です。こういうときのために作られたシュヴァルリト・グランですから、輸送艦は守り抜いてみせます!」

『頼もしい限りです』


 そう。シュヴァルリト・グランは元々、1機で多数を相手取るために建造されたAdvancerアドヴァンサーである。

 全高こそ32m――標準的なAdvancerアドヴァンサーでは18~20m程度――と巨大なものの、心臓部である3つもの巨大反応炉は、本来はAdvancerアドヴァンサーではなくゲルゼリアやポートダックのような艦船に取り付けるものだ。生み出す莫大な出力は、巨体に似合わぬ圧倒的な機動力と膂力、そしてエネルギー総量を有し、しかも重厚な装甲などで堅牢な防備を誇る。

 このような護衛任務にはやや相性が悪いものの、対Advancerアドヴァンサー戦闘能力は圧倒的であった。先ほどプロメテウス隊の2機がポートダックと話をつけている間に――2機のリクシアスと共同とはいえ――敵をせん滅したのも、当然であった。


 僚機が補給を受けている間待機しているシュヴァルリト・グランの中では、ゼルゲイドとアドレーネが話をしていた。


「この辺りは王国軍の基地が少ないとはいうものの、まさか襲撃があるとは……妙ですね、アドレーネ様?」

「そうですわね、ゼルゲイド様。王国領としてそこまで浅い場所ではないはず。リクシアスの航続距離は知っていますが、それでもベルゼード帝国から行くにはやや厳しいですわ」


 こうして間近で会話ができるのは、複座型の利点である。

 ところでベルゼード帝国というのは、先ほどポートダックを襲撃したリクシアスの所属する国家であり、そして現在サロメルデ王国とは戦争状態にあった。

 一時サロメルデ王国は王都陥落寸前まで侵攻されたものの、現在は幾度とないゲルゼリアの軍事的協力によって均衡状態になりつつある。


 閑話休題、ゼルゲイドとアドレーネの会話はまだ続いていた。


「確かに、途中で何らかの補給が必要な距離です。この近くにこそ無いものの、侵攻ルート上ではいくら高空であれ、どこかしらの基地のレーダーに捉えられるでしょうから戦闘は避けえませんし」

「もしや、母艦があるのでは……」


 アドレーネは、ある一つの可能性に思い至る。

 途中まで母艦にAdvancerアドヴァンサーを格納し、それから発艦させて向かわせるというものだ。どこで発艦するかにもよるが、大抵は安全圏ぎりぎりまで運ぶ。


『何だと……』


 と、Mの不穏な呟きをシュヴァルリト・グランの無線が拾った。


「ゼルゲイド様、無線を」

「かしこまりました」


 すぐさまゼルゲイドは、Mに無線を繋ぐ。


「どうした、M?」




『先ほど入った情報です。クレイトン基地が、30分前に陥落しました』

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