第6話 ティラ 〈漆黒再登場〉
なんでこの人、また現れたの?
仁王立ちで睨んでるし。意味が分かんないんですけど……
「えーと、なんですか?」
睨まれっぱなしなので、こっちから恐る恐る尋ねる。
するとその人は、まるで自分をなだめるようにひとつ息をつくと、隣に座り込んできた。
な、なんで座るのぉ?
「説教をしなきゃ、気が済まない」
「は、はいーっ?」
な、なんで説教?
「いや、もういい……。ところで、用事はもう終えたのか?」
「まだですけど」
「そうか。なあ、お前、魔道具は持たせてもらえるのに、町の食堂で昼を食べる金はもらえなかったのか?」
この人、勝手に想像したことを事実と認識して話してるよね?
かなりのせっかちさんなのかな?
まあ、悪い人じゃないのはわかるけど。
わたしのことが気になって、放っておけなくて、お節介をしたくなるんだろうな。
「今後のために教えておくが、町の広場で弁当を食べるなんて行為、若い娘のすることではないぞ」
えっ?
「この広場でお弁当を食べてはいけない決まりなんですか?」
「決まりがあるわけではないが……」
それを聞いてほっとする。
「よかったぁ~」
まあ、決まりではないけど、この町では誰もやらないってことか。
「次からは気を付けます」
お使いは、これからちょくちょくやらせてもらえるだろうからね。
素直に頭を下げたのが功を奏したようで、漆黒の美女さんが少し微笑んだ。
うわおっ、笑うとさらに美女度が跳ね上がるね。
「あの、あなたは冒険者なんですよね?」
「ああ」
だよね。わざわざ聞くまでもないんだけど。
スキル付きの高性能の防具を身に着けてるし、これまたスキル付きの質のいいマントもつけてる。そして腰に下げた剣は、ずいぶんと見事だ。
こう言ってはなんだけど、こんな人が帝都から離れた辺境の地ともいえるマカトの町にいるのが、ちょっと不思議。
「パーティーは組んでいないんですか?」
この人のパーティー仲間ならば、同じくらい凄い人達だろうな。
「私はソロだ」
へーっ、女性の冒険者でソロかぁ。
たぶんかなり珍しいよね。けど、納得だ。めっちゃ強いもの、この人。
会話をしている間に、ティラは弁当を食べ終えた。空っぽになった弁当箱に向け、「ごちそうさまでした」と頭を下げる。
「面白い娘だな」
くくくっと笑われ、ティラは首を傾げて漆黒の美女さんを見る。
「何が面白いんですか?」
「何がじゃなくて、全部だな。それより、食べ終わったなら行くぞ」
漆黒の美女さんが立ち上がる。
ティラは眉をひそめた。
行く?
「あの、わたし、お使いの用事があるので、これで失礼します」
慌てて立ち上がり、そそくさとその場を後にしようと思ったのだが、腕をがっちり掴まれた。振りほどいて逃げられる感じじゃない。逃げようと思えば逃げられるだろうけど、とんでもなく面倒なことになると分かる。
この人の、腕を折る覚悟でやらねば逃げられないよね。もちろんそんなことはできないわけだから、結果逃げられないってことになる。
困りあぐねていたら、「その用事とやらを終えるまで、私が付き添ってやろう」なんてことを、漆黒の美女さんは言い出した。
「は、はい? な、なんでですか?」
「危なっかしいからに決まっているだろう」
「そんなことはないてすよ」
と言ったのだが、耳に入れてくれず、話を続けてしまう。
「時間が遅くなるようだったら、お前の家まで送っていってやろう。ああ心配はいらない。護衛の費用を出せなんてつまらないことは言わない」
「いえ、そんな必要はないので。わたし、ひとりで大丈夫ですから!」
強く言うも、「遠慮することはない」ときた。
いやいや、これはもう余計なお節介でありますよ。
初めてのお使いだっていうのに、人に手伝ってもらうとか、あり得ないし。
だが、いまだ名も知らぬ漆黒の美女さんは、ティラの腕を掴み、勝手に引きずっていく。
なんでこんなことになっちゃったのぉ?
お弁当なの? お弁当を、あんなところで食べたのが悪かったの?
もうジタバタしても無理だと観念し、ティラは素直に引きずられていくのだった。
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