第3話
「右翼。そこで止まれ」
『突破できますが』
「そこで待機だ。斥候を増やせ」
『了解。斥候を倍にします』
突破できるのが、まずおかしい。敵の反転攻勢を確認し、その上で背後から奇襲して包囲する策だった。反撃がないとしたら、どこかにまだ余力があるということになる。
戦場の中央。ひとまず、相手を誘い込むことはできた。おそらく、中央の相手は押し込みに成功したと錯覚しているだろう。嵩にかかって攻め寄せてくる。
包囲の基本は、敵数の三倍。全包囲はせず、必ず相手の逃げ道を作って、そこに追い込む。そして追撃戦に移行。
『左側。これぐらいでいいかな?』
「良い。斥候を増やせ」
『通常の倍にして四方に飛ばしてる。でも何も引っ掛からない。何かおかしいよ』
左側も、何か感じているらしい。
『わかんないんだよなあ。この、何か引っ掛かる感じ』
「押し返しては来ないのか?」
『押し返しては来てる。でも、なんか、層の厚みがないというか、守るために攻めてる感じ』
この局面。
こちら側のほうが、数は少ない。相手の3分の1程度。それでも、包囲はできる。
戦場を3つに分割し、その上で敵の中央を孤立させる。戦場全体では三倍差でも、中央という特定の場所に少数の相手を孤立させることで、真逆の三倍差が作れる。包囲もできるし追撃もできるはず。
『ねえ。これってさ。相手は何をしてくるの?』
「この場合だと、反撃してくるか逃げるかだ」
守りに入ることはない。すでに敵中央は攻め寄せていて、綺麗な方陣を作るには突出しすぎていた。右も左もこちら側が押している。
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