聖なる夜に、贈りたい

一色 サラ

#01 クリスマスは何が食べたい?

 家具・インテリア用品を開発・販売事業を行っているTOMARAの本社で、経理部と社員として働いている相馬そうま 星也せいやは、仕事を終えて、エレベーターを降りて、仕事の疲れも相まって足取り重かった。

 自動ドアのガラスから、眩う光が差し込んでいるのが見えてきた。冬になって、陽が落ちるのがはやくなり、すでに外は暗くなっていたが、色鮮やかな灯りが、星也の疲れを少し癒してくれた。

 灯りに導かれるように、ビルの外に出ると、歩道の脇には植えられている木々から眩い光のイルミネーションが輝いていた。

 そう言えば、あと3週間で、12月25日のクリスマスがやってくる。子どもの頃は何故かクリスマスが近づくとワクワクして、楽しかった思い出が蘇ってくる。今年は、きちんと家族サービスでもしないとな。


玄関を開けて、リビングに入ると、眉間にしわを寄せて、妻の芽衣めいがテーブルに座ていた。

「ただいま」

「あっ、おかえり。ご飯の用意するね」

芽衣はテーブルから立ち上って、キッチンに歩いて行った。

「着替えてくるわ」

 リビングを出て、8歳になる息子の海璃かいりの部屋の前を通る。部屋の中で、今何をしているのだろうか。何も音漏れはないので、勉強をしているのかもしれない。海璃は私立の小学校に通っている。当時、芽衣からは何も相談されることもなく、決まってしまっていた。芽衣自身も小学校受験をしているので、息子にも受験させるのは当たり前のように、話は進んでいた。育児に対して、すべて芽衣に任せていたので、星也は口を出すことはなかった。


 33歳になって、芽衣と結婚して10年が経った。海璃が生まれて8年になる。この3人で、クリスマスを祝ったことは、今考えるとない。

 2年前はほどは、受験勉強で忙しかったのだろう。この時期には、家の中がピリついていて、帰るのが億劫で、よく外で飲んで帰って来ていた気がする。去年のクリスマスも、会社の同僚と飲んでいたかもしれない。それに今年はコロナウイルスの影響で、外で飲むことがなくなっていた。


「パパ、おかえり。ご飯の準備できたって」

ドアを開けて海璃が部屋に姿を現した。何も変わった様子はないことに安堵した。

「ああ、ただいま、すぐ行く」

「うん、分かった」

勢いよくドアを閉めて部屋を出て行った。少し笑えてきた。海璃の子どもっぽい態度に、どこか安堵が増した気がする。


 今年のクリスマスはどう過ごそうか。芽衣自身も、クリスマスを楽しめない人ではない。付き合っていた当時は、レストランで食事をしたり、鞄やアクセサリーをプレゼントを贈っていた。


「なんかあったの?」

リビングに入って、いきなり、芽衣は不思議そうに星也に言った。

「なんで?」

「海璃が、パパが服を着替えてなかったって言うから」

海璃を見ると、キョトンとした顔で星也を見てる。

「何のもないよ」

「そう、ならいいけど」

「なんか疑ってますか?」

「疑ってませんよ。さあ、食べましょう」

 テーブルに視線を向けると、湯気が出した寄せ鍋が出来上がっていた。コロナ禍で、皆でつつくような鍋にすることに、一瞬、驚いた。

芽衣が「これで、具材は取ってね」別に、お箸が用意していた。


クリスマスに何が食べたいかともし聞かれたら、チキン、ローストビーフ、ピザなどを食べて、最後にケーキを食べることがいいのかもしれない。


  ただ、星也が子どもの頃は、毎年、クリスマスは”すき焼き”が定番だった。だから、どこの家族も、クリスマスにはすき焼きを食べるものだと思っていた。

 


「いただきます」


芽衣に、今年のクリスマスにすき焼きをお願いしようかな。


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