第11話 ゴーラド 〈依頼だ依頼〉


採取場所までやって来て、ゴーラドは周りを確認してみた。

林の中ということもあり、ティラがどこいるのかわからない。

賭けに乗った男たちも探しているようだ。


すると、数人で固まっていた男たちが「「「わわわっ!」」」と喚いてひっくり返った。


なんだ、どうしたんだ?


驚いていると、いつの間にやらティラがいるのに気づいた。彼女は十メートルほど離れた場所で無様にひっくり返っている冒険者を見つめている。


男たちは面食らい、かなり動揺しているようで、誰もすぐには立ち上がらない。ゴーラドは急いでティラに駆け寄った。


「お、おい、あんた」


声をかけると、背を向けていたティラが振り返ってきた。


「あっ、さっきの」


ゴーラドの顔を覚えていたようだ。


「なあ、いまのは?」


「いまのって?」


小首を傾げて聞き返される。


「だから、その……あいつらを転がしたのはあんただよな?」


「転がすつもりはなくて……それにぶつかったりもしなかったはずで」


ティラは困ったようにブツブツ言っている。


「いや、別にあんたのせいとか、考えなくてもいいと思うが」


鍛えぬいた冒険者たちだ。こんな娘に転がされたなんて、恥ずかしくてとても口にできまい。


「そ、そうですか? なら、もう行ってもいいんでしょうか?」


「ああ」


ゴーラドの返事を聞き、ほっとしたらしい。

ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとする娘を、ゴーラドは引き止めてしまう。


「もうギブアップするのか? もう少し頑張ってみたらどうだ?」


さすがに諦めが早すぎると思うんだが。


「採取ならもう終えましたよ」


「は?」


そんなわけあるか、採取する時間なんかなかったはずだぞ。


「ラッサ草、三十本。これって、痺れを緩和するんですよね」


腰に下げたかわいらしいポーチから、ティラはラッサ草を取り出して見せてきた。

まさかもう採取を終えているとは、それを見てすら信じられず、ゴーラドは言葉を失くした。


だが、確かにラッサ草だ。しかも、とても綺麗に束ねられている。


「お、おい、いまのはなんだったんだ?」


ついに男どもが騒ぎ始めた。こりゃ、まずいな。


「あんた、終わったってんなら、さっさとギルドに戻りな」


ゴーラドはティラを急かす。


「いいんでしょうか?」


「いいんだ。ほら、いいから行け」


もちろん、ゴーラドもすぐにティラの後を追うつもりだ。

受付での報告を見届けたい。


「それなら……」


頭を下げ、ティラは駆けだしていく。


しかし、さっきのはいったいなんだったんだ?

首を捻りつつ、ゴーラドはティラの後を追ってギルドに向かった。



◇ ◇ ◇


「た、確かに……合格です」


受付が判定を伝えているところに、なんとかゴーラドも居合わせられた。走り続けて戻ったので、かなり息が切れている。

ほんの少しの差で、ギルドに戻ったティラは、なんと息切れ一つしていない。


なんなんだ、あの娘っ子は?

見たとこ普通の娘としか思えないのに……実は、まったく普通ではないってことか?


「あの娘、絶対魔道具を使ったんだぜ」


「ああ、俺もそう思った」


賭けに負けたやつらが、口惜しそうに口にしている。


魔道具か。

高価すぎるし、あの娘がそんなものを持っているというのは信じがたいんだが、そう考えるのが一番納得できる。

もちろん、魔道具は禁止されているものではないので、それを使って試練を成功させたとしてもなんの問題もない。


まあ、そうか。魔道具を使っていたというわけか。

だが、賭けは賭け。


そんなわけで、娘は無事冒険者の仲間入りを果たし、キルナには大量の大銀貨が手渡されることとなったのだった。


そしてゴーラドの懐からは、大事な大銀貨が一枚消えてしまった。


こんな賭けに、負けなしと信じ込んで乗ってしまったのだから、自業自得なのだが……痛い出費になってしまい、顔が歪む。


散財してる場合じゃないってのに、俺ときたら何やってんだよ。

自分の頭をぶん殴ってやりたいが……そんなことより、依頼だ依頼。


ゴーラドと同じに大銀貨が飛んで行った連中も、依頼に殺到している。ゴーラドはそんな連中を眺め、苦笑いしつつ掲示板に歩み寄って行った。


ティラにはキルナが付き添い、Fランクが受けられる掲示板の前に移動し、さっそく依頼を探しているようだ。


どんな依頼話受けるんだろうな? 気になるが……俺は俺だな。


真剣に掲示板に張られた依頼を物色していたゴーラドは、トードルの卵の依頼に目をつけた。

少し遠いが、以前受けた依頼でトードルの巣を見つけている。トードルは巨大な魔鳥だが、ずっと巣にこもっているわけではない。留守を見計らえば、卵をゲットできるだろう。一個でなんと金貨一枚。悪くない依頼だ。よし。


「おっ、ゴーラド。ここにいたのか」


突然肩を叩かれた。馬鹿力のニルバだ。


「力加減ってのを知らないのかよ? 肩の骨が折れるかと思ったぞ」


「何言ってやがる。Aランクの強者ともあろう者が」


ガハハと豪快に笑う。やれやれ。


「ゴーラドさん、この依頼一緒に受けてくださいよ。ゴーラドさんが加勢してくれたら、昼までに終われます」


年下のミーティーが頼んでくる。同い年のニルバと違い、礼儀正しい。

このふたりはパーティーを組んでおり、幼馴染ということもあって戦いの連携も巧い。


ニルバは斧使い、ミーティーは風と水魔法を操れる魔法使いだ。

自分はたいした腕じゃないとミーティーは謙遜するが、魔法になど縁遠いゴーラドにすれば、使えるというだけで十分凄いと思う。


「依頼主の村の近くに魔狼が八頭ほど住み着いてるようなんですよ。それを退治するだけです。ちょっと数が多いんで、ふたりだとさすがにね」


八頭くらいなら、三人でやれば問題ないだろう。依頼料は一頭につき、銀貨四枚。すべて討伐できれば、さらに上乗せして大銀貨四枚ってことらしい。賭けで消えた大銀貨を取り戻せると、ありがたく参加させてもらうことにした。


受付で依頼を受け、ゴーラドはふたりと一緒にギルドを出た。

ついでにトードルの依頼の方も申請しておいた。こちらは昼飯を終えて一人で行くつもりだ。


ニルバたちも誘ってみたが、遠すぎるし険しい山登りなどしたくないそうだ。


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