第12話 星を騙る
屋敷内の客間で一夜を明かしたクロードは窓から差し込む陽光で目を覚ます。
ふと窓の外を眺めると、エルドと村民が何かを話し合っていた。
興奮した様子の二人を見る限り、凡そ話の内容は「川の水が元に戻った」というものだろう。
(上手くいったか)
第一の課題が問題なく終わった事に自然と笑みがこぼれる。
占星術師クロを名乗ったクロードであるが、当然彼に占星術の心得など無い。
さも占いに使用したような小石も全て適当に道端で拾っただけのガラクタである。
「ん……」
バタバタと部屋の外から聞こえてくる足音に上がった口角を下げ直す。
ばたんと大きな音を立てて入ってきたのは興奮した様子のエルドだった。
「クロ様!」
「あぁ、おはようございます」
「ありがとうございます! 今しがた川の水が元に戻ったと村民から報せを受けました……! 貴方様はこの村の恩人でございます!」
「それは良かった。 私はただ解決策を示しただけです。それを実行し、解決したのは他でもないエルドさん達ですよ」
あくまで謙虚に、作り笑顔を貼り付けながら優しく話す。
「これからは怒りを買わないように気をつけた方が良いでしょう。 一度目は簡単な儀礼で済みましたが、もし同じ呪いが掛けられたならもっと重い代償が必要になりますから」
「はい……! もうこのような事が起こらぬようにしっかりと村民たちに言い聞かせておきます!」
「そうですか。 それでですね……傷の治りが思いの外遅いのでもう暫く此処に置いて頂いても良いですか?」
「勿論でございます! このような村で良ければいくらでも……」
「ありがとうございます」
何度も頭を下げながらエルドが部屋を出ていく。
もうすっかりクロードの占星術を信じきっているようだった。
一人になったのを確認するとクロードの表情が元の冷たいものへと戻る。
「くだらない……家畜の殺処分程度で呪いが掛かるわけないだろ」
小さく嗤いながらベッドに仰向けで寝転がる。
クロードが話した呪いというのは真っ赤な嘘であり、川の汚染の原因は実にシンプル。 上流の水源にスライムが群れを作っているだけに過ぎない。
村に入る数日前、クロードは道端で捕まえた多数のスライムを水源へと放った。
スライムという魔物は基本的に遠くへ移動することはなく、ごく限られたテリトリーの中で狩りを行い巣で群れの仲間と食事をする。
餌を食べれば当然排泄をし、その濁った魔力を持った排泄物が川に流れれば人体に有害な水の出来上がり、という訳だ。
川が元に戻ったのはクロードの置いておいた獣の死骸をスライム達が食べ尽くし、新たな餌を探すため一時的に水源から離れたに過ぎない。
(……しかし、こんなに簡単にいくとはな)
当然、ただの旅人が呪いだと騒いだ所で相手にされるとは考えにくい。 そこてクロードが選んだのが占星術師という偽りの身分だった。
自身の秘密を言い当てるような占星術師が相手であれば呪いという説もある程度の信憑性を帯びる。
ではどうやって知識もないクロードがエルドの秘密を言い当てたのか……だが、クロード自身は当然エルドの秘密など知りもせず、占いで見えている訳でもない。
クロードがエルドに伝えた占いの結果はどれも「誰にでも当てはまるような曖昧なもの」でしかなかった。
(誰にだって人に言えない秘密はあるし、嫌われたくない感情や自己批判精神はある。一瞬だけでも動揺させられれば色も本人が勝手にこじつけてくれる)
同様に「生き物を傷つけた人間」も、冷静に考えれば万人に当てはまる事である。
家畜の殺処分、屋根裏のネズミ退治、飛んでいたハエを叩いた……思い込みさえあればそんな些末な事が呪いの元凶に見えてくる。
それらを組みあわせてさも呪いを解いたように見せるだけで良かった。
「さて……ここからだな」
既に村の最高権力者の信頼は得た。
少し待てば餌を得たスライム達が再び水源へも戻ってくるだろう。
再び川が汚染されたとなれば、恐らく――
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