希望工場
晴れ時々雨
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ドアの前に長蛇の列ができている。並んでいるのは私にそっくりな人だった。何の順を待っているのか声をかけなくとも最後尾の私が教えてくれた。
「『彼』の精巣が満タンになるのを待って、それを注いで貰う順番を待っている。並ばないともらえないし、私たちの隙間にぴったりはまるのは彼の精子だけだからだ」
私工場の経営者はなんでこんな施設を作ったのだろう。
私のクローンたちは迷いなく開いたドアへ入ってゆく。扉の向こうには艶めかしくベッドに横になった彼がいる。順番の来たクローンは嬉しげにドアへ消える。
やめてくれ、私の顔でそんなに素直に彼を求めるなんて。おまえらなんか所詮偽物じゃないか。オリジナルを差し置いて容易く本心を口にするんじゃない。
「だからだよ」
無数のクローンたちは私と瓜二つだったが、そこだけ遺伝子操作して製造されているという情報が脳内に伝達されてきた。
「私たちはね、あなたの希望」
そういって列から離れて私の頭を撫でる。
「ここではあんたの方が異端なんだから並ばないんなら大人しく指を咥えて見てな」
「大丈夫だよ。だからあなたは表で充分苦しんでおいて、私たちのぶんも」
彼の精子をもらった子たちはどうなるのだろう。少しはマシになるのだろうか。
「誰も知らないのよ。このドアは一方通行だから。でも心配しないで。私たちが本当にやりたい事をやっているのは間違いないから」
愚かなほど一途にドアの前に並ぶ私の行列を見送り、ここから出たら、彼にもう少しだけ素直になってみようと思った。
希望工場 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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