第3話:壊れた心
彼女は小学校では成績が優秀だった。しかし、それは彼女にとっては何の意味も持っていなかった。彼女は良い成績を取らないと正座か食事抜きになるのだった。そのため、頑張ってでも良い成績を取らなくてはいけないのだ。ただ、彼女は良い学校に行きたいとは思っていなかったため、何のために勉強しているのか分からなかった。そして、いじめられていることで自尊心を失い、自己肯定感も次第に低くなっていった。彼女は成長と共に自分に自信を持てなくなり、体をかきむしる、髪の毛を抜く、腕に傷を作るなど自傷行為が始まっていった。
そして、次第にストレスからホルモンバランスが崩れていき、肌荒れなども始まっていった。彼女は学校に行くことも辛くなっていき、ついには学校を休むようになってしまった。担任の先生は突然学校に来なくなった美菜子を心配していた。担任の先生も「あの時にきちんと話を聞いてあげるべきだった。」や「彼女を追い詰めてしまった」と自責の念にかられていた。
そのまま、彼女は学期の終わりまで学校に来ることはなかった。担任の先生は毎日1つ空いた席を見る度に「守ってあげられなくてごめんね」と心の中でつぶやいていた。
一方、家から出られなくなってしまった美菜子は一日中ずっと自分の部屋にこもったまま夏菜子が帰ってくるまで出てくることはなかった。夏菜子も部活があったため、ほぼ毎日帰ってくるのは6時過ぎだが、部屋の電気は真っ暗のままで美菜子はベッドの上で天井を見ていた。
夏菜子が帰ってきても一言も話すことはなかった。母親も彼女が全く話さなくなり、ご飯も食べられなくなることが増えていたことが気がかりになっていた。そこで、母親は担任の先生に電話をして聞いてみることにした。すると、彼女がいじめを受けていたことやかなり思い悩んでいたのではないかという話をされたのだった。母親は「何故その話を早くしてくれなかったのか?」と担任に対して詰め寄った。すると、担任の先生が「美奈子ちゃんの異変を感じて何度か話をしても何も話してくれなくて、事実が分からなかったため、お伝えできなかったのです。」と申し訳なさそうな口調で話していた。
彼女も彼女なりに頑張っていたのだろうが、おそらく心が完全におかしくなり、自らの殻にこもってしまったのだろう。今も彼女はどこに向かうべきなのかわからない。1度いじめを経験してしまうとまた何かされたらどうしようという不安からくる恐怖が彼女の背中を引っ張っている。母親もいじめを受けたことはあるが、彼女のように追い込まれるような経験をしたことはなかったため、母親も彼女の状態を知る事は難しかった。そのため、彼女をなんとかして学校に行かせようという考えやなんとかして良い成績を取らせようと思うことはなかった。
ある日のことだった。今週末は久しぶりに家族全員が休みで家にいる日があった。しかし、父親はどこかに遊びに行こうとも言わない。なぜなら、俊輝に欲しいものを買いに行かせるために自分と俊輝は買い物に行くことだけは決まっているようだった。
弟が中心の生活になったことで姉たちは不満が溜まっていた。理由は簡単だ。なぜ、私たちとここまで待遇に差があるのかと言うことだ。実は姉もここ最近はいじめを受けていて、学校に無理して行っていたのだ。それを知った母親は「それは先生に相談したの?」・「誰か助けてくれる人はいないの?」といきなりの告白に頭が真っ白になり、かなり取り乱しているようだった。
姉は部活動でバスケットをやっていて、県の強化選手に選ばれるような選手としても有名だった。ある日、彼女は強化選手が集められる合宿に招集され、部活動を1週間休んだ。すると、翌週に部活に行った際に彼女が着替えるために彼女のロッカーを開けると、中に置いておいた私物が無くなっていた。彼女は合宿前日に荷物を取りに来た際に鍵を掛けることを忘れてしまった。その後、懸命に思い当たる場所を見ながら自分の私物を探した。そして、更衣室の隅に目を向けると全て大きな袋に入れられた身に覚えのある私物があった。そこには“退部者放置物”と書いてあり、彼女のロッカーに入っていたものが全て入っていた。そこは部活動でゴミを出す際に収集日まで置いておく場所だった。彼女は唖然としてしまった。なぜなら、あんなに楽しく部活動をしていた仲間に裏切られたのだからそう思うことも無理はない。これは部活だけでなく、クラスでも同じことが起きていた。1度目は2ヶ月前に彼女が体調を崩していて、貧血を起こして倒れてしまい、保健室に行った隙に男子がいたずらをして彼女の机に落書きをしたのだった。内容は“ブス”・“マッスル・ガール”など彼女を否定するものもあったが、衝撃だったのは“○○のお母さん”という落書きだ。彼女は身に覚えがなく、困惑していた。というのは、彼女は誰かと付き合ったこともないし、子供を身ごもったこともない。なぜ、私にこんなことを書かれるのだろう?と思った。実は、この情報は全くの嘘だった。しかし、元を辿っていくとその相手が彼女と仲良くしていた男子だったため、好きだった女子などから誤解されたのだろう。そう思っていた。
もちろん、まだ中学生だったため、退学などはさせられないし、実際に子供が生まれたとしても育てることは難しい。ただ、彼女は子供も身ごもっておらず、彼とも関係を持ったことはない。いわば、“巻き込まれた”形だ。ちょうど同時期に夏の花火大会に一緒に行く相手を探していた女子がいた。しかも、全員いつも仲良くしていた男子と一緒に行きたいと思っていた。しかし、彼は“花火大会には行かない。”と宣言したため、
周囲の女子達がだれか相手がいるのではないかと勘ぐったのだ。その結果、日頃から関わりのあった夏菜子に矛先が向いてしまったのだ。
もちろん、彼女は人混みが苦手だったため、花火大会もお祭りもどこも行ったことはなかった。
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