第119話 ティラ 〈父に相談〉



ああー、終わったぁ!


札が足りなくて持ち主に返し終えていなかった最後の盗品に札を貼り、それが消えたのを見て、ティラは大きく伸びをした。


同じ作業を延々としていると、精神的に疲弊しちゃうな。


両親が手伝ってくれると思ったのに、忙しいと断られた。


確かに忙しいふたりだけどさぁ。少しくらい手伝ってくれてもいいと思うんだよね。


それでも母は、魔道具の札を必要な分だけ作ってくれたのだ。感謝してる。


さて、これはどうするかな?


受け取り手のない品がけっこう残った。父は残るものがあれば貰っておけばいいと言ってたけど……


これはなんなのかな?

小さな箱なのだが、仕掛け箱らしく開けられない。無理してこじ開けようとすれば、箱が壊れそうだ。これは父さんに見てもらうかな。


それと、これはなんだろう?

厚地の紙が巻いてあり、紐で括ってある。

紐をほどいてみたら、地図のようだった。


どこの地図かな? 染みがついてるし、こいつはかなり古いな。丁寧に扱わないと、ボロボロと破れてしまいそうだ。


で、こっちはなんだ?

手で持てるくらいの瓶だ。コルク栓で蓋がしてある。表面はつるつるしてるけど、瓶は曇っていて中身はよくわからない。

こういうものは不用意に開けるべきではないから、これも父さんかな。


あとまだいくつかあって、魔道具なのはわかるがどういったものなのかはわからない。


あれっ、カギがある。こんなのあったっけ?


「ずいぶんと古びたカギだねぇ。けど、これも魔道具っぽいな」


用途不明の魔道具とカギはひとまとめにして袋に入れ、ポーチに放り込んだ。

仕掛け箱と巻いてある紙と瓶は手に持ち、ティラは父のところに向かった。




「ふむ」


仕掛け箱を手に持ち、父はじっと見る。


「開け方がわかる?」


「これは必要な時に開くのさ」


「必要な時っていつ?」


「それは必要な時が来た時だな」


「はあっ?」


「お前が持っているといい。で、これはなんだ?」


今度は巻いた紙を開いてみる。


「ふむふむ」


「宝の地図だったりしない?」


そうならいいなという思いを込めて、ワクワクして尋ねる。


「ふーむ。これもお前が持っているといい」


「父さん、この地図がどこの地図かわかったんじゃないの?」


「さあ、どうだろうねぇ」


父は含み笑いをするばかりで、教えてくれない。


絶対、なんの地図かわかったんだ。


「教えてくれればいいのに」


「で、その瓶は強烈な呪いが封印付きでかかっているな」


「だよね。そんな感じ。開けない方がいいよね。これは父さんに預けるね」


「いや、それもお前が持っていけ」


「ええーっ、呪いの瓶なんて持ち歩くの嫌なんですけど」


「お前は、いっぱしの冒険者なんだろう?」


「なかなかランク上がらないけどね」


そう言ったら、父は眉をくいっと上げる。


「ランクなんてもの気にするのか? 気にするべきは冒険者の質ではないのか?」


「だって、ランクが上がらないと依頼に制限がかかるんだもの」


「キルナくんやゴーラドくんの受けた依頼を一緒にやれてるじゃないか。問題ないようだが?」


それはそうだけど……


「ソーンさんに負けたくないの。すでに追い越されちゃったし」


「ふむ。ソーンくんは、そんな勝ち負けを気にしてるのか?」


い、痛いところを強烈に突かれましたぁ!


ティラはため息をついた。


「してない。ちょっと反省した」


「そうか」


父と話したら、気持ちがすっきりした。

そうだよね。ランクなんて気にするのはやめよ。


「父さん、見てくれて、ありがとう」


持ち込んだ三つの品をポーチにしまったティラは、父に礼を言って背を向けた。


「ティラ」


「うん?」


「その瓶、精霊が入っているぞ。たぶん妖魔の仕業だ」


「ええっ? なら、出してあげなきゃ」


「ここでは無理だ。呪いと封印の解除に失敗すると精霊は消滅してしまう」


「父さんなら、救えるんでしょう?」


「まあな。だが、お前がやってみろ」


「できると思う?」


「思ってなきゃ、やれとは言わないな」


その通りか。


「いまのティラは、頼りになる仲間もいる。どうしても無理だったら父さんのところにもう一度持ってこい」


「わかった。頑張ってみる」


「慌てる必要はないからな。精霊は眠っているし、苦しんでいるわけじゃない」


それを聞けてほっとした。そうでなければ、父はティラに頼むことはしなかっただろう。


「それと、トッピ、そろそろ出してやれよ」


あっ、そうだった。忙しかったんで、すっかり忘れてた。


「父さん、トッピが魔核石の壁を食べて、巨大な卵を産んだんだけど」


「見せてくれ」


ちょっと二や着きつつ卵をポーチから出す。

天井を突き破るかと思うほど巨大な卵だ、さすがの父もこのでかいのには驚くと思っていたのに、そうでもなかった。つ、ま、ら、な、い……


「なんだ、質はイマイチだな」


「役に立たない?」


「父さんはいらないな」


そっか……そうだ、キルナさん達に見せるっていったのに忘れてたな。


「キルナさんとゴーラドさんも見たがってたから、もう一度持ってくわ」


「ゴーラドくんに貸している槍で突いて吸収しろ。始末するのに手っ取り早いぞ」


ほほぉ、いい情報をいただけたな。


「わかった」


巨大な卵をポーチに戻し、ティラは自室に引き上げることにした。すると、途中で母に呼び止められた。


「ティラ、これ明日持っていきなさい。聖緑花の種よ。あなたが今日伐採した空き地に蒔いてあげなさい」


「わあっ。ありがとう」


聖緑花は、害虫除けの花なのだ。この花が咲いていれば、もうキーピルが巣を作る心配はなくなる。さすが母さんだ。気が利くねぇ。


「さあ、そろそろ寝なさいよ。明日の朝は、種まきもあるし、少し早く出発した方がいいわね。歯磨き忘れずにね」


「はーい。お休みぃ」


聖緑花は、明け方に撒くのが基本だもんね。


受け取った種を手に、ティラは自室に戻ると、しっかり歯磨きをして、お日様の匂いのするふかふかの布団に潜り込んだ。


目を閉じたティラは、キルナさん、ゴーラドさん、ソーンさんがいい夢を見ていますようにと祈りながら、眠りに落ちたのだった。





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