紅月の花園で
あまね ライチ
エピソードONE
「今、大人気アニメの "優しさのかくれんぼ"のグッズ販売が先週開始され、わずか2日で完売。人気の秘訣は、演者にありました」
テレビで流れてくる人気情報。
「声優さんから好きになりました」
「声優さんがカッコ良くてw」
よくあるQ&Aインタビューに答える人達は、皆口を揃えて言う。声優が最高、と。
「イトナ」
「イトナちゃん」
「イトナ騎士」
それぞれの口からは、聞きあきるほど同様人物の名前が出る。
「イトナ?一体誰のことかおわかりですよね。そう。主人公LaLaの声優を務める、イトナさん。さっそく我々は、今話題のアニメの主人公に密着取材してきました」
よくやるなあ。そんな事したって、なんの需要もない。本人の株は上がるが、本人は疲れるし、取材する側は楽しくないだろう。
「ねえ見てみて!!姉さん出とるよ!やっぱさすが声優!!」
うるうるした目で嬉しそうに言ってくるのは、私のいとこの香月 (かつき)。
「うるさい香月。テレビに出たくらいではしゃぐな」
「だってだって!!姉さんのインタビューだよ!?今人気の声優、イトナ様。本名、忠 純雫が声優だよ!?ああああああ(泣)僕の姉さんがああああ(泣)」
(泣)ってなんだ。泣きすぎではないか?
「うるさい香月。テレビが聞こえない」
香月に1発喝を入れ、テレビを見る。
「初めまして。LaLa役を演じております、イトナです」
テレビからは嫌な声が響いている。
「え!?女性なんですか!?すみません。てっきり男性かと」
「いえいえwよく間違われますよw」
今考えたらこの取材者、失礼だろう。一言目が、"女性なんですか!?" って。私だったからよかったものの、他の声優だったらどうだったか・・・。インタビューを受けている時は、私もさほど気にとめなかったが。
あ、もうおわかりかもしれないが、その声優とは私の事 (言ってみたかっただけ)。
「それにしてもイトナさん。顔出しされないんですか?」
「ええ。一切しませんね。声優は顔でお仕事している訳ではありませんし。美男美女関係ないでしょうから」
この時の私はすごく我慢していた。この取材者の失礼さを。
「では最後に、テレビの前の人達に一言お願いします!」
「君がどこへ消えても、探し続けるよ。君のためだけに・・・」
「うわぁ!素敵ですね!イトナさん、お忙しい中ありがとうございました」
そうして、人気情報のコーナーは終了した。
「姉さん・・・」
香月が浮かない顔をする。
「どうした?何かあったか?」
香月は首をフルフルと横に振った。
「姉さんは、いつも頑張ってるよね・・・なんでそんなに頑張るの?」
香月は、寂しそうな顔をしている。
「喜んでくれる人がいるから。私の言ったセリフを、まるで神様からお告げされたみたいに嬉しそうにはしゃいでいる人達の姿を見て、あ〜、自分の居場所ここなんだ、って気づいたから」
香月は首を傾げる。
「そっか・・・そうなんだね。姉さんらしいね!」
香月はまた満面の笑みを見せた。その笑顔は、なんだか寂しそうで、切ないような顔だった。
「あ、やばい・・・」
香月が椅子から立ち上がった。
「どうしたwまた何かあったのか?」
香月の顔が青ざめる。
「今日僕・・・日直だったんだ・・・遅刻したら反省文・・・」
思わずプッと吹き出してしまった。
「もう行くね!あ、姉さん、ゆっくりでいいから朝ごはんしっかり食べてから学校来るように!遅刻してもいいから絶対食べる!あと、できるだけ走らない!転けたら姉さん怪我しちゃう!それから・・・」
「はいはいwわかったw行ってらっしゃい香月」
うるさい香月を急かす。
「もう!・・・やば!行ってきます!」
香月は自転車に乗ってペダルをこいで行った。
さてと。私も学校へ行く準備をするとしようか。
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