第10話 「一応、おつかれさま」
気付くと、俺の腕の中でガドクラブの身体がボロボロと分解され、消えようとしているところだった。
時間にして数十秒と言うところ、俺はまた気を失っていたらしい。
「――ちょっと! シャドウ……起きた?」
ウサスケ君、ずっと呼び掛けてくれていたのか。
だが、ガドクラブを殴るために色々と無理をしていた上で、さらに数十秒も経過しているのはまずい。
「モゴゴゴゴゴッ」
なにしろ俺はトルーパーを出て海中に居るのだ。
しかも、光の差し込まない夜の海。
一瞬で前後不覚に陥った。
元々使い切っていたところに、下手に泳ぐものだからSPも尽きる。
SPが尽きれば体力がゴリゴリ消耗していく。
俺は海面を探してグルグルと回るが、そこで光を見つけた。
しめた、こちらに明かりがある。
そう思ったのだが、手に触れたものは小さなコンテナ。
海底にはきらきらと、数千個のコンテナが山になって輝いて見えていた。
――ちーん。
「はぁ? そこで死ぬの!?」
「――という訳で、ドロップをレックスに引き上げてもらった」
浜辺に遅れて到着したたまごは、ほぼ全裸が占める参加者たちの前でそう告げた。
基本的にエネミーの報酬は死んだ先にドロップするものである。
つまり、俺が死ぬ間際で見た海中のあれら全てが、今回の俺たちの報酬だ。
それを、責任をもって引き上げさせていただきます、とNPCの作業員たちを引き連れたレックスが言って、余った網と空母や鉄いかだを使って引き上げてくれたのである。
浜では参加者のうち悪乗りした数百人が木材など集めてきては、キャンプファイアーを模して火をともしていた。
千人以上が参加していたので、悪乗りをするにしても規模が大きくなる。
しかし改めて大人数だ。
その火の周りを利用させてもらって、クリスマスでツリーの山積みになったプレゼント箱よろしく、回収されたコンテナが積まれている。
コンテナの山の方が燃え上がる火の背丈より圧倒的に高いという大きな違いは有るものの、プレゼントを早く開けたいと順を追わず飛びついて叱咤されるのも、またお決まりだ。
「最後をちゃんとやらねえと締まらねえだろ、大人しく待っていやがれ」
と、たまごが珍しくもっともなことを言う。
たまごはウサスケ君と俺を名目上の主催として、巨大な焚き火を横に、集団の前に引き立てた。
俺たちは特に言葉も用意していなかったので、後はNPC達に任せることにする。
そこで、代表としてレックスが砂を盛った高台に立った。
「まずは御礼申し上げます。 ここにガドクラブが倒され、一号バベルは植民以来ずっと晒されてきた脅威を取り除く事が出来ました。 ナインスの皆さまのご助力あっての賜物だと存じます」
緊急クエスト・クリア!
討伐対象:千人将ガドクラブ・討伐完了
依頼主:第四開拓船団所属一号バベル 責任者:総督レックス
クエスト窓が言葉と共にその完了を告げた。
レックスは足元から小さなコンテナを一つ拾い上げる。
「では――お待ちかねの報酬を授与いたしますので、皆さま、一列にお並びください」
「「「授与式やる気かよ!」」」
「納得いかないんだけど……」
テンションの上がった参加者たちが焚き火を囲んで踊っているのを遠巻きに眺めながら、座って愚痴ったのはウサスケ君である。
ファーストアタックボーナスをかっさらって行ったのはイトメだったし、ダメージMVPボーナスに選ばれたのは名も知れぬ誰かだった。
最初に餌にされたイトメ、そして他人より少し多く弾丸ガニをガドクラブの口へ投げ入れた人、という人選になるのか。
「まあ、仕方ないよね。 俺たち今回は前半ずっと見てただけだから」
今回一番目立っていたプレイヤーは? とそう聞けば、俺たち二人を挙げる人も居てくれるとは思う。
しかし――システム上は評価されない項目ですから。
ウサスケ君の隣で俺は砂に転がった。
見えた空は曇り空が晴れて、星明りが浮かびだしている。
すると、それを倣ってウサスケ君も身を横たえた。
「そう言えば時間平気なの? 一応明日は休日だけどさ」
「手遅れ気味のヤバ。 もう諦めてるわよ」
ヤケクソで徹夜決行か。
まあネトゲだとよくあることだよな。
「じゃあこれ一緒に開けちゃう?」
手の内のコンテナをまだ二人とも開けていない。
周りがパカパカと開いて狂喜していると、逆に開けるのが勿体なく感じて、結局そのまま抱えてしまっている。
「んー。 やめとく。 なんか終わったと思ったらどっと疲れちゃったから今度に取っておこうかなって」
「じゃあ俺もそうしよう」
「はぁ、なんか真似されるとキモいんですけどー」
酷い言い様だ。
もう二戦も一緒に越えた戦友じゃないか。
そこに、踊りの集団を抜けてたまごがイトメを引き連れて寄ってくる。
ひどいホクホク顔だ。
「おう、二人ともお疲れな。 俺が見込んだ通りだったぜ」
「あはは、ファーストアタック貰っちゃってごめんね。 ゴチになりました」
燃え尽きてる俺たちは二人に手だけを振ってこたえる。
あっちへ行け、と。
「あ? こっちに来いって?」
わざとらしくズンズンとさらに近付くたまごに、イトメは毎度同じくヘラヘラと申し訳なさそうにしている。
まあ、ヴァリアントの連中には世話になったんだよなぁ。
「一応、おつかれさま」
一応ってなんだよ、と言われるが、振り回されたあてつけに決まっているだろう。
たまごは改まって腕を組む。
「まあお前らも数日中に宇宙へ上がると思うからな。 『一応』誘っとくわ。 ヴァリアントに来ないか? 歓迎するぜ」
「「お断りしまーす」」
即答かよ! と騒ぐたまご。
フフフ悔しがるが良い。
こんな風に使われると分かっていて、まだ入りたいと思う人は少ないだろう。
誘っておて、二人ともその返事が来ることは分かっていたようで気にしていない様子だった。
「うーん残念。 それじゃあ二人とも、気を付けてね」
何が? と首をかしげて見せると、二人は悪い顔をする。
「こんなに目立ったんだから、PK解禁されたら君たち、格好の標的だよ。 くれぐれも高級パーツ付けて外に出ない方が身のためだと思う。 というのもこれは僕の経験に基づいた話だから」
なにか思うところがあるのか、イトメは歯切れ悪くそう言った。
確かに、初心者がこれだけ目立った後でホイホイ外に出てきますと言うのでは、ちょっと
「はっ、返り討ちにしてあげるわよ。 アンタたちも覚悟して置く事ね」
流石、ウサスケ君は不敵にそう答える。
しかしなんだろう。
アンタたち、に俺も含まった視線を投げられているような……。
ひとしきり余韻を語っていると、水平線に光が差してきた。
もう日の出か……と、しみじみとした趣を感じるが。
――ちょっと待ってほしい。
しばらくカミハラの反応がまた消えているわけだが。
一応彼女の仕事場でVR機器を使わせてもらっている身として、こんな明け方まで使っている俺はヤバいのでは?
確実にまずい。
非常に今後に響く可能性が高い。
「それじゃ……俺はそろそろお
三人は意地悪く笑って、揃って海中を指さす。
コンテナ回収コマンドで引き上げられるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます