偽り姫の仮護衛!? ワンコ系少女騎士はワケあり主に(密かに)溺愛されています
真山 空/ビーズログ文庫
序章
「女の子が泣く姿の、どこが
悲鳴を上げた彼らは「
「品性
立っていたのは、マローネよりも少しだけ年上に見える、
幼いマローネでさえ、ハッとするほど
「あなたたち、この王宮庭園がなんのために開放されているのか分かってる?」
水が入っていただろう
そして、細い
「王宮庭園に貴族の子どもたちが連れてこられる理由は?」
「そ、それは、将来を考えて、社交の練習を」
少年たちのもごもごとした答えに、少女はこくりと
「そうね。それなのに、あなたたちはなにをしているの?」
「え?」
「貴族の
明らかに馬鹿にした口調になった少女に、少年たちが
「こいつは、
ここ、王宮庭園は、貴族の子どもたちが集まる小さな社交場だ。マローネも、
それどころか、母が旅の
マローネがこれまで社交場で見てきた反応は二通り。この、とりわけ意地の悪い三人組に同調するか、見て見ぬふりを決め込むかだ。
しかし、少女の反応は、そのどちらでもなかった。
「自分たちの顔を、一度鏡で見てみるといいわ。品性の
「お前、こいつを
「
冷たい声だった。その表情も、声も、全てが
「今すぐここから立ち去りなさい。
とても強く堂々とした態度に、少年たちは
「もう
打って変わった
「さあ、立って?」
ようやく、マローネは気がついた。彼女は自分を助けてくれたのだと。
「あの子たちが
おずおずと手を重ねると、彼女はマローネを立たせてくれる。そして「行こう」とそのまま手を引かれた。
「あまり知られていないのだけど、この庭園、奥にも小さな
「……マローネ、です」
「マローネ! うん、かわいい名前ね。あなたに似合っているわ」
花が咲いたような
「……さっきは、あの……ありがとうございます」
「当然のことをしただけよ。女の子を泣かせて楽しむなんて、最低だもの」
「……仕方ない、です。聞いたでしょう? わたしのこと……」
母が芸人一座の踊り子。それは貴族の中では馬鹿にしてもかまわない
初日にあの三人に目をつけられ、以降見つかるたびに散々言われてきたのだから。
だが、少女は眉をひそめた。
「よその家のことを
まるで自分が悪く言われたかのように怒りを
「でも、わたしは泣き虫だから、なにを言っても馬鹿にされるし……」
「嫌なことを言われたら、悲しくて泣くのは当たり前。たとえ親が偉くても、仮に悪人であったとしても子どもには関係ない。だから言い返すのも当然。堂々としていていいの」
一度は止まっていた
「ごめんなさい、
「
「お礼なんて……」
少女は照れたように、はにかんだ。それから周囲を見回し、
「マローネ、私……サフィっていうの。――お友達になれないかしら?」
強くて綺麗で優しい彼女に、マローネはあっという間に
サフィとの待ち合わせは、決まって庭園の奥にある秘密の場所。ガゼボと小さな花壇があるだけの静かな場所で、マローネはいつの間にか彼女を「サーちゃん」と呼ぶほど親しくなっていた。けれど、会うのはいつもふたりきり。マローネはそれが少しだけ不思議だった。サフィほど
一度だけマローネから「他の子と話さなくてもいいの?」と
それは、いつも通り、ふたりだけで遊んでいた時だ。
ガゼボの中で、サフィは
「……これじゃあ、ダメね」
失敗だと気付いたサフィも、
「でも、選んだ石の色はとってもかわいいよ。サーちゃんに似合う!」
「……ううん、これは自分用ではなくて、人に
「ふーん……サーちゃん、その人のことが好きなんだね」
少しだけ
「ええ、そうなの! いつか彼にあなたのことを
サフィの口から初めて聞く、自分以外の親しい存在に
「完成したら、マローネも大切な人に贈るといいわ!」
しかし、そんなサフィの言葉が実現することはなかった。ふたりだけの小さな庭に、大勢の足音が踏み入ってきたことで、台無しになったのだ。
「こちらにいらっしゃったのですか、サフィニア様」
その途端、サフィの表情が
「マローネ! こちらへ来なさい!」
「でも、サーちゃんと……」
「なんて口を! どうか、娘の非礼をお許し下さい!」
友達の名前を口にしただけなのに、父に常にない
「あのお方は、サフィニア様。このストリア王国の王女様だ。お前ごときが口を
父の顔色は悪く、表情には
「黙っていてごめんなさい、マローネ」
人壁に
(サーちゃんが王女様でも、わたしたちは友達だよね? 親が偉くても関係ないって、サ ーちゃんが教えてくれたんだから……!)
ようやく許しが出て、王宮庭園へ向かった時にはもう、サフィの姿はなかった。
けれど、いつかまた必ずここで会えるはず……そう信じて、何日も待ち続けていたある日、マローネはついに花壇で待ち人を見つける。
「サーちゃん!」
喜び勇んで
「そ、それなら、違う場所で会おうよ! わたし、サーちゃんに会えるなら、どこにだって行くから!」
必死の提案も、首を横に振られる。その一方的な
初めてできた友達と、もう会えないなんて考えたくもない。だから、マローネはどうにか引き留めたくて、必死に言葉を探した。しかし……。
「さようなら、マローネ。あなたとお友達になれて、とても楽しかったわ」
決定的な別れの
不意に、サフィがマローネの手を
こんなことになる前、サフィが
「サーちゃん、これ……どうしたの?」
不器用なサフィが作ったとは思えない
「……あげる。……私のこと、時々でいいから思い出してくれるように」
そして、マローネが口を開くより先に、走り出してしまう。
今の声は、一ヶ月前に
このままでは、二度と会えなくなってしまう。そんな予感に
「会いに行くから!」
サフィがどんなに高貴な身分でも、どこにいたとしても、
その場にひとり取り残されたマローネは、決意を込めて
「サーちゃんみたいに強くなって、会いに行くから。待っててね」
この別れから三年後、王女サフィニアは行楽に向かった先で事故に
マローネは
そして、さらに五年の月日が流れた――。
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