第14話 ティラ 〈+5になりました〉



「まああっ、美味しいわ」


魔鼠のあぶり焼きを、かなり恐る恐る口に入れたものの、女の人は咀嚼した後、驚きとともに叫んだ。


だよねぇ。


「ほんとに?」


別の女の人が、不安な顔をしつつも、えいっとばかりにあぶり焼きを口に頬張る。

そして……


「お、美味しい! な、なんなのこの香ばしくて……ああ、この味を表現する言葉がでてこないわ」


そのあと女の人たちは全員順番に口にしていき、みんな感激の声を上げた。

しかし、男の人たちはまだ誰ひとりとして口にしていない。眉をひそめたままだ。


「よ、よし。わしにもくれ」


意を決したように村長が前に出てきた。

そんな村長を見てくすくす笑いながら、すでに試食を終えた女の人が村長にあぶり焼きを手渡す。

村長さんはかなり長いこと思案していたが、ついに口に入れた。


そして、お決まりの「うまいっ!」の言葉をもらう。

それでようやく、男の人たちも食べ始めた。

そんなわけで最終的に、魔鼠の試食は大盛況のうちに無事終了となった。


あぶり焼きだけでなく、汁物とか炒め物とか色々作ったんだけど、全部完食。

魔鼠退治の薬も十分な量を分けてあげた。


あの食糧庫の魔鼠は退治してしまったけど、この村にはまだまだいっぱいいる。

気を付けてさえいれば、繁殖力は強いし、食い尽くすことはないだろうと思う。


依頼達成の銀貨五枚は辞退しようとしたのだが、どうしても受け取ってほしいと言われて、結局もらってしまった。なので、買い取らせてもらった魔鼠の代金に、ちょこっと色を付けさせてもらった。




「そのポーチは、どれだけ入るんだ?」


そんな問いかけをもらい、ティラは横を歩いているキルナを見上げた。


「かなり入りますよ」


「かなりとはどのくらいだ?」


「うーん、どのくらいと言われても……」


「つまり、限界まで入れたことがないのだな?」


「はい」


「私のこれも、魔道具なんだが」


キルナは自分の腰に下げた黒いウエストポーチを見せて言う。

なんだこの人も持ってるんだ。


「たが、そんなに容量はでかくない。自分の身の回りのものを入れたらパンパンだ」


「そうなんですか」


「高いからな。このサイズを手に入れるのが精一杯だった。それにあまり出回らない希少品だからな」


そこまで語ったキルナは、ティラのポーチを見つめて笑みを浮かべた。


「そんな魔道具を、どうしてお前のような娘が持っているのか、気になるんだが」


ああ、キルナさん、それを知りたかったんだな。

それにしても、この類の魔道具が、あまり出回らない希少品だとは知らなかった。


お使いをするので、母がこの服と一緒に、新しいのを揃えてくれたんです。なんて本当のことを言ったりしたら、キルナさんはどう思うだろう?


ここはうやむやに話を逸らした方がよさそうだ。


「あのお、魔道具の袋がそんなに出回っていないのなら、冒険者の人たち、狩った魔獣をどうやって運ぶんですか?」


「申請すれば、ギルドで貸し出してくれるんだ」


「ギルドには貸し出せるほどあるんですか? 希少品なのに?」


「ああ」


「でもそれだと、自分のものにしちゃう人が出てきたりするんじゃないですか?」


「それはない。ギルドを敵に回す冒険者はいない。冒険者一転、犯罪者に認定されて、今度はギルドと冒険者に追われる身だ。そんな愚かな真似をする輩はいないさ」


話に聞くと納得だ。



それからギルドに行き、村長さんから受け取った依頼達成の証明書を提出する。


受付は書面に目を通し、「ご苦労様でした」とねぎらい、さらに「魔鼠退治の成果を評価して、ティラさんのランクはFランク+5となります」と告げられた。思わず目を見開く。


「+5ですか?」


「はい。魔鼠は厄介な小魔獣です。それをソロで依頼達成できたのですから、高く評価されます」


うわーい!


ティラは喜び勇んでギルドの休憩室で飲み物を飲んでいるキルナのところに戻った。


「キルナさん、やりましたよ。もう+5になれちゃいました」


大喜びで報告したら、頷きながら頭を撫でてくれた。

まだまだ駆け出しで上は遠いけど、それがまた頑張りの糧になるのだ。




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