勝利する撤退戦

春嵐

第1話

「後ろに回れ。両翼は前線を押し上げて援護。中央は俺がやる」


『右翼了解。前線を押し上げる』


『左側了解。前押ししまあす』


 後ろに回る部隊の通信はない。傍受対策。


「さて」


 電子空間上に再現された戦場。

 よくある多人数参加型の戦闘ゲーム。しかし、官邸主導で開発された、軍人としての素質を見抜くためのゲームでもあった。

 血を見なくても戦える現代戦闘においては、銃を持って人を殺すよりも、電子空間で何かを壊すほうが才能として認められる。そして、戦争は数の論理を放棄し、才能と技術のせめぎあいへと変化していった。


「まるでゲームだな」


 そう。目の前の戦場のように。ゲームが戦場で、戦場がゲームになるかもしれない。


『おい中央。前押しさぼんなよ』


 左から通信。


「ちょっと策を練ってたんだよ」


『うそつけえ』


 ゆっくりと。歩き出す。


 電子の海の。戦場を。

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